#5 俺は異世界転生作品の主人公だぞ
“Cuturl ol reto fai dexafel dea!”
男の怒号が家の外から聞こえてきた。
黒髪の少女は、シャリヤと翠の頭をジェスチャーで下げさせながら、窓の脇から外側を覗いて様子を見ている。依然、銃声と思わしき音と爆発音、悲鳴と怒号が混ざり合って聞こえてきていた。
空気がバリバリと振動し、窓がおどろおどろしい音を立てて割れる。走って逃げているのか、それを追いかける兵士なのか分らないが、近くを多くの足音が通り、そして、少しして静寂が訪れた。
散発的な銃声と爆発音はいまだ続いている。黒髪の少女は、外を確認しながら、逃げ出す機会をうかがっているようだった。
(ただごとではないな……)
そう、ただごとではない。
窓から見える遠くの街の風景は異世界にしては味気ないものだった。ガラス張りの高めのビルが幾つか建っているのが見えるし、ファンタジーらしくもなく道路は綺麗に舗装されている。それも古代ローマのように石で舗装されているのではなく、アスファルトで舗装されているように見える。そこに長年使われているのか
何が起こっているのか、誰が敵で味方なのか分かるはずもない。当然地球なら世界の情勢から大体の見当がつきそうなものだが。
地球でこんな目にあえば命を守れるかどうかも、運動経験の少ない翠にとっては疑問なところである。銃弾を受ければ、即死するかもしれない。地球に帰って異世界で膝に矢を受けたなんてギャグは絶対に通用しないだろう。
そもそも、帰れる保証というものはないのだが。
彼には変な安心感と自信があった。
つまり、こういうことである。
(そもそも、異世界転生作品の世界なんだから主人公である俺が死ぬことはないだろ)
というわけで、別に何があろうと大丈夫という変な自信があった。黒髪の少女もシャリヤも怯えて、隠れているように見えるなかで、翠は一人だけその変な自信に胸を張って、事の成り行きを見つめていた。
いくぶんか時間が過ぎ、外が静寂に包まれて、黒髪の少女も外を見て安全を確認していた。どうやら、外に出ても大丈夫なようであったが、もちろんこれからどうすればいいかなど分からない。とりあえず、黒髪の少女についていくほかなかった。誰が味方で、誰が敵かは自分には分からないが、彼女たちにはきっと分かるだろう。
そんなこんなで、家から出て街に向かおうとしていた時であった。
“Jei! mili! Shrlo milion xesniepins ledyd'i!”
後ろから大声で怒鳴られる。黒髪少女もシャリヤもゆっくりとそちらの方を向くとそこには黄土色の制服らしきものに身を包んだ一人の男がおり、こちらに銃を向けていた。
驚いた翠はすぐに両手をあげた。交戦の意思がないことを示すためであった。だが、男は一瞬驚いた顔をした後、怪訝な様子で翠を眺めていた。だか、翠の様子を見て少し経つとイライラしたような顔で、銃を翠に向けた。
“Jei! xesniepins ledyd! xesniep xleanertnir'l!”
何を言っているか全然分からないので振り返って、シャリヤに助けを乞うが、何も答えてくれない。
両手を挙げたまま、男に向き直ると、男は引き金に指を掛け翠に向けた銃を構え直した。
“
そう男が言い放った瞬間、引き金が引かれた。鈍い銃声と共に銃弾が放たれる。当然銃口は、翠に向けられているので、銃弾は翠に向かって放たれた。即ち至近距離からライフルで撃たれたのである。
シャリヤも黒髪の少女も唖然としている。撃った方の兵士の男は茫然自失という感じで、銃を構えたまま微動だにしなかった。
「……」
「……」
本当に撃たれたのか分からず、翠も撃たれたと思わしき足を手でさすってみる。触れた指が紅く染まるほどに、血が出ていた。
「――なんじゃこりゃぁあ!!!」
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