第九章 二人の成長 第一話 剣の稽古 

「うん、今のところ至って健康よ大丈夫!」


「そうか、わしはまだまだ屋敷を守り続けねばならんからのう。

泉が湧いたことでしばらく来訪者が来そうじゃしのう」


お爺さんとサラが話をしている。


「......あのこが泉を?」


「そうじゃ、じゃがあの輝きはリーシアのそれと同じようでまるで違う。

リーシアの輝きは力強く猛々しい、じゃがあのこの輝き......それは世界を憂い嘆き悲しみ...それでも尚愛に満ちておる。

リーシアが死の間際に見せた最後の光......あれと同じように...」


「......そう...大丈夫よクヌ爺さん、あのこは強い。

それにお嬢ちゃんもね」


「あの二人を見ておると心がとても穏やかになるんじゃ。

では、そろそろわしは屋敷に戻ろう。

お前さんもあまり無理はせぬようにな」

お爺さんは立ち上がると出口に向かい歩き出す。


「あたしは大丈夫よ!

医療魔術師よ?すぐ治せるわ」


「......右手の震えを見ていれば分かる。

戦って来たのじゃろう?」

そういいお爺さんは屋敷を出た。


「...さすがね。砂漠の剣豪、サティアス国クヌエル国家騎士長殿」

サラは誰もいなくなった部屋で静かに呟いた。



「さぁーてどこに行きましょうかー」

アシェラはるんるんと笑顔で先頭を歩いている。

「...どこにって...蠍以外に何か食べ物ってあるの?」

シルファが後ろを歩きながら怪訝そうに聞く。

「蠍!?まさかあんなもの食べれませんよー」

アシェラ振り返り、後ろ歩きしながらシルファを見る。

「......え!?でも...」

シルファが言葉につまる。

「まさか最初に行った店があれだったとはー」

アシェラがにこにこ笑ってシルファを見る。

「...はは、まあまああんまりからかうなよ。

後で大変なんだから」

リークがシルファの隣を歩きながら苦笑いで制する。

「そうでしたねー、いいなあ仲良くて」

アシェラがにこにこ二人を見ながら、後ろ歩きを続ける。

「...ま...まぁそうね」

シルファが顔を赤くして目を逸らす。

「それよりもリークさん、剣を持っているというこは剣術を?」

「いや、剣術は習ったことがないな。

幼い頃にカゲロウと木剣で遊んでたくらいか...剣術とはいわないな」

「「カゲロウ??」」

二人が同時に聞き、リークを見る。

「ああ、里の大樹の根を守る精霊でね、カゲロウと言っていたよ。

いつも僕の相手をしてくれていたから、その真似事くらいはできそうだけど...ゆらゆらと僕の攻撃をを全て受け流してしまう。

一つ気になる事を言っていたな。

たしか...また獅子と戦いたいとか...」

リークがそう言うと、アシェラは考えるように

「受け流す......獅子と戦いたいか...。

おそらくカゲロウとはモーフィスの奇剣士では?

獅子というのはモーフィスで剣術を指南している師範のカガツという剣士の事でしょう。

もう二百年ほど前の話ですが、記録に残っていますよ。

モーフィス中立国家はノワール国からさらに東の大陸にある大国ですね。

モーフィスの奇剣士と呼ばれているのは、戦いの際に彼が名乗る事がなかったから誰も名を知らぬからだといわれていますね。

大陸最強といわれた剣士ですが...弟子を取らなかったようなので失われた剣術ですね」

アシェラはたんたんと説明する。

「へぇ...凄い人なのね」

シルファが感心していると、アシェラが続ける。

「彼があなたに剣術を教えたのは...なんとなく分かる気がします。

カガツはまさしく剛剣でした。

柔よく剛を制す。それが奇剣士の剣術だとしたら、

リークさんの柔軟な心に惚れたのでしょう。

それに、綺麗な瞳の輝き......」

アシェラが急に止まるので、慌てて立ち止まるが至近距離になると

「あたしは好きですよ」

アシェラがリークに微笑む。

「...ちょっと!どさくさになんてこと!」

シルファがアシェラの手を掴もうとする。

「いいじゃないですかー、勝負はこれからですよ」

アシェラはするっとかわして前に向き直る。

「はあ......なんの勝負なんだか...」

リークはめんどくさそうに二人のあとに続く。

「ちょっと待ちなさいよー!」

「嫌ですよー。リークさん、後で手合わせをお願いしますね!

失われた剣術を一度見てみたいもので!」

アシェラは駆け足でシルファもそれを追いかける。

「はあ......嫌なんだけど...まぁいっか」

リークは肩を落としながら二人を追う。



「ふぅー、美味しかったですー」

アシェラが満足そうに先頭を歩き、診療所の外の椅子に腰をかける。

「まさか本当にまともなお店があるなんて...」

シルファも満足そうにアシェラの隣に座る。

「蠍じゃなくてよかったじゃないか、また一緒に行こう」

リークが前に立ち、笑いかける。

「ああそうだ!姐さんに聞いてきますね。

一太刀手合わせできるように」

アシェラは立ち上がり、診療所に入っていく。

「ねぇリーク、あのこの事...どう思ってるの?」

シルファがリークを見つめる。

「へ?どうって?」

リークがポカンとシルファを見返す。

「リークさん!許可いただきましたよ!」

アシェラがサラを連れて診療所から出てくる。

「面白そうな話になってるわねリークー。

あたしも混ぜてもらおうかしら?」

サラはニヤニヤとリークの腕に抱きつく。

「ちょっと!」

シルファが立ち上がりサラの腕を掴んで引っ張る。

「いてて、こらこらわかったって。

じゃ、お姉さんはお嬢ちゃんに決闘をご所望するぅー」

サラはシルファに抱きつく。

「きゃっ!決闘って...なによ」

「......あなたが本当に人間達を変えられるかどうか...試したいのよ」

サラがシルファの耳元で囁く。

シルファがサラを引き離す、

「...いいわ。いつかはリークにも見せるつもりでいたし...受けるわ」

「いいですね!やりましょう!

こちらは剣でそちらは魔法で、面白いじゃないですかー」

アシェラの目がキラキラと光っている。

「まったくあんた本当に好きよね」

サラが呆れてアシェラの頬をつねる。

「さーて、最初から全力でいくわよー!

地は脚となり風は盾、火は刃となる」

サラが目を閉じ集中する。

どんどん魔力が上がっていく。

「リークさん、まずは勉強させていただきましょう」

アシェラがリークの手を引っ張り、少し離れる。

「仕方ないわね...」

シルファも目を閉じて呼吸を整える。

「...我が血を廻る祖の魔力、吹雪の姫が告ぐ。

白亜の魔山、その姿を見せる者なり」

シルファの魔力が上がっていく。

とどまることなく膨れ上がっていく魔力。

シルファの体を覆うように、半透明だが青白い氷のローブが現れる。

髪も青白く輝き、冷気で辺りを包み込む。

さらに膨れ上がっていく魔力。

シルファの体から水蒸気が煙となり湧き出ている。

「......これは驚いたわ...予想をはるかに超えてきたわね...」

サラが身構えると、シルファがゆっくりと瞼を持ち上げる。

「さぁ、魔山の凍てつく風よ...」

瞳が青白く輝き始めると、周囲を凄まじい殺気が包み込む。

「...いくわよ!」

サラが地を蹴ると、目に見えない速さで間合いを詰める。

炎を纏う拳を握り、突きを出す。

「......愚かな...」

シルファが呟くと、サラを睨み付ける。

サラが拳を引き、後ろに飛ぶ。

「......!風よ!」

シルファから放たれる冷気がサラに迫る前に風の壁が遮ると、

一瞬で凍りつく。

「......非力な魔法使いよ...永遠に眠れ」

シルファが右手を上げ、魔法陣を出す。

青白く輝く魔法陣、見たこともない複雑な模様をしている。

「......凄い殺意ですね...」

アシェラが静かに呟く。

「ああ、まるで別人みたいだ...」

リークも呟く。

サラの背後に氷の刃が現れると、背中めがけて襲いかかる。

「...こりゃまずいわね、くっ」

冷気がサラの体を縛り、体が思うように動かない。

刃が届くギリギリで片足で地を蹴る。

「ぐっ...!!」

氷の刃がサラの太ももに突き刺さる。

「サラ!!!」

「姐さん!」

二人が驚き叫ぶと、アシェラが飛び込んでいく。

「......終わりよ...愚かな魔法使い」

シルファの青白い目が光ると、サラに向かい冷気が襲いかかる。

「間に合わない!姐さん!」


「やれやれ何をしておる小娘ども」


すとんとサラとシルファの間にルーシュが現れると、片手で冷気をかき消す。

スッと一瞬消えるとシルファの背後に現れ、肩に触れる。

「小娘...むやみに力をひけらかすものではないぞ」

「き...さま...」

スッとシルファから冷気が消え、元の姿に戻ると地面に倒れこむ。


「大丈夫ですか姐さん!」

アシェラがサラに駆け寄る

「ええ、間一髪ね。ちょっと甘く見すぎたわね」

サラが貫かれた太ももに魔力を当てる。

「久しいのうサラミア。よもやお主これが何か分からずにいたわけではあるまい?」

ルーシュがサラを睨み付ける。

「ええ...絶対零度、氷結の女王でしょ?」

「知っていながらケンカを売るなぞ、自殺行為じゃな。

リリアは冷徹じゃ、魔法使いの命など塵ほどにも思っておらんぞ」

ルーシュはサラに呆れ顔でそう言い、リークに近づくと、

「小僧...母には会えたか」

悲しそうにリークを見つめる。

「は...はい。それよりもシルファはどうなって...」

「あれは小娘であってそうではない。

クリスタルウォールに棲まう魔神、氷結の女王リリアじゃ。

おそらく小娘はリリアと契約しておるのじゃろう」

「そう...ですか」

リークはシルファに駆け寄ると、抱き上げる。

「さぁ中で話しましょうか司書。

肩も負傷してるみたいだしね」

サラが太ももの治療を終えて立ち上がると、診療所に向かい歩き出す。

「そうじゃな、せっかく来たんじゃ...説教もせんといかんしのう」

ルーシュも診療所に向かい歩いていく。

リークはシルファを椅子に座らせる。

「ご...ごめんね......アシェラ...」

シルファがか細い声を出す。

アシェラもシルファの前にきて手を握る。

「いえ、焚き付けたのはあたしですから。

ごめんなさい、ゆっくり休んでください」


「......リーク...わたしのこと...」


「もう何も言うな、今はゆっくり休んで」


リークが頭を撫でるとシルファがゆっくりと目を閉じる。

「あり...がとう」






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