#6 蒼い旗を掲げよ

“viojassasti! shrlo is zantanascheu! farviles stoxiet farvil'i no'ceu!”


 歌声が聞こえてくる。

 力強く、何人もが歌っているその歌詞はやはり聞いたことがない言語であった。何かを訴えかけ、そして連帯を求めるその歌は言葉が分からなくても、心に染み入るものがあった。

 つまり、つまり…………


「俺死んでなかったのかよ!?」


 がばっと起きたところ、翠はソファーの上に寝かせられていた。周りを見渡すと先程までいた家ではなく、何処かよく分からない少し大きめの部屋に連れていかれたことが分かった。窓が一つもないために閉塞感を覚えるうえ、同じ町の中なのかすらもよく分からなかった。

撃たれた場所に痛みは感じない。手でさすったり、押し込んだりしてみるが、傷もなくなっているらしい。


(確かに撃たれたはずなのに……)


歌声は、翠が起きたことにも気づかずに続いていった。


“viojssasti! fe ydicel la lex. fqa es luarta elmo da.”


“Snerien ladirccosti! verxen nyrtatasti! Sysnulustan es klantez co'd axelixfantil.”


“Lecu text blir'erchavil faller siburl'd snenik. Ispienermedarneust shrlo da enomionas!”


 なるほど、歌声に込められた連帯感が熱気として伝わってくる。歌っている歌詞は全く分からないが。


 翠には身寄りがいない。そりゃあ、異世界なのだから家族も知り合いもいるはずがない。それは当然として、異世界転生作品の主人公なら俺はすでにチート能力を駆使して、自分好みのハーレムを作り上げてウハウハになっているはずではないか。


 だが、現実はそう甘くないようであった。


 起き上がってみると、横にシャリヤがいた。ソファーに寄りかかって、床にぺたんと座って、顔を伏せて寝ている。その銀色の髪は艶やかな光を放って、ソファーの曲面に沿って垂れていた。おかしい、ハーレムとは何だったのか。

 可愛い彼女の様子を観察しているうちに、歌を歌っていた集団の方から男が一人歩いてきた。


“Salarua, xij. Cene co riejiel?”


「あ、ええっと……。」


 だめだ、全然何を言っているのか分からない。多分、最初の「ザラーウア」というのは挨拶のようなものだと思われる。黒髪の少女がシャリヤを訪ねてきたときにも言っていたからそんな感じだろう。

 外を見るともはや昼とも朝とも言えず、日が暮れていた。黒髪の少女は日中に来たのでこの挨拶の単語は「おはよう」や「おやすみ」のように時間を気にするわけではないらしい。

 翠が答えに窮していると、先程の黒髪の少女が横から男に近づいてきた。


Salaruaこんにちは, xij. cene niv si lkurf lineparine.”

“Harmie? Cene niv lkurf lineparine mal si esである lanerme ol et?”


 男は翠の方を一瞥し、黒髪の少女に尋ねた。


“Niv, Si esである waxundeener zu ci'st lkurf.”


 黒髪の少女はシャリヤを指さして言った。何の話をしているのかよく分からないが、多分俺について話しているのだろう。

 シャリヤはといえば、まだソファーにもたれてぐっすりと寝ている様子であった。

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