第八章 オアシスの末裔 第三話 偉大なる母
......唱えよ
......今こそ示せ
......我が力の片鱗を
巨大な翼を広げ、巨竜が囁く。
羽ばたく巨大な竜の下には広大な泉、そこに佇む二人の人影。
左に立つ少年が口を開く。
「我は...泉の守護者なり......」
右に立つ少女がそれに続く。
「湧きあがれ...大地の恵みよ......」
......失われし竜族の誇りを
......今こそ私が示すとき
ドドドドドドドド
轟音と共にリークが飛び起きる。
シルファも同時に起き上がる。
「なんだ......これ...」
「あれは......泉の守護者ね...」
リークとシルファの魔力が反応し増大していく。
「どういうことだ!?」
リークがベッドから降りると、窓に向かい外を見る。
「なっ.....!」
外を見たリークが絶句する。
昨夜まで屋敷の周りは砂漠が広がっていたはずだが、
なんと泉に囲まれている。
「まさか......さっきの夢で...」
リークはシルファの方に振り返る。
「...なら......君は一体...」
「......」
シルファは無言でリークを見つめ返す。
「やれやれ、出てくるにはちと早かったのう」
いつのまにかリークの頭に乗っていた梟が姿を変え床に降りる。
「小僧の魔力にたまたま傍におった小娘の魔力が呼応したのじゃろう」
栗色の煌めく長い髪の女性ルーシュは窓に近づく。
いつもと同じ里のローブを纏っているが、
複数の書物がルーシュの後ろを浮いたままついていっている。
「......師匠、これは一体」
リークが呟くとルーシュはリークを見ると、
「リーシアの剣を抜いたじゃろう、それで現れたのじゃろうな。
外に出るぞ、もう来ておるはずじゃ。
よいか、小僧は泉の守護者に試されるのじゃ」
ルーシュはそういうと、寝室を出て外に向かう。
「...行きましょうリーク」
シルファは立ち上がると服を着てリークに手を伸ばす。
「......ああ、大丈夫。ありがとう」
リークは服を着てローブを羽織り、寝室を後にする。
外に出ると、ルーシュが背を向け立っている。
その向こうに翼を広げた巨大な竜が座りこちらを見ている。
「あなたは歴史書の司書ですね。我が主を出しなさい」
竜がルーシュに語りかける。
「いかにも、もう出て来るじゃろう。
しかし私の弟子を害するときは、いかにおぬしでも覚悟してもらう。
その準備もできておる......」
ルーシュは巨竜を睨み付ける。
「......なるほど。その時は私があなたの命を絶ちましょう」
巨竜が怯むことなくルーシュに告げる。
「師匠...この竜が...?」
リークがルーシュの隣に並び竜を見上げる。
「初めまして、リーシアの子よ。
私の名はガルグイユ、竜を統べる泉の守護竜です」
竜がリークに語りかける。
「ガルグイユ......あなたが夢に現れた...、
僕をどうするつもりですか」
リークは険しくなり、竜を見つめる。
「どうする...それはあなた達が導くもの、さぁあなたも出て来なさい」
竜が屋敷の方を見る。
リークが屋敷の方に振り返ると、シルファが屋敷から出てくる。
「......」
シルファが無言でリークの隣に並ぶ。
ガルグイユが二人を見つめ語りかける。
「生み出す奇跡、滅ぼす奇蹟。二つの奇跡は未来に何を見出だすのでしょう」
「今の小僧に問うても無駄じゃ。そやつの記憶は」
「ええ......塔に置いてきたのでしょう。なれどリーシアの子ならあるいは...」
シルファが先に口を開く。
「あなたの望む未来を進むとでも?私には私のやることがある。
それが世界が望まない未来だとしても私は...」
そこでシルファは口を閉じ竜を見つめる。
「......」
竜も無言でシルファを見つめる。
「......なるほどあの夢の二人が...。この力はあらゆるものを一瞬で消滅させてしまう、忌々しい力だと思ってきた。
けれどこれで大切な人を守れるなら僕は...」
リークは俯く。
「......よいでしょう、あなたたち二人が導く世界を見届けましょう。
ですが塔には気をつけることです。
塔が描く未来を変えんとするならば...」
竜は翼を羽ばたかせ、凄まじい速さで遥か上空へ飛び去っていった。
暫くの沈黙が流れ、ルーシュが静かに話す。
「小僧、聞きたいことは山ほどあるじゃろうが...今はまだ小僧には...」
「わかってます師匠...、シルファも何も言わなくていい。
僕が塔に置いてきた記憶を取り戻さない限り、何も始まらない......」
「...そういう事じゃ、苦しかろうが今は耐えてくれ。
それよりも、書物を使わんで済んだ事が何よりじゃ」
ルーシュはため息をつくと屋敷に入っていく。
「...ごめんねリーク。でもわかってて、私はあなたの敵じゃない」
「わかってるさ...さぁ中に戻ろう」
屋敷に入ると、リーシアの像の前にお爺さんとルーシュが立っている。
「...お前さんが泉を......そうか、彼女も喜んでおるじゃろう。
さぁ、お前さん達を砂漠の国に案内しよう。
ついてくるのじゃ」
お爺さんさんは少しの荷物を持つと、屋敷を出る。
「小僧、私はガルグイユを追う。暫くは戻れんがゆえ、砂漠の国ではうまくやれ」
ルーシュはそういうと黒い塊になり消え去った。
「......行こうか、シルファ」
リークはシルファに手を差し出す。
「...ええ」
シルファはそっと手を取ると、二人は屋敷を後にする。
前を歩くお爺さんを追うこと数時間
「お爺さん...すごい体力じゃないか?...ハァ」
「...ハァ、ええそうね。慣れてる...のかしらね...ハァ」
二人は大量の汗を流しながらお爺さんの後をついていく。
「見えてきたじゃろう、あれが砂漠の国じゃ。
そして東に少し離れたところの砂丘に石像が見えるじゃろう。
あれがリーシアの墓じゃ、まずはそこに向かうとしよう」
お爺さんが墓の方へ進み始める。
「意外に広いな...砂漠の国」
リークがボソッと呟く。
「早く行きましょう、喉がからからよ」
シルファはそういうとリークの手を引っ張りお爺さんに続く。
「おっと...そうだね」
リークは引っ張られるままシルファに続く。
「ねぇ...あなたのお母さんは魔法使いじゃなく、人間だったのよね」
シルファが不意に聞いてくる。
「ん?ああ、不思議な力があったとは言っていたけど人間らしいね」
「私の父も人間なの......でも...私が半人半魔だったばっかりに、
村のみんなに軽蔑されて死んじゃった。
人間は魔法が使えない劣等感で魔法を妬み、憎むのよ」
「そう......かもしれないな」
「だから私は......私は...」
「......滅ぼす奇蹟。その力があれば......だけどシルファ、それじゃ何も変わらない。支配が争いをうむ、そしたらまた繰り返される」
「......じゃあ私はどうすれば...」
前を歩くお爺さんが立ち止まる。
「さぁ着いたぞ、偉大なるオアシスの母リーシアの眠る場所じゃ」
二人が見上げると巨大なリーシアの石像が目の前にそびえ立つ。
鎧を身につけて剣を掲げ、凛とした顔立ちで見いってしまう程の神々しい姿をしている。
「これが......母さん...」
「なんて美しくて猛々しい...神様みたい......」
二人が唖然と石像を見上げている。
「リーシアは聡明で剣捌きも見事な豪傑であった。
わしも剣を交えたが一捻りじゃったからのう。
少しゆっくりしていくとよい、先に町に行っておるからのう」
お爺さんはそういうと、砂丘を下り砂漠の国に向かう。
リーシアの石像の下には墓石が置いてある。
そこに書いてあるのは
偉大なる砂漠の国オアシスの母リーシア、これより天に登る
「母さんは今も砂漠の国を見守っているんだね......僕の事も...。
ありがとう、母さん。もう大丈夫、僕は大事なものを取り戻しにいくよ」
「あなたのお母さんは、あなたを誇りに思うわ。きっと」
シルファは目を閉じ祈る。
リークは剣を抜き、空に掲げる。
腕輪が光を放ち、剣が光を吸い込むと一筋の光を空に放つ。
その光は雲を穿ち進み続ける。
シルファがそっと目を開けると、
そこには剣を掲げるリークの姿があった。
リーシアと瓜二つの顔立ち
その姿は凛々しく、闇をも穿つ一直線の光が輝いていた。
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