第七章 グランディールの悪魔 第四話 獣人アルベス
リントとリルが去ってしばらく、四人はその場に留まっていた。
「ノワールがそこまで動いていたとはな」
シャルマが岩に腰をかけたまま俯き呟く
「......なんで竜が下界で争ってるんだ」
リークはシャルマの横に座り、目を閉じて下を向き考える。
「海峡を越えてくるとなると、セイレーンと戦闘になるわね。うふふ」
エイラは立ち上がると、グランディールに向かい歩き出す。
「考えても無駄...ね、先を急ぎましょう。うふふ」
「そうだな、なんにしても命拾いはしたんだ。
グランディールに急ごう」
シャルマも立ち上がるとエイラに続く。
シルファはリークに歩み寄るとしゃがんで心配そうに顔を覗きこむ。
「リーク目はもう大丈夫なの?歩ける?」
「ああ、大丈夫。僕たちも行こう」
リークは立ち上がりシルファの手をとると、グランディールに向かい歩き出す。
荒野をひたすら歩き続けグランディールまであと少しのところ。
「...なんだあの軍勢は」
シャルマが遠くを見つめながら呟く。
「あれは......獣人の軍勢ね、あんな数で、どうしたのかしら?」
エイラは目を細め何かを考えている。
「あのなかにアルベスがいるのかな?」
リークはシルファの方を見る。
「さぁ、いるといいわね」
シルファは険しい顔で獣人の軍勢を見つめている。
「......シルファ?」
僕がシルファの肩にそっと触れると、少しびくっとしてシルファはこちらを向く。
「ええ、なんでもないわ」
シルファはニコッと笑いかけると再び前を向き歩く。
獣人の軍勢の少し手前まで来ると、空気がガラッと変わる。
「さあ!魔法使いを八つ裂きにしてこい!」
「「おおおー!!!」」
急に獣人の軍勢が一斉にこちらに向かい進軍してくる。
「な...どうなってるんだ!?」
リークは驚き声を出す。
「なんだかわからんが俺たちを殺すというのが目的だと言うことだけはわかる!
どうするリーク」
シャルマは魔力を高めつつ見構える。
エイラも無言で地に魔法陣をえがき始める。
「どうするったって......戦う理由が解らない」
リークが戸惑っている間に、獣人の軍が目の前まで来ると立ち止まり武器を構えている。
軍勢の中から一人の獣人が前に出る。
「ぐははは、ワシはアルベスというものよ。
魔法使いの小童ども、ノワールへの手土産にしてくれるぞ」
人間の倍ぐらいの背丈で、獅子のような牙を生やした大男だ。
「待ってくれアルベスさん、僕達は戦いに来た訳じゃない!」
リークが叫ぶが、アルベスはニヤリと笑い、
「そうじゃろうのう、まだ気づかんのか?
ワシはお前たちを待ち伏せしておったんじゃ。
なぜか......わかるか?」
そう言いながらシルファの方を見る。
シャルマとエイラは凍りつき、
ゆっくりとシルファの方を見る。
「話が...違うわよアルベス」
シルファは歯を食い縛りアルベスを睨み付ける。
リークはアルベスを見つめたまま、
「あんた、ノワールに加担するつもりか」
「がははははは、お前さん驚いていないようじゃな。
そこの小娘が何かを隠してしたことには気づいていたのかのう?
まぁそれはもうどうでもよい。
いいかガキども、ノワールとの力の差は明らかじゃ。
奴に殺されるか、奴の仲間になるかじゃ」
アルベスは笑いながらシルファを見る。
「最初からそのつもりだったのね」
シルファは歯を食い縛ったままアルベスを睨み呟く。
「貴様......次第によっては先に殺させてもらうぞ!」
シャルマがシルファに掴みかかろうとしたその時、
「それには及ばぬ」
何処からともなく聞き覚えのある声が聞こえる。
全員がキョロキョロと辺りを見回していると、
近くの木に一羽の梟が止まっているのがリークには見えた。
「アルベスよ、貴様が動きだすであろうと思ってのう。
私が差し向けたんじゃよ、そこの小娘ものう。
久しぶりじゃな醜い怪物」
梟が黒くなると形を変え、ルーシュが現れる。
ルーシュがリーク達の前に割って入るとアルベスの方を向く。
「お前......図書の歴史書から解放されるはずが......まさか読みきったというのか」
アルベスが驚愕の顔でルーシュを見ている。
「そんなことで驚いておるのか?甘く見られたもんじゃ」
ルーシュはニヤリと笑いアルベスを睨み付ける。
「くそっ、化け物が!」
アルベスは歯噛みしながらルーシュを睨み付ける。
「なるほどのう、あれを送りつけてきたのはお主であったか。
じゃがあのような稀少な書物、お主が持っている物でもなかろう?
ノワールの計略じゃな?」
ルーシュは目を細めアルベスを睨み付ける。
「魔法使いごとき捻り潰してくれる!」
「「おおおおおおお!」」
周りが騒ぎ、動き出す
「やめーい!!!」
アルベスが一喝で制する。
「お前ら手を出すな、ワシらに敵う相手ではない。
お前らには見えんのか、あの女から溢れでる鬼気が...」
アルベスが歯噛みしたままルーシュを睨んでいる。
「貴様の間違いをふたつ正しておこうかの。
まず一つ、私を謀ったことじゃ。
そのおかげで貴様の腹が読めたからのう。
あともう一つじゃが、貴様本当にこの小僧が伐てると思うておったのか?
よく見てみるんじゃ...似て...おるじゃろ?」
ルーシュがニヤリとアルベスを見つめる。
「そこのガキが何じゃと?フォーカスとアリファの小せがれじゃろうが。
それゆえに手土産に......まさか...リーシアの?...ありえん!光の女神の血族じゃぞ!魔法使いと交わるなど...掟で...........似ておる......本当なのか!?」
アルベスが唖然とリークを見つめている。
「掟を破り密かに育てていたフォーカスとの子を、大戦の前にフォーカスに託したのじゃよ。
オアシスの国は砂漠の国に大敗した。
女王であったリーシアは最後の一人になっても戦い抜き、最後の力を振り絞り砂漠の恵みを全て地獄に変えた...アグライアの加護でな。
今は亡きオアシスの国のたった一人の生き残りじゃよ」
ルーシュはしばらく無言でリークを見つめ、アルベスに向き直る。
「じゃとしたら......このガキにもあるのか!?...あの......」
「あるに決まっておろう?......アグライアの加護が」
ルーシュはニヤリと笑いパチンと指を鳴らす。
するとリークの魔力が消え、リークの体がうっすら輝き始める。
「こ...れは?師匠?」
リークは薄れゆく意識の中ルーシュをじっと見つめる。
「リーク!!おい貴様リークの力を無理に使うつもりか!」
シャルマはリークの肩を支えてルーシュを睨む。
「やめて!!今はもう魔法の脈も止まってるのよ!!
お願い......やめて......」
シルファがリークを抱き締め叫ぶと、涙を流す。
「ほう?小娘よ、貴様今自分は人間ではないと...そう言ったように聞こえたのは私だけではあるまい」
エイラは驚きシルファを見つめている。
シャルマはルーシュを睨み付けると
「...いい加減にしておけ、その事は」
「もういいシャルマ。
薄々は...分かってたんだ。師匠」
リークは片手でシャルマを制すと、俯き続ける。
「僕の中にあるのは魔力と相反する力...
そのために子供の頃師匠の血を取り込んだことも、シルファが人間じゃないことも......ときどき夢で話しかけてくる金色の髪の女の人が...死んだ母さんだってことも...」
「嘘よ...いつからなの...」
シルファはリークに抱きついたまま、腕をきつく握りしめる。
「戦いの最中、君が背中に触れたときから......。
あれは僕の少ない魔力に君が干渉して増幅させた...そうだろ」
「...そう。最小限に抑えたつもりだったけど...気づいたのね...」
リークは俯いたまま、ゆっくりと腰を落とした。
それと一緒にシルファも顔を押し付けたまま座り込む。
しばらくの沈黙が流れて、ルーシュがそっと口を開く。
「小僧、小娘、アルベスもじゃ。前に進むためには、生き残るためにはいろいろ受け入れることも大切じゃ。
よいかアルベス?高貴なノワールは貴様のような醜い怪物を受け入れはしない。
それに小娘が貴様に託した想いを、ノワールごときのために踏みにじっていいものではない。
これ以上ノワールの肩を持つというのなら、アグライアの輝きが貴様らを消し飛ばすであろう」
ルーシュはそういうとリークを解放する。
リークの体の輝きが消え、うっすら魔力が戻ってくる。
アルベスは武器を捨て、
「そうじゃったな......ガキの体内の魔法の脈を活性化できんかと...ワシにできることならやってみよう...」
「みんな、城に戻るんじゃ」
アルベスは全員にそう言うと、シルファを向き
「シルファ、後でそこのガキをワシの屋敷に連れて来るんじゃ」
そう言い残し、グランディールに戻っていく。
しばらくの沈黙が続き最初に口を開いたのはリークだった。
「...ありがとう、シルファ」
「...うん」
ボソッと小声で呟くように、二人はお互いの想いを心に刻み込んだ。
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