第6話 転移

 オーバーサイクフューリーの力は絶大であった。嵐を呼び、稲妻を操り、あらゆる物を破壊する。


 ウォーヘッドは危険を察知し、ミュールを肩から降ろすと単身で彼女に挑む。


 礫を物ともせず、稲妻を跳ね除け、破壊光線サイクブラストを受け止める。ミュールのバックアップを受けたウォーヘッドは魔力に対しても高い抵抗力を持つものの、フューリーの魔力は今やミュールを凌いでいた。


 破壊光線を押し退けながら進むウォーヘッドではあったが、その白銀の体躯は徐々に赤熱を始め、表面を流動している金属体が沸騰していた。


「パパ!!」


「消え去れ――!!」


 溶け出した体躯の一部が地面へと零れ落ち、焼き付く。いずれウォーヘッドは蒸発してしまうだろう。


 勝利を確信したフューリー、しかし彼女の額に一発の弾丸が命中し、その首が大きく仰け反った。


「……忘れてもらっちゃ困る」


 最新鋭の装甲兵器に対する武器として開発されたアンチマテリアルライフル”エンドマークIII”。パワーアシストありきで開発されたこれの威力は最早人に向けて使う範疇を越えている。スパイクはそれでもこれしかないと判断した上で、これをフューリーに向けて放った。


 だが、それを受けたフューリーはすぐまた首を元に戻し、邪魔をしたスパイクへとその魔力光の溢れる瞳を向けた。


「マジで……生きてんのかよ。くそったれ!」


「いいわ、次はあなたを喰らって――」


 再びスパイクがバイザー内の照準に注目した時、フューリーの体が大きくくの字に折れ曲がった。それをしたのは赤熱した拳を振るったウォーヘッド。スパイクに気を取られたが故に僅かにブラストの出力が不安定になった隙に彼はそれを押し切って彼女を間合いに捉えたのであった。


 派手に吹き飛び、地面を転げ、跳ね回りながらビルの壁面に激突したフューリー。


 赤熱した体躯が外気に冷やされ、じゅうじゅうと音を立てて蒸気を上げるウォーヘッドは、感極まり駆け寄ってくるミュールを危ないと制止した。彼の体に風で舞ったぼろ切れが触れると、それは瞬時に燃え上がる。それを見たミュールは大気中の水分を集めて作り上げた水球を彼の頭上から落とし冷やしてやるのであった。


「――もう大丈夫だ」


「うんっ。さあ、ママをやっつけましょう、パパ」


 体はぼろぼろだが冷却の済んだウォーヘッドが差し出した腕に飛び付いたミュールは彼の肩へと移動し、破壊された瓦礫の中に埋もれているフューリーを指差した。


 ウォーヘッドはフューリーへと歩み寄り、尚も抵抗しようとする彼女へと拳を叩き付ける、悲鳴とも呻き声とも取れる様な声が彼女から漏れる中、ミュールは更なる攻撃を彼へと懇願した。ウォーヘッドはそれに応え、何度も拳をフューリーへと打ち付ける。


 次第に彼女の体から魔力のオーラが消え、それはオーバーサイクフューリーが解除されたことを示していた。今ならば殺せる筈だとミュールが魔法を行使しようとしたが、ウォーヘッドはそれを制止し、自らがそれをすると告げ、拳を振り上げた。


「――ストップだ」


 そんな彼を背後から羽交い絞めにしたのは、”タンクマン”と呼ばれる人型をした搭乗型パワードスーツに乗り込んだセブンズであった。


「もう彼女はグロッキーだ。身柄は俺たちが預かる。ついでにお前達の話も聞かせてもらいたい所なんだが」


 そしてスパイクとナタリア、スタンも集合し、それぞれが銃口を二人に突き付けながら、スパイクが説得を試みる。だがミュールにその気は無い様だった。


「じゃましないで! あなたたちもウサギさんに変えてしまうわよ!? パパ、この人たちもやっつけて!!」


「パパァ!? っておいセブンズ! しっかりしろ!!」


「何て力だ……!」


「……ちょっと待ってスパイク、地面が!?」


「何――」


 タンクマンの馬力は戦車を真正面から押し返せるほどなのだが、ウォーヘッドはそんなタンクマンを振り回し、引き剥がそうと暴れ始める。徐々にマニピュレーターによる拘束が解かれようとする中、突如彼らの足元に転移門が開き、一瞬の内に彼らはこの場から居なくなってしまう。


唯一残ったのは血塗れでズタボロの魔女ベアトリクスのみ。


「……覚えておきなさい。ミュール――」

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