第27話記憶の海の岸辺にて
肉体の、古びたスイッチを何度も押そうとするけれど、叩き疲れた指先は痺れ、もはや応答することもない。記憶の海の底に蓄積した罪を拾い集めて首飾りにして首にかけ、その一つひとつに刻まれた罪状を呪文のように唱えても、鴎ばかりが鳴き交わすこの地で聞く者もおらず、風にちぎれて消えてゆく。やがて砂浜を踏み締める音とともに男が私に迫り、無言で首飾りをその手で掴んで海へと投げ捨て、血の色に染まってゆく海をふたりで眺めていた。どこから来たのかと問う私に、水平線の彼方から、と言葉少なに応じて、それきり沈黙が流れる。ここは静かだな、海も凪いで。この果てでは諍いばかりさ。男は新旧の傷跡を頬に、腕に刻んでここまでたどり着いたのだった。左足には金属製の義足が取り付けられていて、それを片手で抱えて男は笑う。この海から生まれるはずの鯨が、まだ生まれない。生命は、とうに息絶えたよ。海の向こうでは。罪を背負って生まれる命があるとすれば、それは災厄そのものでしかないのだろうか。祝福したい、それでも、生まれることを、私は。うまく言葉を紡げないまま、やがて月が昇るのを待って、男とふたり、ひとり分の空白を置いて座ったまま海を眺める。男の傷に夜風がさわる気がして焚き火を
BGM:アニメ版BANANA FISHの自作のプレイリスト
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