第九章 二人の成長 第五話 双子の神官の決意

二年前...


ノワール国から遥か北の地の森の中、小さい村と神殿があった。

村人が200人ほどの小さな村に、神殿を守る双子の神官二人とその父の神官長と母がいた。

ある日の夜中、神官長の父がそっと家を抜け出した。

それにたまたま気づいた姉のリオメルは、父の後を追い神殿に行った。

そこには巨大な大蛇が二匹。

父は大蛇と戦うも一匹に苦戦を強いられ、もう一匹に食い殺されてしまう。

恐怖に襲われ、ただやみくもに村へと逃げ帰るリオメル。

村に着いたリオメルが見た光景は残酷なものだった。

大蛇の群れが村人達を次々に殺していく。

逃げ惑う村人、その中には母と双子のエリヌスの姿もある。

エリヌスに襲いかかる大蛇を母が身を挺して止める。

エリヌスに逃げなさいと叫ぶ母。

エリヌスが涙を流しながら一直線にこちらに向かって走り出す。

リオメルがエリヌスを抱き締め、神殿での出来事を話す。

それを聞いたエリヌスは生気を失い立ち尽くす。

大蛇が母をも殺し、こちらに向かってくる。

リオメルとエリヌスは希望を失い、ただ大蛇の毒牙を待つのみだった。

そのとき、突然目の前の大蛇が爆炎で燃えさかる。

森の中から出てきたのは、漆黒のローブを纏う魔法使いと緑色のローブを纏う者たち。

漆黒の魔法使いが次々に大蛇を燃やしつくし、やがてこちらに近づいてくる。


「.....彼はノワールと名乗り、軍を連れて魔獣の討伐に来たと言ったわ。

そして、この魔獣を差し向けたのは古の魔法使いの一族だとも。

栗色の長い髪の茶色のローブを纏った女の魔法使いと、金色の髪の同じく茶色のローブを纏い、光の魔法を使う青年を捕らえて引き渡せば無念を晴らさせてやると...。

髪の色は違ったけどそのローブの紋章、間違いなくノワールが見せてきた紋章と同じ。

竜族をたぶらかし戦争をおこそうとしている...だから私が討伐してみせると言っていたわ。

これが私がノワールから聞いた全てよ......。

あなたを殺し、竜も殺す!

それが私のたった一つの生き方よ!」


リオメルが全てを語り、リークを睨み付ける。


「......わかった、自分の目で確かめるといい。

セイレーンにいけば分かるさ、何もかも。

シルファもういい、離してやれ」


「でも......、わかったわ」


シルファがゆっくり目を閉じると、氷が全て消えていく。


「大丈夫ですよ、何かしようとしたらあたしが斬り捨てますから」

アシェラが虎鉄に手を添える。


「リオ......何か話が変だ、セイレーンに行って確かめよう。

今思えばあの日タイミングよくノワールが現れたのも、違和感があるし」

エリヌスはリオの傍にいくと肩にそっと手を触れる。


「......エリがそういうなら......、だけど私は...もう......」

リオメルは手で顔を塞ぎ泣いている。


静かに風が吹き始める。

風に混じり、何か異様な気配が漂う。


「使えんガキどもめ」


不意に声が聞こえて、森の中から禍々しい魔力が近づいてくる。

漆黒のローブに羽根の首飾り。


「......クク、久しぶりだな里のクソガキ」


森の中から姿を現したのは、魔界士のギムリーだ。


「おまえ......この子達も利用したのか...!

家族を殺してまで...!」

リークが歯を食いしばり睨み付ける。


「あなたは...村をノワール様と一緒に村を救ってくれた......」

リオメルがそっと顔をあげてギムリーを見る。


「クク...救った?......ははははは!

邪魔な村を一つ消しただけのことだがな。

我らにとってあの神殿は邪魔なだけなのだよ、貴様らなんぞ...死に損ないのただの駒さ」

ギムリーはそう言いながら、地面に手をつく。

「喰らいつくせ、地獄の獣よ」

地面に魔法陣が現れ、その中から巨大な二つの角をはやした牛のような獣が出てくる。


「ゴォアアアアアア!!!」


魔獣は雄叫びをあげると、鋭い牙を剥き出して突進してくる。


「...そ......そんな......」

リオメルは放心状態でその場に崩れ落ちる。

「リオ!しっかりしなさい!」

エリヌスがリオの肩は掴むが、リオはなおも放心状態で虚ろな目をしている。


「させませんよー!

シャーユ曲刀宗派奥伝、闇夜桜吹雪」


アシェラが黒鉄を抜き、魔獣を向き構える。


アシェラの隣で何かがざわめく。


「うふふふ...可愛いお嬢さん、あなたはもう終わりよ」


地面に魔法陣が現れ、黒いローブの女が姿を現す。


「テムプスの賢者が告ぐ、時間よ...」


「そうはさせないわよ!

我が血を廻る祖の魔力、白き輝きは魔を退けん!」

シルファが黒いローブの女に魔法を放つ。


「...ちっ、あらその魔法陣.....白銀の創造者かしら?」

黒いローブの女がシルファの魔法をすっと避けるとフードが脱げ、ミラリカが姿を現す。


「...何のことかしら?

行って!アシェラ!」 

シルファが叫ぶと同時にアシェラが魔獣に突進する。


「はぁぁぁ!」

気迫と共に、魔獣の顔めがけて黒鉄を下から振り上げる。


「ゴォアアアアア」


魔獣が角を前にだし、黒鉄を迎えうつ。


キーン


「ははははは、そんななまくら刀で...」

ギムリーは上を向き笑っている。


「これからですよ...はぁぁぁ!」


上から斜めに魔獣の顔を斬る。


「ゴォアアアアアア」


魔獣が顔を左右に振り暴れる。


「まだまだー!」


魔獣の回りをぐるぐる回りながら連続で斬りこんでいく。


魔獣は雄叫びをあげながらもがく。


「......朱殷、四十四閃」


アシェラがチャキンと黒鉄を鞘に納める。


魔獣の足が全て分断され、地面に倒れ魔獣が沈黙する。


「な......貴様は...シャーユの黒い斬撃...!!!

なぜここにいる!セイレーンに向かっているはずだぞ!」

ギムリーが驚き、アシェラを見る。


「何言ってるのギムリー!

こいつはサラミアではなくてよ!」

ミラリカが叫ぶ。


「姐さんの弟子ですよ。あたしは

シャーユ曲刀宗派当主、朱殷のアシェラ」

アシェラが虎鉄に手を添え、ギムリーを睨む

「ここからはあなたの肉を斬らせていただきます」


アシェラの雰囲気がガラッと変わる。

殺気が周囲を包み込み、全員が固まる。

ジリッと踏み込みアシェラが虎鉄を握り構える。


「...アシェラ」

リークがアシェラの傍にいくとそっと肩に触れる。

「おっ?どうかしましたか?」

アシェラがピクッと肩を震わせ振り向く。

その瞬間周囲を包み込む殺気がすっと消える。


「ちぃっ!退くぞミラリカ、我々にはまだやることがある!」

ギムリーは自分とミラリカの足下に魔法陣出すと、吸い込まれていく。


「あら残念ね、また会いましょうね銀髪のお嬢ちゃん...うふふふ」

ミラリカも魔法陣に吸い込まれ消えていく。


二人が消えると静寂が包み込む。

その静寂をアシェラが破る。


「あーあ逃がしちゃったじゃないですかー、二人とも殺しておくべきでしたよ?」

「そんなこと...簡単に言っちゃいけないよ...」

リークが悲しそうな眼差しでアシェラを見つめる。


「......リークさん...」

アシェラがゆっくりと手をリークの頬に近づけていく。


「リークさん...お願いですセイレーンに同行させてください」

エリヌスが不意に声を出すと、アシェラはさっと手を下げる。


「このままじゃリオが......お願いです」

エリヌスはリオメルを抱き締める。


「......わかった。ただし仲間に危害を加えようとしたときは容赦しない」


「...ありがとう」















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