第九章 二人の成長 第四話 堕落神官リオメル

サティアス大平原を進みつづけ、森の入り口が見えてくる。


三人並んで一番右を歩くアシェラが歩きながら


「入り口が見えてきましたねー。このまま中に入りますか?」


「いや、一度ここらで休憩にしよう。歩きっぱなしだしな」

真ん中を歩く僕が答える。


「そうね、ちょっと疲れたかも。

結構な距離歩いたわよね」

一番左を歩くシルファが疲れた声を出す。


「では少し食事にしましょうか。果物を詰めてきましたので、皆さんも召し上がってください。

これは診療所の裏で育てていたウルムという木の果実で、すっごく甘いんですよー」

アシェラが座って大きな鞄から布にくるんだ果物を取り出すと、

短剣で細かく切り分けていく。


「美味しそうな匂いがするな、お言葉に甘えようかな」

リークは自分の鞄から大きい布を取り出すと地面に敷く。


「敷物ですか、ありがたいです。

ではリークさん、シルファさんも」

アシェラは敷物に座ると、果物をリークとシルファに手渡す。


「「ありがとう」」


「それにしても目の前に来てみれば深そうな森ね。

真ん中の大きい木もここからだと上の方しか見えないし」

シルファはもごもごと果物を食べながら大木の上を見つめる。


「そうだな、森の中はどうなってるんだろ。

今のところ魔力は全然感じないな......ただ...」


「ただ?何か気になりますか?」

アシェラがもごもごと果物を食べながらリークを見る。


「ああ...魔力もだけど生き物や精霊の気配、それに森羅万象の理すら感じないのは引っ掛かるな」

リークが入り口をじっと見つめる。


「そうね...森羅万象の理というのはわたしにはわからないけど、

生き物や精霊の気配くらいは感じ取れるはずよね」

シルファが食べ終わると、入り口を向いて考える。


「変な結界でもあるんですかね?まぁ大抵の結界は黒鉄で斬れますよ。

黒鉄は呪術も斬っちゃいますんでその辺は任せてください」

アシェラも食べ終わると布を鞄にしまい、鞄を枕に寝転ぶ。


「おい、こんなところで寝るつもりか?危険じゃないか?」

僕がアシェラの傍に寄ると肩を掴む。


「いやん、大胆なリークさんも素敵です」


「ち...違うって!」


「うふふふ。まぁ少し休みましょう?

多分向こうは気づいてますよーあたしたちの接近に。

リークさん魔力全然抑えきれてませんから。

打って出てくれれば楽ですしね、ふぁーあ」

アシェラは欠伸をするとリークに背を向けてスヤスヤ眠り始める。

長いスカートの切れ目から太股の真っ白な肌が見える。


「...ったく」

リークは目を逸らすように森の方を向く。


「何見てるのよへ・ん・た・い。

でれでれしちゃってほんと変態よね、ふん」

シルファがそう言うとリークに背を向けて横になる。


「...ったく」

リークは溜め息をつくと立ち上がり、森の方に向かって歩き始める。


森の入り口に近づくにつれて異様な空気が漂う。

目を凝らして見るが森の中は暗くて見えない

生き物がいる気配もまるでない

目を閉じ集中してみるが、葉が擦れる音すらも聞こえてこない


「進まずの森......こんなじゃなかったよな...」

リークはしゃがんで地面に触れる。

その瞬間ピリッと魔力に何かが引っ掛かる。


「...今何か......まぁいい後で調べるか」

リークは振り返り、二人のところに戻ると真ん中に寝転ぶ。

シルファの寝息が聞こえてくる、どうやら浅い眠りに入っているらしい。


「...何か...感じましたか?」

背を向けて寝たままアシェラがボソッと呟く。


「寝たんじゃなかったのか。何か違和感はあったけど...何かはわからないけど...」

「それなんですけど...今誰かに見られている......気がします、気のせいだといいんですが。

一応これを持っていて下さい。

何かが起きたらこれを思いっきり敵に投げると、音が鳴りますので」

アシェラがこっちに向くとリークの手を握り、

穴のあいた丸い玉をリークの手に握らせる。

「では」

アシェラがリークに微笑むと目を閉じる。


「恥じらいもなくグイグイくるな......」

ボソッと独り言を言うと空を見つめる。

眠気が襲ってきてゆっくり瞼が下がってくる。

目を閉じると意識が遠退いていく。



...リーク

光は使い方によって様々な力を見せるのよ

さぁその姿を...

敵はすぐそこにいるわ


...母...さん


「...母さん?......!!!」

リークはさっと起き上がると、森の入り口を金色に輝く瞳で凝視すると同時に握っていた物を全力で投げつける。


ヒューという音とともに玉が森の入り口近くまで到達する瞬間


ざっという音と同時にアシェラが黒鉄を握り全力で森の入り口めがけて駆ける。


「シャーユ曲刀宗派抜刀術弐式、破魔の太刀!!」


神速の抜刀で黒鉄を横一閃に斬り放つ。


ガシャーン!という音とともに空気の壁が壊れる。

すると森の入り口に横に並ぶ集団が姿を表す。

ざっと見たところ三十人ほどいるだろうか、真ん中には神官服を着た小柄な者がいる。

顔はマスクでまったく見えないが、目が合うとすっと目を細め神官服が叫ぶ。


「取り囲め!!!あの男を捕らえよ!」


「「「おおう!!!」」」


鉄の槍を持った男達がこちらに向かって走り出す。


「あれが獣殺しですか、雑魚には興味ありませんので!」

アシェラが全力で踏み込み、猛スピードで神官服に突進する。


「シャーユ曲刀宗派抜刀術。

撃ち抜く、黒龍の尾」


神速の抜刀で黒い残像を残しながら下から斬り上げる。


「右手に鋼を!」

神官服は凄まじい左脚の踏み込みで一気にアシェラと距離を詰めると、

握った右拳で黒鉄を突く。


キーーーーーン!!!

という音とともに両者が後方に飛び着地する。


「はいぃぃ?!素手ですか!!」

アシェラが驚き高い声を出す。


「なんと凄まじい斬撃...こんな剣士がいるとは...まずいですね...」

神官服もボソボソと呟く。

「みな!下がりなさい。

私はリオメル、貴様の名は?」

リオメルが合図すると、槍を持った男達が森の方へひきあげる。

「シャーユ曲刀宗派当主、朱殷のアシェラ。

全力で参ります」

アシェラがゆっくりと目を閉じて、腰にさしている虎鉄を握る。

「いきます...虎ノ門抜刀術一式、脚薙ぎ」

ざっという音と同時にアシェラが突進すると、虎鉄を抜き放つ。


「...脚に鋼を、右手に鋼を!」

リオメルはずっしり構え右手を突き出そうとする。

「...な!」

一瞬肩を震わせると、全力で地を蹴り後ろに飛ぶ。


ギャイーン


凄まじい金属音が鳴り響き、アシェラの虎鉄が空を斬る。


「...惜しかったなあ...今のを避けますかー。

なかなか手強いですねー」


アシェラがにやっと笑うと、虎鉄を前に構える。


「......ちっ、かすりましたか」

リオメルが歯を食いしばる。

足首あたりから血が流れ出す。

「エリ!今のうちに男を!」

リオメルが叫ぶと、森の奥から一つの影がアシェラを飛び越え着地する。

「...任せて」

低いトーンで呟くと、凄まじい脚力でリークに迫る。


「凍てつく魔山の風よ!」

隣を見るといつの間にか起き上がっているシルファが、エリヌスめがけて魔法を放つ。

氷の刃がエリヌスに迫る。

「万物はこの身に触れること許さぬ」

エリヌスが手を前に出し魔法陣を出すと氷の刃が左右に分かれて散る。


リークは瞳に光を宿したまま凝視する。

「......なるほど。

我に宿りし光の力、その速さは時を超える。

汝に纏う魔の加護を破り、光の籠で包み込め」

リークの全身から光が迸ると、エリヌスの前にあった魔法陣が消え去りエリヌスを光が包み込む。


「くっ...なに...これ。何も...見えない」

エリヌスが光の籠の中で呟く。


「よし今のうちにアシェラの加勢に!」

リークがシルファの腕を掴み立ち上がる。


「ええ。

我が血を廻る祖の魔力、白亜の魔山、その姿を見せるものなり」

シルファがゆっくりと目を閉じると冷気が包み込み、氷のローブがシルファを包む。

「森羅万象の力よ、我が脚となれ。

いくぞシルファ!」

リークが凄まじい脚力でシルファを掴んだままエリヌスを飛び越え、

リオメルめがけて落下する。

シルファがリークの前にさっと出る。

「さぁ、凍てつく魔山の風よ。

凍えるがいい、愚かな魔法使いよ」

シルファがゆっくりと瞼を持ち上げると。

瞳が青白く輝く。


「くっ!厄介なっ!」

リオメルが全力で右に飛ぶ。

リオメルを追いかけながら地面が凍っていく。


「逃がしませんよ!

虎ノ門伍式、空太刀!」

アシェラがリオメルの前めがけて虎鉄を斬り下ろす。


ヒュオー


空気を斬る音。


「....ちぃ!」

リオメルが斬撃の手前で急停止し、踏みとどまる。

その脚をリリアの氷が捕らえる。

上半身まで氷らせると、リリアの魔法が止まる。


「リ...リア...返して......もらうわよ...!」

シルファの青白く輝く瞳が消えていく。

「大丈夫かシルファ......」

リークがシルファを抱き抱えリオメルの前に着地する。

「...ええ、いけるわ」

シルファが腕から離れると、周りの男達を見、次々に脚を氷らせていく。


「貴様!やるなら私だけにしろ!」

首まで氷っているリオメルが叫ぶ。


「リオメル様ー」

「くそ!死にたくない」

男達が次々に喚きだす。


「抵抗しないなら殺すつもりはないわ。

あなたたちこそリークを捕らえろってどういうことよ」


シルファがリオメルを睨み付ける。


「貴様には用はない...そこの男と話をさせろ。

貴様の事はノワールから聞いているぞ。

竜族をたぶらかし、人間を殺させているそうだな。

それに竜族に戦争をけしかけて......私の家族も...!」

リオメルが涙を流しリークを睨み付ける。


「......ノワールの策か...、モルドールさんが言っていた通りみたいだな。

悪いけどそれは事実じゃない、僕は戦争を止めるためにセイレーンに向かうんだ」


「ぬかせ!貴様が差し向けたバシリスクの子の群れが私の家族を...!」

リオメルは歯を食いしばる。


「可哀想な人ですねー。ノワールが操っているバシリスクに家族を殺されて、貴方もノワールの操り人形ですか...。

リークさん、ここで始末しておきましょう。

この人はもう闇から抜け出せません」

アシェラが低く冷たい声で言い放つ。


「そのような嘘を‼貴様ら!」


「嘘なんかじゃない。

バシリスクの本体は天空の白竜が殺した。

僕たちもバシリスクに襲われた身だ、それに戦争を仕掛けてきたのはノワールだ。

海峡に進軍してきているのは海竜のレヴィアだぞ。

そのおかげでセイレーンが防衛線になってるんだ」

リークは真剣な顔でリオメルを見つめる。


「...そんな......はずは...ノワールは和睦の使者を出していると...」

リオメルは唖然となりリークを見つめる。


「リオ...少し...話聞いてみましょう?...」

光の籠が消えて立ち尽くしているエリヌスが静かにリークを見る。


「やれやれ、こっちも何がなんだかわからないんだぞ...」

リークが肩を落として頭をかく。


「まぁ少しずつお互いの情報を交換しましょう。

ただし、

暫くそのままでいてもらうわ」

シルファがエリヌスを見ると、エリヌスの脚も氷っていく。


「...かまわない...」

エリヌスはゆっくりと目を閉じる。


「...わかったよ...まずは君の話からだリオメル。

何があったか話してくれ」

リークがそう言うと、リオメルは下を向き


「...話すよ。マスクを取ってくれないか」


「わかった。

......お...んな?」


リークがマスクを取ると、美しい顔立ちの女性が露になった。




















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