第16話桜花の湖
ウクライナへ祈りをこめて
なんと申しましょうか、あなたのかたみとしてこうして手にした桜花のティーカップも、粉々に砕けてしまうような夢を見まして、遠ざかる船の汽笛を聴きながら、海へと散ってしまった書物の紙片をかき集めるように、あなたの日記の断片を集めてつなぎ合わせるのですが、あの日を境に途切れてしまった日々の面影はやさしいばかりでなく、しばしば表れる、自らの頭に銃口を向けるような筆致にふるえがはしりました。あなたが去ってからというものの、生まれ出た蝶たちの群れ飛ぶ空の彼方には戦闘機が行き来するようになりました。街に降り注ぐ爆弾を幻視するようになったのもちょうどこの頃で、外では子どもたちがはしゃぎ回っているというのに、その頭上に閃光が走るのを見ずにはいられないのです。乙女たちの聖歌が絶えたこの街も、いずれは海となってしまうのでしょう。あなたの眠る水底まで誘いこまれそうになるのを堪えて、代わりに小さな湖をティーカップに注いで見つめる春です。
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