第8話 クレイジーキャット

 いの一番に飛び出して、いの一番に吹き飛ばされたのは黄色に黒のストライプが入ったアーマーのスタンであった。


 彼は様子を窺い、必要ならばサポートに回ろうとしていたスパイクとセブンズの合間を通過して、タンクマンを修理しているナタリアに危うく激突しそうになりながら、しかしタンクマンには激突して跳ね上がり、そのまま機体の影に墜落する。


「……スタン、死んだのか?」


「……面白くねえぞ、スパイク、この野郎……」


 スパイクの冗談にスタンから返事の通信が帰って来た。彼はセブンズと頷き合うと、同時に駆け出してウォーヘッドへと詰め寄った。


 ミュールはウォーヘッドの指示で宙へと浮かび、そして放たれた彼の右フックを躱したスパイクがまず彼の腹部へと反撃の右フックを叩き付けるが、がちんと鉄を殴った様な音が響き効果は無い様だった。だがすぐさまスパイクを踏み台にして跳び上がったセブンズが勢いを乗せた打ち下ろしをウォーヘッドの顔面へと見舞い、これには如何なウォーヘッドの耐久力を以てしてもその首が大きく捻じれた。


「――お終いか?」


 だがダメージになったかと言うとそうではないらしく、何事も無かったかのように首を元の位置に戻したウォーヘッドは振り上げた両手を頭上で組み合わせ、鎚の様に振り下ろす。


 間一髪二人はそれぞれ向かい合うように半身になって縦の軌道である彼の攻撃を避け、反撃として二人掛かりでウォーヘッドへと拳の連打を打ち込み続ける。


 鉄を打つ甲高い音が繰り返し木霊する中で、しかし件のウォーヘッドは微動だにしなかった。


「クソッ……この……ぐあっ!!」


「セブンズ! こいつ……っぐぅ!?」


 そしてまずはセブンズが彼の拳を腹部に貰い弾き飛ばされ、続いてスパイクの拳を受け止めたウォーヘッドは彼の腕を捻じり上げた後、悲鳴を上げるスパイクの首を鷲掴みにし持ち上げた。


「放っておいてくれ。ミュールは唯父親が欲しかっただけなのだ。君ならば分かるだろう、スパイク。君も”父親”なら――」


「なん――テメエどうしてそれを……!?」


「君は私を唯のメタルの化け物だと思っているようだが、そうでは無い。私をそうさせているのは君たち人類の暴力がそうさせるからだ。本質はそうでは無い。だから、放っておいてくれ――ッ」


 直後、ウォーヘッドの言葉を遮り、連続した爆発が彼諸共スパイクすら包み込んだ。だがそのスパイクはすぐにその後爆炎の中から放り出されてナタリアの元まで転がって行く。


「なんなの……パパをいじめるやつは誰!?」


「ハァーッハッハッハッハァ~ッ!! 苦戦してるみてえじゃねえの、なあスパイキー!! クレイジーキャット、”イヨ”様の登場だぜ!?」


 ミュールが見上げた空には、機械の翼を生やしたメインクーン程もある猫がロケットランチャーを担ぎ飛んでいた。


 イヨはそのままスパイクの元まで飛んで行くと滞空し、得意そうな顔で彼を見下ろす。浮かべた笑みは完全にスパイクの事をなめ切ったものであった。

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