第十章 放浪の大賢者レーミア 第四話 集団戦闘訓練

突如として現れた放浪の大賢者は、リーク達に背を向けると大穴に向かい歩いていく。

「これはこれは......ブラハムがボルグを解放するとは...」

レーミアはぼそぼそと独り言を言うと、こちらに向く。

「この先はまだあなたたちには行かせられませんね。

一度私の家に来てもらいましょう、話はそれからです」

こちらに歩き寄って来ると、全員を見渡して続ける。

「ほう.....吹雪の姫に最強の剣士、それに神官の血族ですか。

豪華な顔ぶれですが...死線を越えているのは剣士だけでしょうかね...。

それでは国境線にある私の家に向かいます」

レーミアは淡々と告げると、ネルストの北の方へ歩き出す。


「待ってくださいレーミアさん!魔神を先に何とかしないと!」

しばらく固まっていたリークがレーミアに話しかける。


レーミアは立ち止まりゆっくりと振り返る。

「若君...今のあなたたちではとても敵う相手ではありません。

それはあなたが一番わかっているでしょう。

さぁ、急ぎますよ」

微笑みながらそう告げると、前に向き直り進んでいく。


「なんなんですかねーあれ。

あたし達が弱いみたいに言っちゃってますよリークさん」

アシェラがレーミアの後ろ姿を睨み付ける。


「でも...あの人の魔力は説得するには充分すぎる実力よ......まるで桁が違うわ」

シルファが掠れた声で囁く。


「そうですね、私も正直驚きました...あんな魔法使いがいるなど......」

「は、はい...エリも......」

リオメルとエリヌスも固唾をのみレーミアを見つめる。


「彼の言う通りだよ......今の僕たちではまずあの魔神には勝てない。

防ぐので精一杯だったけど...本当は攻撃に転じるつもりだったんだ。

だけど防御に全魔力を集中せざるを得なかった...」

リークが地面を見ながら続ける。

「行こう...僕はもっと強くならなくちゃ......」


アシェラがリークに近づくと、皆に見えないように手を握り囁く。

「あたしには魔力はわかりません......けどあなたについていきます」


「ありがとうアシェラ。

僕は必ず君を、皆を守れるようになる......」

リークも静かに囁き返す。


「そこはあたしだけでもよかったです」

アシェラが一瞬ぎゅっと強く握り手を離す。


「行きましょう、置いていかれますよ」

リオメルがすたすたと先頭をきって歩いていく。

エリヌスもリオメルについて歩いていく。


「リーク、あんまり無茶はしないでね。

今の魔法......魔力をほぼ使いきって......」

シルファが心配そうにリークを見つめる。


「わかった無茶はしないよ、さぁいこう」

リーク達はリオメル達に続きレーミアを追う。


サティアス大平原ネルストの北方を北東にしばらく歩き続けていくと、

右手の方角はるか遠方に、南に続く巨大な壁が見える。


「圧巻ですねー、あんなのが南にずっと続いてるなんてー」

アシェラが遠くを眺めながらつぶやく。


「どれだけ石の壁が続こうとも、あんなので防げるとは到底思えません」

リオメルが険しい顔で告げる。


「......そうかもしれないな」

リークは呆然と眺めながら、歩き続ける。


しばらく歩き続けていくと、前方の国境線に巨大な屋敷が見えてくる。

少し先を行くレーミアが立ち止まると、門が開き何者かが出迎える。

目を凝らして見ると、紫のフードに紫のローブ姿、茶色のローブを羽織る金髪の美女が見える。


レーミアに追いつくと、シャルマとエイラがリークに近づいてくる。


「遅かったな、ずいぶん逞しい顔つきになってるじゃないか」

「ほんとね、うふふ。

シルファも無事で、よかったわ」


「エイラ!会いたかったわ」

シルファがエイラに駆け寄り手を握る。


「なんなんですか?この色物二人は」

アシェラが胡散臭そうにシャルマを見る。


「ほう?魔力を感じない程度のやつが俺を愚弄するとは」

「その程度でよく吠えるわね、うふふ」

二人がキッとアシェラを睨み付ける


「まあまあ、紹介するよ。

こちらはアシェラ、大陸最強の剣士だ。

こっちはリオメルとエリヌス、二人は姉妹で神官だそうだ。

んで、こっちはシャルマにエイラ。二人とも僕の旅の仲間だった魔法使いさ」

リークが紹介を終えると、シャルマがアシェラの刀を見る。


「ほう、ダルニアの殲滅戦......一人で撃ち破ったという...」


「あんな斬り甲斐の無い連中のこと、いちいち覚えてませんけどね」

アシェラが素っ気ない態度で返す。


「さて、我が屋敷へようこそ。

司書から聞いてた話よりも四人も増えてはいますけど、早速実力の程を見せてもらいましょうか。

屋敷の中に闘技場があるので、ついてきていただけますかな」

レーミアは屋敷の中の闘技場へと皆を誘導する。


門をくぐると大きな家があり、正面に大きな扉が見える。

正面の道の途中左手に、脇道がありそこを通って屋敷の裏手に進んでいく。

屋敷の裏手に出ると、大きな円形の建物があり入り口から中が伺える。

中には何も無く、ただ円形の広場が拡がっている。


「では若君と黒鉄のお嬢ちゃん、シャルマとエイラ、神官の姉妹、それぞれ二人一組で戦ってもらいましょう。

集団戦の練度を測りたいので」

レーミアが指示を出す。


「私はリークとの方が......」

シルファが残念そうな顔になると、レーミアが微笑みながらシルファに耳打ちをする。


「姫君と若君は大丈夫ですよ。見ただけでわかるくらいです、それより姫君にはもっと過酷な訓練がありますので」


「過酷な訓練...って?」


「無論...リリアの制御......というより対話ですね。

力を制御するというより、リリアに精神を奪われずリリアの力のすべてを借り、引き出す訓練です」


「やっぱりそう...よね。わかったわ」

シルファが凛とした表情でしっかり返事をする。


「リークさんあたしとですってー、燃えますねーリークさん。

シルファさん......あたしの勝ちですよ?」

アシェラがシルファに後ろから抱きつく。


「今回だけ!今回だけは多目に見るわ、次はダメよ」


「シルファから離れなさい、消し炭にするわよ。うふふ」

エイラがアシェラを睨み付ける。


「へ?......あーそういう...ふふん、力ずくで奪い返してみなさーい」

アシェラがニヤニヤとエイラを見ながら、シルファの胸を揉む。


「ほう...エイラ、全力で奴を叩き潰すぞ」

シャルマはニヤリとアシェラを睨み付ける。


「私たちも、全力を尽くしましょうかエリ」

リオメルがエリヌスの頭を撫でる。

「わかった...リオ」

エリヌスが少し赤くなりうつむく。


「......やれやれ大変な事になりそうだな」


リークが肩を落としていると、シルファが隣に近づいてくる。

「リークと一緒がよかった...だけどリリアの事も何とかしたいの。

今度は一緒にできるといいな......」


「今まで二人で頑張ってきたんだ、シルファとならいつでもバッチリ連携できるさ」

リークがシルファの頭をそっと撫でる。

「そうね...ありがと」

シルファが恥ずかしそうにうつむく。


「あっ!こらーそこ!抜け駆け魔女め!」

アシェラが割り込むとシルファの腕を掴む。


レーミアがそっとリークの隣に来ると、耳元で囁く。

「全ての女性に対し優しく接していると痛い目をみますよ若君。

父君もそういう感じの人でしたね」


「はは.....忠告どうもありがとうございます。少し気をつけないとな」

リークは苦笑いで返す。


「では...三方に分散した後、開戦としましょう」

レーミアが全員に手振りで促すと、それぞれが三方に別れて距離を取る。


「勝敗は私が判定するものとする!

私の合図があった時点で戦闘終了してください!

いざ、開戦!」

レーミアが大声で叫ぶ。


「ではあたしが前衛を、リークさんは後衛で援護をおねがいします!」

そういうとアシェラが全速力でシャルマの組にめがけて走り出す。


「ちょっと待った!早すぎるって、って聞いてないか...」

リークもアシェラを全速力で追う。


「ほう?見ろエイラ、猪が真正面から突っ込んでくるぞ」

シャルマは笑いながら遠くのアシェラを見る。


「ほんとね...二人のお嬢さんは動かないようだけど...うふふ。

わたしが二人を警戒しつつ後衛を」

「猪はやり過ごし、先にリークを叩く。

この戦場で脅威はやつだけだ、いくぞ!」

シャルマは電光石火の神速でアシェラの方へ駆け出す。


「光の魔法は...厄介ね、うふふ。

水は重なり...写すは虚影、光を曲げなさい」

エイラが唱えると、シャルマとエイラのまわりにうっすらと水の膜が拡がる。


その頃、リオメルとエリヌスは動かずに様子を伺っていた。

「今突っ込むのは得策ではありませんね。

エリ、魔法で視界を錯乱させて距離を詰めましょう。

わたしが肉体強化魔法を。

体を鋼に、瞳に遠視の加護を」

リオメルが唱えると、二人の体の防御が上がり、視力が格段に上がる。


「空気の壁は汝らを惑わす」

エリヌスが唱えると、二人の姿が他の者の視界から消える。


「では、行きますよエリ。

しっかりついてきなさい」

「はい、リオ」


全速力で進むシャルマとアシェラが最初に激突する。


「毒霧よ、肉を喰らえ」

シャルマの回りから煙がたちこめる。


アシェラが黒鉄に手を添えると、すっと目を細める。

闘技場全体に凄まじい殺気が拡がる。


「これは......エイラ!奴の一撃に集中する!」

シャルマの後ろにエイラが着くと、詠唱を始める。


瞬間、アシェラが踏み込むと神速の突進で迫る。

「シャーユ曲刀宗派抜刀術弐式、破魔の太刀」

神速の抜刀で横一閃に斬り払う。

ザンという音ともに、エイラの魔法障壁とシャルマの毒霧が消え去る。


「な...!下がれエイラ!」


「あたしをみくびり過ぎたんじゃないですか?」

シャルマの直前まで近づいたアシェラがニヤリと笑う。


「く...そ、風よ...」


シャルマが唱える瞬間、アシェラがさらに加速しエイラに迫る。


「リークさん!」

アシェラが黒鉄を鞘に納め、再び構える。


「蜉蝣演舞陽ノ型、飛燕」

リークが集光の剣を抜くと、腕輪の光が剣を包み込む。

右手を後ろに引き、三日月の型で斬り込む。

剣から三日月の弧を描き、赤い熱を帯びた光がシャルマめがけて飛翔する。


「なに!?剣が!?」

シャルマは距離を取るべく大きく横に飛び退く。

「しまった!エイラ!」


「もう遅いですよ!

シャーユ曲刀宗派抜刀術、撃ち抜く黒龍の...」


「虚影は重なり...鏡へ誘う、万華鏡」

エイラが唱え終わると、アシェラの回りに鏡が現れアシェラを包む。


「な...なんですか......こ...これは!?」

アシェラの動きがピタッと止まり、左手で頭を抱える。


リークがアシェラめがけて走り出す、


「アシェラ!!!」












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