第八章 オアシスの末裔 第四話 砂漠の国サティアス
炎天下の中、リークとシルファは砂漠の町を歩く。
建物はレンガを積んだ造りが主で、風通しをよくするためか窓が多い。
藁だけでできた建物も多く、文明はやや遅れているようにも思える。
「ねぇ。建物は新しいけど、何だか貧しい国みたいね」
シルファが辺りを見回しながら歩く。
「そうだなぁ、最近できた......って感じがするような...」
「そう!それよ。昔からあるにしては......」
二人がしばらく歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえてくる。
「お前さんたち、ついて来るとよい。
お前さんたちに会わせたい者がおる」
先に着いたお爺さんが二人の飲み物を持って現れた。
飲み物を受けとるとリークがお爺さんに訊ねる
「会わせたい者?誰でしょうか?」
「わしはお前さんたちと同じ種族じゃと思うておるんじゃが......
不思議な力を使う若者でのう、待ち人が必ずここに来ると言って
二年前からここに住み着いておるのじゃ」
お爺さんがゆっくりと歩き出す。
シルファが首を傾げて聞く。
「......待ち人ねぇ...その人はどんな人なの?」
「歳はお前さんたちと同じくらいかのう......あとはそうじゃのうリーク、お前さんと同じローブを着ておったかのう」
「果ての?誰だろう...」
「心当たりは無いの?」
「うーーん、ずっと図書館にいたからなぁ...」
「本の虫ね」
シルファが呆れ顔で告げる。
話ながらも町を進んでいくと、少し離れた所に大きなレンガの屋敷が見えてくる。
「あそこはこの町の診療所じゃ、みな世話になっておる」
お爺さんはそういうと診療所に向かい歩いていく。
二人もそれに続いていくと、診療所の外に人影がある。
「あ!こんにちわクヌ爺さん。先生は今留守にしておられますよー」
診療所の前で掃除をしていた女性が声をかけてきた。
歳は20前後、綺麗な長い黒髪を後ろで結んでいる。
「こんにちわアシェラ、久しぶりじゃのう」
お爺さんが黒髪の女性の前にいくと振り返り
「こちらの青年はリークさん、こちらの美しい方はシルファさんじゃ」
お爺さんがそういうと、黒髪の女性がこちらを見る。
「初めまして!あたしはアシェラといいます。
えーと、二人はどちらから......」
アシェラがリークのローブを目にすると凍りつく。
「......まさか...待って、姐さんを呼んできます。
時間がかかりますので屋敷でお待ちください」
アシェラが慌てて屋敷に入り飛び出してくると、そのまま歩き去っていく。
「あ!...あの......行っちゃったな。
なんなんだ?僕何かした?」
「さーあ?目つきがいやらしかったんじゃない?」
シルファがリークの頬をつねる。
「誤解だね!」
リークが凛と答える。
「ふぉふぉふぉ、仲のよい夫婦じゃわい。リーシアも喜んでおるはずじゃ、中で待っておるとしよう」
お爺さんが入り口のドアを開け、中に入っていく。
「ふ...ふ...夫婦......じゃない...わよ」
シルファが顔を赤くして俯く。
「はは、そうだね。お爺さん!僕は少し町を見て回ります」
「そうじゃな、夜までには戻るんじゃぞ。
今夜は風が吹きそうじゃからな」
「ではまた後程!
さぁ少し散歩でもしようか?」
リークがシルファに笑いかける。
「え、ええ。ふ...ふう...だもの...」
シルファは顔を赤くしたまま謎の言葉を発して頷く。
「...はぁ。まぁまずは食事といこうかなー」
リークはため息をついてすたすたと先に進んでいく。
「ちょっ...待ちなさいよ!ひどーい!」
シルファが小走りにリークを追いかける。
あちこち歩き回っていると、少し大きな建物でテーブルが並んでいる所を見つける。
リークが中に入り
「すいませーん、この町で食事する場所ってありますか?」
大声で叫ぶと、中から大きな男が姿を現す。
「ここで食べていくかい?東の方にももう一軒あるがな」
「ありがとう。ここで食べられるのはなんですか?」
リークが周りを見回しながら聞く。
シルファも周りを見回す。
「メニュー.....が無さそうよね」
大男は不機嫌そうな顔になり、答える。
「そんなものはない、ここで食えるのは蠍と鳥と野草くらいだからな。
文句があるなら帰んな」
そういうと大男は中に入っていった。
「あ......あの......行っちゃったな」
リークがため息をついている隣でシルファが不機嫌そうに
「なにあれ!しかも蠍なんて食べられるわけないでしょ。
虫よ?虫なのよ?」
「何もないよりはましだと思うけどね」
リークはボソッと呟くと外に出る。
「東の方に行ってみるか」
「そうね、ちゃんとしてる店があるかもしれないわ」
「いや......期待しないほうがいいと思うけどな」
東に向かいしばらく歩いていくと、遠くの方からいい匂いが漂ってくる。
「ねぇ!近いんじゃない?すっごくいい匂いがするわ」
隣を歩くシルファの目が輝き、リークを見つめる。
「蠍の焼ける匂いじゃなきゃいいけど」
リークがニヤリと笑い答えると、シルファが膨れっ面でリークの脇腹を小突く。
「ほんとその意地悪は変わんないわね!」
「はは......まるで昔から知っている...みたいな言い方だな...」
リークは苦笑いすると、険しい表情で前を向く。
「あの...何でもないわ、ごめんなさい」
シルファは俯く。
「そうじゃないシルファ、前を見て。
歩いてくる男...魔法使いだ......しかも詠唱待機のまま」
「え?嘘...どこにも魔法陣は見えないわよ、微かに魔力の流れは感じるけれど」
シルファは顔をあげると男を見る。
まだ顔も確認できない距離なのにどうやって詠唱待機だと判別しているのか......などと男を見ながらシルファが考えていると、
男はこちらに気付き向きを変え歩いてくる。
「シルファ、陣は握ったままの右手の中にある。
属性は火...爆発系だ」
「わかったわ、私が相殺に回るわね。
我が血を廻る祖の魔力、風の籠よ、我を守る壁とならん」
シルファは詠唱待機に入り男を待つ。
リークも歩きながら男の出方を伺う。
どんどんと近づいて来ると、男の素性が見える。
痩せ細った顔で目つきが悪く、左目の辺りに縦に大きな傷がある。
男が纏っているローブは、リークには見覚えがなかった。
すれ違い様、男は立ち止まる。
「同業者か......阿吽の呼吸、隙も無く見事な連携だ。
一つ訊ねたいのだが、クロテツという者は知っているか?」
「いや、知らないな。あんたここらの魔法使いじゃないな?ノワールの差し金か?」
リークが険しい表情で前を向いたまま聞き返す。
「向こうから来たのは確かだ、しかしあのような愚か者とは関わりなどない。
私はクロテツを探して旅をしているだけだ、名を聞いたことはないか?」
男がリークの顔を見て訊ねる。
「全然知らない名前だな。魔法使い...なのか?」
「...いや、魔法使いではないはずだ。黒い鉄の剣一本でダルニアの国境騎士団を壊滅させようとしたという......今はこちらの大陸にいるという噂を聞いたのでな、手合わせできればと思ったんだが......」
男は考える素振りをして続ける。
「......その腕輪にその剣...ノワールが畏れているというのは貴様のことか。
気をつけることだな、ノワールは貴様を殺そうとあれこれ策を労しているぞ」
「畏れている?どういうことだ?」
「さぁな、私には関係のないことだ。では、失礼する」
男はそのまま後方に歩き去っていく。
リークは振り返り男の背中を見つめ続ける。
隣で肩を震わしているシルファが呟く。
「なんなの...あの桁違いな魔力と威圧感......近づくまでわからないなんて...」
「ああ、凄まじく洗練された魔力.....師匠が隣にいるみたいだった」
「ええ、それにダルニアの国境騎士団を壊滅に追い込んだ剣士って一体......」
シルファが考えるように俯く。
「ダルニアってどこなの?」
リークが首を傾げてシルファを見る。
「あなたは知らないかもしれないわね。ノワール国の前にある国よ、ノワール国の鉄壁の城塞国......という感じね。
そこの国境騎士団は精鋭の魔法騎士団の集まりよ。
竜を狩る軍団とも言われているわ」
「竜を狩る......緑のローブに......銀色の竜の刺繍...」
リークが口にてを当てて考える。
「...リーク......あなたどこでそれを...」
シルファはリークを見つめる。
「んー見たことがあるようなないような?そんな気がして。
おっと!一度お爺さん所に戻ろう」
リークがはっと空を見上げる。
シルファも空を見上げる。
「ほんと...結構時間経っちゃったわね。
急ぎましょ、ご飯はアシェラさんが来てからでもいいわ。
お爺さん所まで早く着いたほうがおかず一つ奢りね!」
シルファが駆け足でもと来た道を走り戻っていく。
少し離れた所で振り返ると、
「なに突っ立ってるのよー、置いてくわよー」
シルファは満面の笑みで手を振りまた駆け足で走り戻っていく。
リークはシルファの後ろ姿を哀しそうに見つめる。
「シルファ...本当は......」
ボソッと呟くと、ゆっくりと歩き出す。
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