第4話 辞める

既に私の業務がシステム化に伴って減少傾向だった頃だった。私は、今までずっと勤めてきた会社を寿退社する事になった。正直、私の業務「事務職」は今後も人工知能の進化に伴い減少していく事だろう。そうじゃなくても、私は事務の仕事が出来なかった。


こうして、私はまた一つ何かから逃げてしまった。結婚というイベントを通じて、仕事をする事からまた逃げたのだ。私はこれから先も、ずっと人生を通して何かに逃げ続けなければならないのだろうか?いや、違う。これから先は、結婚して子供を産んで生涯を通して夫に尽くすのだ。


結婚して仕事を辞め、毎日家で過ごす日々が続いていった。家に毎日いても、そんなにやる事など特に何もなかった。仕事を辞めた頃には、街コンイベントの仕事も、婚活を終えるにつれ少しずつ休むようになっていった。私が家で行っている事といえば、本を読む、昼寝。


ぼんやりベッドで寝すごしながら、考える。私はずっと何がやりたかったのだろうか。このままじゃいけない。そうだ、資格取得でもしよう。とっさに思い浮かんだFP3級の試験を申し込み、ガムシャラに勉強をスタートする。そして、試験が終わるとまたやる事が無くなった。


そしてまた、ベッドに横たわり考える。このままの生活を続けていたら、夫と私だけの生活の繰り返しのままだ。夫は真面目だし、私の事を大切に思ってくれるし不満などない。それでも、夫がいない間の退屈な日常を何とか変える事は出来ないのだろうか・・・。


ふらふらした足取りで、ハローワークに出向く。20歳の頃、わずか1ヶ月でリストラされた時によく行った場所だ。いつも、私にはここに来る人が全て真っ青な顔に見えたし、この世の終わりのような顔にも見えたのだ。きっと、それは当時私自身がそうだったから、他の人も同じように見えていたのかもしれない。


ハローワークの玄関には、沢山のチラシが置いてある。「就職支援セミナー」「職業訓練案内」などが溢れんばかりに置いてあり、あまりのチラシの多さに探す事も躊躇する程だった。


職業訓練。そういえば、友人が言っていたっけ。自身のスキルアップにも繋がるし、就職もしやすくなるって。このままいつまでも家にいて、ぼんやり何もせずにいてもしょうがないし。私一人で就活なんてした所で、大して良い仕事など見つけられる気もしない。


ついつい、前の職場の条件と比べては落胆する事も多そうだ。きっと、この癖は長年の婚活で不必要にも培ってしまった能力のようにも思う。ああ、なんでこんな不必要なスキルばかり身についてしまったのかと思うと深いため息がどっと出た。

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