第十一章 悲嘆なる結末の先 第二話 リリアの心

リークとリオメルはレーミアの屋敷に到着すると、リオメルの部屋に入る。


「これありがとう、とても温かかったですよ。

この件は訓練が終わるまで伏せておきましょう、支障をきたすといけませんしね」


そう言うとローブを脱ぎ、リークに差し出す。


「そうだな遅くなって悪かった、君はもうゆっくり寝てくれ」


リークがローブを掴もうと手を伸ばす。

しかし掴む瞬間にリオメルがローブを自身の胸に引っ込める。


「......なに?」


リークがポカンと見つめると、リオメルがじーっとリークを見る。


「私だんだんお前の事がわかってきたような気がします。

今お前君はもうと言いましたよね、まるで自分はまだどこかに行くみたいな言い方に聞こえるのですが?」


「い、いや......まぁ...な」


リークは苦笑いでぼそぼそ答えると、リオメルの目付きが険しくなる。


「今日はもうやめなさい、明日の夜なら私も付き合いますから」


「駄目だ危険だから僕一人じゃないと」


「するとネルストにでも行くつもりだった訳ですね。

はぁ...とにかくこれは返しません、今日はここで睡眠をとりなさい」


リオメルはローブをもう一度自分の肩にかけると、机の前の椅子に座る。

荷物から紙を取り出すと、机に向かい何かを書き始める。


「えっと......」


リークが困って呆然と立っていると、リオメルがベッドを指差す。


「何してるの、早く寝なさい。

私は今日の事記録してから寝ますので先に寝ていなさい」


「君床で寝るつもりじゃないよな?」


リークが困ってリオメルを見ると、

リオメルはめんどくさそうな顔で少し声を大きくする。


「もう!だからお前が先に寝てって言ってるの!」


「あ!そういう...はい!おやすみなさい!」

リークが慌ててベッドに寝転ぶと、壁際の端ぎりぎりまで寄ってから壁際を向いて横になる。


「......リオメル...今日はありがとう...」


疲れからかリークは横になるとすぐ意識が薄れていく。

しばらくしてすーすーと寝息をたてはじめると、リオメルがリークの肩越しに顔を覗きこむ。

「かわいい寝顔、まるで子供ね......私も寝なきゃ」

リオメルはリークの隣に寝転ぶと、掛け布団をリークと自分に半分ずつかけ目を閉じる。


ごちっ


不意におでこが何かにぶつかり、リークは目を覚ます。

うっすらとぼやけた視界がはっきりしてくる。

目の前に目と鼻と口が......おでこがくっついて...

そこまで認識した瞬間、リークはさっと顔を離す。


「んん、痛いわね......今の何ですか?」


リオメルがゆっくり目を開けるとボーッとリークの目を見つめる。


「すいません顔ぶつけましたか?」

リオメルがゆっくり体を起こすと小窓の方を見る。

「もう朝なの?...眠い......」

そう言うとリークの方を向き、目は開けたままバタッと布団に倒れる。


「あ、ああ一応言っとくけど何もしてないぞ」


リークが小声で話しかけると、リオメルの視線がこちらに移る。


「信用できなかったら隣になんて寝ませんよ。バカですか?」


「そ、それならいいんだけど...」


「気持ち良さそうに寝ていましたね。さてと、そろそろ仕度しましょう?

朝食に間に合わないわ」


リオメルがベッドから立ち上がると、ゆっくり振り返る。


「何をしてるのですか?お前が早く出ていかないと着替えもできないではないですか」


「ごめん!先に食堂行ってるから」


リークは慌ててベッドから降りてローブを羽織ると、出口へ向かう。


「まだ少し早いでしょう?廊下で待ってて、すぐ済むから」


「それはそうだけど...わかったよ」


リークは廊下に出ると、そっとドアを閉める。

廊下はひんやりとしていて、まだ薄暗い。

耳を澄ませていると、リオメルの隣の部屋からコトコトと音が聞こえる。


ガチャっと二つのドアが同時に開く。


「お待たせしましたね。

ん?何かありましたか?」


リークが答えるより先に、隣の部屋から現れた人物が声を出す。


「おはようございますリオ......あの、リークさんのお部屋は一階でしたよね?...なんで」


隣の部屋から出てきたエリヌスは怪訝そうにリオメルを見つめる。


「なんでもないですよ、さぁ食堂に向かいましょう。

あなたもね」


リオメルが笑顔でそう告げると、リークの背中をぽんぽんと叩きすたすたと歩き去って行く。

リークも駆け足でリオメルを追う。


「なんでもって...ちょっと待ってくださいリオー!!」


リークが階段を降りるリオメルに追い付くと、小声で話しかける。


「いいのか?そのままにしておいて」


「大丈夫ですよ、あの子が気にするようなことは何も無かったんですから」


リークとリオメルが階段を降りると、エリヌスも走って追い付いてくる。


「あーそうだエリ、食事の後で神官服を取りに行きましょう」


リオメルが後ろをちらりと見て言うと、エリヌスが慌てて答える。


「え?あ、はいそうですね...じゃなくてリオー!」


「うふふ」


リオメルとエリヌスがそんなやり取りをしていると、

食堂の入り口の扉につく。

リオメルが先頭で扉を開け中に入る。

次にエリヌスが、最後にリークも食堂に入る。


食堂に入ると奥から順に、シャルマ、エイラ、シルファ、アシェラが座っている。

全員がこちらを向くと、アシェラがリークを細目で見つめる。


「あれ?リークさんさっき部屋にいませんでしたけど、なんでそいつらと一緒に入ってくるんですか?」


シルファがアシェラの顔を見る。


「え?そうなの?」


「ええ、あたしここに来る途中リークさんの部屋に行ったんですけどもぬけの殻で...」


シルファがリークに視線を移す。


「それで?どこにいってたのよ」


リークが視線を泳がせていると、リオメルが席につきながら答える。


「私達は廊下でばったり会ったんですよ、探検でもしてたんじゃないですか?ねぇエリ」


「......あ、はい偶然...」


エリヌスがボソッと答える。


リークがエリヌスに小声でありがとうと囁くと、リオメルの隣に座る。


「そうなんだ、どこに何があるか気になってね...はは」


エリヌスもリークの隣に座ると小声で話しかけてくる。


「とりあえず話合わせましたけど...変な事してませんよね?」


「してないしてない!ちょっと話があっただけだよ」


リークも小声で返すと、エリヌスが怪訝そうに見る。


「わかりましたけど.......」


そんなやり取りをしていると、奥からカナリアが料理を運んでくる。


「皆様おはようございます。

朝食を済ませたら皆闘技場に集まるようにとレーミア様からご指示を受けておられます。

リーク様、シルファ様、アシェラ様は私と一緒に三階でレーミア様を待ちますので、朝食が終わりましても少々お待ちいただけますよう」


カナリアが料理を並べると、厨房へと戻っていく。


全員が朝食を食べ終わると、シャルマが先に席を立つ。


「さて、俺たちはそろそろ行こうかエイラ。

リーク、シルファ、あーそれと猪娘もまた後でな」


「うふふ」


シャルマとエイラが食堂の扉に歩いていく。


「誰が猪娘だこらぁ!あたしのほうが美女だっつの!」


アシェラが手を上げて叫ぶと、シルファがなだめる。


「では、私達も準備に向かいましょうか。

皆さん後程」


「あ、はい。皆さん後程です」


リオメルとエリヌスも食堂をあとにする。

カナリアが食器を厨房へと運び終えると、

食堂の扉の前に向かう。


「お待たせいたしました。では、三階へ案内いたします」


三人はカナリアに連れられて三階へと上ると、大きな扉の前にたつ。

カナリアの指示で中に入るとそこは、

中央に魔法陣を描いただだっ広い部屋だ。

魔法陣の真ん中には小さな椅子が置かれている。

カナリアは部屋の隅に置かれている長椅子に向かうと、端に座ってこちらを見る。


「皆様しばらくここに座ってお待ちください」


三人が長椅子に向かい、リークがカナリアの隣に、シルファ、アシェラも続いて長椅子に座る。


リークが小声でカナリアに話しかける


「あの時の事...」


「雑談はお控えくださいますよう」


カナリアは前を向いたまま即答すると口を閉じる。


三人はびくっとしてしばらく固まっていると、

扉が開きレーミアが現れる。


「さてさて、難儀なのはこちらの問題児達ですね。

これから姫君にはここに座ってもらいます。

若君とお嬢さんには、万が一暴走したときのため戦闘態勢でいてもらいます。

さぁ、姫君はこちらへ」


レーミアが歩きながら説明すると、椅子の隣に立つ。


「え...ええ、よろしくお願いします」


シルファが椅子に向かい歩いていく。


「ちょっとー、暴走ってなんです?まさか魔神になっちゃうかもしれないってことですか?

魔神となんて戦えませんよ?みんな死んじゃったらどうするんですかあ」


アシェラが口を尖らせて言うと、レーミアが困り顔で返す。


「わかりました。私は基本的には手を出しませんが、死者が出そうであれば何とかしましょう。

それでよいですね?」


「そういうことなら安心です!」


アシェラも長椅子から立ち上がると、刀に手を添えて構える。


リークも立ち上がり集光の剣を抜くと、構える。


「シルファ頑張って、いざというときは僕たちに任せて」


カナリアも立ち上がると陣の近くまで行き停止する。

シルファが椅子に座るとレーミアを見る。


「それで?私何をすればいいんですか?」


「リリアの力を引き出してください。

ただ、この魔法陣が姫君の意識をリリアの心の中に飛ばします。

その間リリアが姫君の体を使い暴走してしまうかもしれませんが、彼らがなんとかしてくれます。

そしてリリアの世界に行ったら、リリアと対話するのです。

まぁ最初は拒まれるかもしれませんが」


レーミアがそう言うとしゃがみ、魔法陣に手を触れる。


「さぁ姫君、準備ができましたよ」


シルファが目を閉じ魔力を集中させる。


「我が血を廻る祖の魔力、吹雪の姫が告ぐ。

白亜の魔山、その姿を見せる者なり」


シルファの体を覆うように、半透明の青白いローブが現れる。

髪が徐々に青白く輝きはじめ、冷気が部屋に充満する。

シルファの瞼がゆっくりと持ち上がっていく。

見開かれた瞳は、青白く輝いている。


「姫君、ご健闘を」


レーミアがそう言うと、魔法陣に魔力を放出する。

シルファの意識が完全に途切れる。



シルファはゆっくりと目を開ける


辺り一面白銀の世界


凍てつく風が吹き荒れている


遠くには白銀の山並みが見える。

どうやらクリスタルウォールの頂上にいるらしい。

辺りを見回すと、吹雪の中遠くを見つめ佇む人影が見える。

美しいその姿は、青白く輝く長い髪、青白く輝く瞳、真っ白なドレスを着ていておでこの端の方から一本の白い角を生やしている。


「会うのは二度目ね女王リリア......」


シルファがゆっくりと立ち上がる。


人影がゆっくりとこちらを向くと、険しい表情で話しかけてくる。


「あの時の小娘か...。

貴様...どうやってここに来たのじゃ。

下等種族の分際で、妾の前に現れおって。

失せよ、ここに貴様の求める物は何も無い!」


罵声と共に凄まじい魔力がシルファを襲う。

シルファの意識が徐々に薄れていく。



椅子に座るシルファの体が震え始める。


「いけませんね、若君!お嬢さん!リリアの意識が覚醒します!

準備してください!」


「え?シルファさん負けちゃったんですか?早くないですか?」

アシェラが黒鉄に手を添えると抜刀の構えをとる。


「急に言われてもどうするんですか!」


リークも集光の剣を構えると、腕輪が輝き始める。


「ご心配ありません、私も戦いますので」


カナリアがぶつぶつと詠唱を始める。


「姫君が意識を取り戻すまで戦い続けるしかないでしょう。

さぁ来ますよ油断しないでくださいね、魔神の中でも最強クラスと言われている女王ですから」


そう言うとレーミアは風に包まれ姿を隠す。


息をのみ見つめる三人


シルファはゆっくりと立ち上がるとこちらを向く。

青白い瞳がいっそう輝きを増す。


「愚かな魔法使いたちよ......永遠に眠れ」

















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