第八章 オアシスの末裔 第一話 渇いた大地

階段を登りきると塔の最上階にたどり着く

床に横たわる三人の家族の姿

さらに銀の竜を画いたローブの戦士たち

壁を見ると時計の秒針が止まっている


...汝何を欲するか?


声が聞こえてくる。


誰?


...望むものを与えん、なれど使命を授かることなりて


家族を...守りたい


...よかろう、なれば汝の生を頂こう


家族が助かるのならば


...時を支配する事叶えば全ては未来に、汝が光で示すならば


光...。母さん......僕に力を...!


少年の全身が輝き出す


ゆっくりと目を開ける。

真っ白だった視界が今はちゃんと透き通って見える。

辺りを見回すと、アルベスの屋敷の奥の部屋にまだ横たわっているようだ。

太ももに何かが乗っている感覚がある。

そっと上体を持ち上げ確認すると、シルファが太ももに顔を乗せて眠っている。

瞼は赤く少し腫れている。

「看ていてくれたんだな......ありがとう」

僕は小さい声でそう言うと、

「目を覚ましおったか。もう心配なさそうじゃのう」

少し離れた所で椅子に座っているアルベスが見える。

「どれくらい眠ってましたか?」

「五時間ほどじゃ、今は夜になっておる。

ルーシュから伝言じゃが、砂漠の国にお前さんの母親の墓があるそうじゃ」

アルベスは立ち上がりあくびをすると出口に向かう。

「ワシはもう休む、シルファが目を覚ましたら礼を言っておけ」

アルベスはそう言うと部屋を出ていった。

「母さんのお墓.......ね」

リークが呟きながらシルファの顔に視線を戻すと、目がぱっちり開いている。

「お!...起きたのか、びっくりした」

「体の調子はどう?よく眠れた?」

シルファが小さい声で話しかけてくる。

「あ...ああ、ありがとう。体がすごく軽い」

「魔力が増えると体へのあらゆる負担が減るわ。

私も半分は人間だからそんなに丈夫じゃないけどね」

シルファはそう言うと、お腹の方に顔を埋めてくる。

「......黙っててごめんなさい」

「...何か理由があるんだよな、僕も何も話してないんだ。

お互い様だよ」

そう言うとシルファの頭を撫でる。

「......行くの?...砂漠の国に」

「ああ、母さんの最期をちゃんと見ておきたいから」

「......強いのね...私も行っていい?」

「断る理由がないさ、それにこの先一人じゃ厳しいだろうし」

リークが苦笑いで答えると、シルファがクスクス笑いながら

「...寝坊するし何かに巻き込まれるし?」

「そういやそれもあったな」

リークもクスクス笑いながら答える。

シルファが不意に体を起こすと、リークに顔を近づける。

「な...ちょ......近い......」

シルファの唇がそっとリークの唇に触れる。

一瞬の事だが、時間が止まって感じるくらいの長い一瞬が過ぎ、

ゆっくりとシルファが顔を離す。

「え......と...僕には...心に決めた人がいた......よう...な」

口を開けたまま唖然とシルファを見つめる。

「......ぷっ...あははははは、なんて顔。

じゃあその心に決めた人の事ちゃんと思い出したら、私に教えてちょうだいね」

シルファはお腹を抱えクスクス笑い続けている。

「なんだよ、ちゃんと思い出してやるさ」

僕は少し拗ねた顔でそう言うと、意識を集中させ魔力を高める。

「あ、もう!まだダメよ。まずは少しずつ慣らさないと!」

シルファがリークの背中に手を回し魔力の流れを抑える。

「いってぇー!」

体に激痛走り、情けない声が出る。

「ほら言わんこっちゃない」

シルファがクスクス笑いながらリークを抱き締める。

「さぁ起きて、あなたが進むのは私たちの未来よ」

小声でそう言い、シルファは離れ立ち上がると、リークに満面の笑みを向ける。

「ん?何か言った?

それで、リハビリって何から始めればいいの?」

リークも立ち上がると服を着る。

「そうね、まずは晩御飯でも食べて外出してみる?」

「あ、そうかもう夜なんだったな。

町に食事する場所はないのかな?」

「どうかしら?商店街の方は賑やかだったわね、行ってみる?」

「あれ、食べれるかもしれないよ?なんとかバッファの肉」

「あー!そんなのもあったわね、けっこう美味しいやつ」

二人で笑いながら話していると、不意に入り口の扉が開く。

「幸せそうで何よりじゃなぁ、お邪魔するぞ(棒読み)」

ルーシュが少しふくれた顔で部屋に入ってくる。

「し...師匠、伝言なんて残すから来ないのかと思いましたよ」

リークが苦笑いで答えると、ルーシュは少し機嫌が悪くなる。

「長いこと眠っておると聞いたから来てみたものの、ガキんちょ二人で盛りおってからに。

それだけの元気があれば今からでもじゅうぶんに戦えそうじゃのう?

若いもんはドキドキして毎日が新鮮で羨ましい限りじゃ。

忙しい私の身にもなって考えてはくれんかのう誰か」

「あの...師匠それくらいで許して下さい」

リークは素早くルーシュの前で土下座をする。

「まぁもうよい、それはそうと起きたのなら出発するとよい。

昼間に砂漠を越えるのは過酷すぎる、今の小僧の体の具合を考えると夜しかない。私は一度セイレーンに向かわねばならんゆえ、しばらくは見ていてやれぬがしっかりやれ」

ルーシュはそう言うとドアに向かい歩き出す。

「師匠、ノワールはもう進軍を!?」

「小僧が気にする事ではない。

いざとなれば私が大図書館の知を持って殲滅する」

ルーシュは険しい横顔を見せ、部屋を出ていった。

「今行っても足手まといと言うことか......」

リークは俯き歯噛みする。

シルファはそっと後ろからリークの両肩に手を添える

「そうね、先に砂漠の国に向かいましょう。

あの人の言うことだからそこには何かあるはずよ」

「そうだね...そういやシャルマとエイラはどうしてるんだ?」

「どうかしら?私はまだこの部屋を出ていないからわからないわ」

二人は部屋を出て暗い廊下を通りすぎると、ソファーが並んでいる部屋に入る。

テーブルには書き置きがしてある。


東の国境線付近に風の賢者レーミアの目撃証言あり

俺は技を磨くべく訪ねることにする

エイラも同意した

先に行く、武運を祈る


「シャルマらしい堅い文章だな。

アルベスさんを起こした方がいいのかな?」

「寝ているなら起こさない方がいいんじゃないかしら。出発しましょ」

そう言いながら玄関に向かう。

屋敷を出るところで後ろから声をかけられる。

「これを持っていけ、お前たちの着替えを町の服屋で綺麗にしてもらってある。それと、食料も入っておる。」

少し大きめの二つの鞄を持ってアルベスが立っていた。

「ありがとうアルベスさん」

「ありがとうアルベス」

二人は鞄を受けとると、屋敷を出る。


「......ルーシュよ...あれはお前のたった一人の家族でもあろうに」


アルベスはそう呟くと寝室に戻っていった。


途中、商店街でグランバッファの肉を買った二人は

南の大門から出て、荒野を南下し始める。


「あったわねグランバッファのお肉」

ホクホクのお肉を頬張りながらシルファは歩いている。

「うん、これはなかなかクセになるな」

ホクホクのお肉を頬張りながらリークも歩いている。

「なんか地面が段々と......」

「ええ、砂になってるわね」

二人が地平線を見つめる。

はるか遠くまで木の一本すらも見えない。

「これ、暗いからなのか?」

リークがそう言うと、シルファが得意気な顔をする。

「私に任せて」

「我が血を廻る祖の魔力、光を放ち道を示せ」

前方に銀色の大きい魔法陣が現れ、光を放つと一直線に先を照らす。

「んー...何も見えないわねえ、リークは何か見えた?」

リークは銀色の魔法陣を見つめたまま、頭の中で記憶が駆け巡る。


これを確かにどこかで見たことがある...!

どこで...見たんだ......


「ねぇ聞いてる?何か見えたの?」

「え......いや何も見えないな...」

「そうよね、しばらくはひたすら進むしかなさそうね。行きましょ?」

シルファはにっこり笑うとリークの手を握る。

「...ああ、夜明けまでには着きたいな...」

リークも微笑みかえし、二人は歩き出す。


気の...せいなのか。


無の砂漠が地平線に広がる

まるで二人の未来を暗示しているかのように
























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