第11話黒真珠国

ゲートキーパーがいたらいいね、私はひとりきり、海辺へ歩いて漁師に大丈夫かと訊かれてからちっとも変わっていない。入水できたらいいね、一歩踏み出す勇気があったらよかったね、その足取りがあまりにも重くて、海岸に立ち尽くして打ち寄せる波をずっと眺めていた。いつの日か、満潮の海に取り残されたこともあったね、竜宮城はすぐそこだったのかもしれない。海の底にあるという都で双六遊びをしてすごそうよ、花嫁にはなれない。あらゆる男という男たちを海月に変えて、残された女たち、女と男の狭間にあるものたちで暮らそうよ。珊瑚の冠、真珠の首飾りで着飾って、裸身にまとって踊ろうよ。夜も更けて月も傾き、やがてすべてのものが眠りにつくころ、私を抱いて、私に抱かれた女たちの雫だけで作ったヴェールを纏って、ひとりひとりの経血の血潮に染めて、この都の旗として、ゆらめく布に黒真珠を刺繍して、花の都にまさる国をつくろうよ。やがて滅びるまで交歓しつづけて、私たちの亡骸をサケビクニンが食べ尽すまで、書物に記して忘れないでいてね。

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