第七章 グランディールの悪魔 第三話 大地のリルと天空のリント

四人は荒野をひたすら東に進んでいく。

ここから東に地平線の向こうにうっすら見える町。


「あれがグランディールなのかな?

気が遠くなりそうな距離だな」

リークは先頭を歩きながら、後ろを見る。

リークの隣をシャルマが、すぐ後ろをシルファとエイラが歩く。

「ええ、そうよ。うふふ

だけどそうね、こんなに遠かったかしら?」

「リーク、少し休憩にしない?私もう足動かないー」

シルファはそう言うと近くの岩に腰をかける。

「ちっ、少しだけだからな」

シャルマも荷物を置くと少し離れた岩に腰をかける。

「シルファ、あなたも飲んでおきなさい。うふふ」

エイラはシルファに魔法の水を渡す。

「エイラ、これは?」

「それは、身体の水分をね、保持する効果があるの。うふふ」

「ありがと」

そう言うとシルファは水を飲み干す。

リークはシャルマの方へ行くと、隣に腰をかける。

「......急にどうした?」

「いや、少し気になっている事があって。

この荒野に入るとき誰かに見られている感じがして。

それからずっとそれが消えないんだ」

シャルマはしばらく黙っていたが、そっとリークの目をおさえる。

「目はまだダメそうか?」

「うーん開けてみないとだけど、この布を外すとシルファが怒るだろうな」

リークは苦笑いで答える。

「そうか。疲れているんだろう、色々あったからな。

リーク先に言っておく、過去の記憶にはとらわれるな。

今何が大切か......それが全てだ。忘れるなよ」

「......シャルマ?」

「何でもない、さぁ出発するぞ」

シャルマはサッと立ち上がり荷物を持ち上げる。


ゴゴゴゴゴゴ


急に地面が揺れる。

シャルマがふらつき倒れそうになる。

リークはサッと立ち上がりシャルマの身体を支える。

ローブを着ているため見た目では分かりにくかったが、

肩幅が狭く身体もかなり細い。

「大丈夫か?」

「触るな......もう大丈夫だ」


ゴゴゴゴゴゴ


「きゃ、まただわ」

「大丈夫よ。うふふ」

シルファとエイラも岩に腰をかけたまま支えあっている。


ドゴーン


爆発音とともに少し離れた地面が弾け、地中から何かが顔を出す。

リークは目を覆っている布を引きちぎると目を開け凝視する。

白く霞んだ視界、土煙のなかには牙を剥き出しこちらを睨む顔。

巨大な猫を思わせる体に大きな翼が二本生えている。

リークは息をのみ凝視し続ける。

「これはまずいな......竜族だぞ」

リークがボソッと声を漏らすと、シャルマの体が震えるのが支えている腕から伝わってくる。

「竜族だと?......俺たちに干渉してくるはずがない......」

シャルマは固まったまま目の前の竜を見ている。

リークがチラッとシルファの方を見ると、エイラがシルファを抱きかかえ何かを詠唱している。

「シャルマ落ち着け、戦うという選択肢はない。

生き延びる方法を考えるんだ。

エイラが今魔法陣を複合して反響魔法陣の詠唱をしている、それが完成したら全力で森に引き返すんだ。」

「反響......だが跳ね返せるのか?」

「わかんないけど、今はそれしかなさそうだ」

「わかった。10秒後に前方に爆炎を巻き上げる、それを合図に全力で森に引き返す」

シャルマはそう言うと詠唱に入る。

リークがエイラをチラッと見ると指で合図する。

エイラが頷き、魔法陣発動待機に入る。

指でエイラにカウントの合図をする

5、4、3、2

不意にリークは空を見て叫ぶ

「待った!」

全員が空を見上げる。


ヒュオオオオオ


風を切る音と共に何かが急降下してくる。

「白い...竜?」

シルファがボソッと声を漏らす。

リークは空を凝視する。

立派な大きな翼をたたんで真っ白な巨大な竜が急降下してくる。

「爆風でやられる!エイラ反響魔法陣!」

リークが叫ぶと後ろでエイラが唱える。

「水は重なり、写すは虚影。

反響しなさい」

水の膜が表れ、四人を包み込む。

目と前の竜は空を向くと翼を拡げ咆哮する。


ゴアァァァァァァ


凄まじい雄叫びに四人は耳を塞ぐ。


ヒョオオオオオ


ドゴーン


空から現れた白竜は、竜の目の前に落ちる。


バサッ


ゴアァァァァァァ


大きな翼を拡げ白竜も咆哮する。


周りの砂煙が吹き飛び、二頭の竜が視界に入る。


「何が......起こってるんだ?」

リークは爆風を受けながら呟く。

エイラの障壁は落下時の爆風ですでに消しとんでいた。

急に白竜が輝き姿を変えていく。

灰色の髪、腰に一本の剣をさした男がそこに立っている。

男が静かに声を出す。

「やぁ、リル。三年ぶりか」

もう片方の竜も輝き姿を変えていく。

灰色の長い髪同じく腰に一本の剣をさした女性。

「久しぶりねリント。何をしに来たのか聞かせてもらおうか」

リルはリントを睨み付ける。

男が不意にこちらを見ると、ゆっくり歩いてくる。

「何と...さっきの魔法使い達か。

よく死ななかったな、バシリスクの巣に居たのに」

男は笑いながらリークの前で止まり手を出す。

「僕の名前はリントヴルム、彼女はフェンリルという。

見ての通り僕たちは竜だ、だけど怖がることはない」

リークはリントの手を握る

「......さっきはありがとう。

で、僕たちをどうするつもりだ?」

リークがリントを睨む。

「ははは、助けたつもりはないさ。

バシリスクを殺したかっただけだよ。

バシリスクも始末したし帰ろうというところでリルをみかけてねー、

竜が人族に手を出そうとするもんだから......あの娘を止めに降りてきただけさ」

そう言うと、リントは振り返りリルを見つめる。

リルはリントを睨み付けたまま口を開く。

「今さら何、あんたには関係ない。

邪魔するならあんたも噛み殺す」

「......リル、手を貸してくれ。

ヴィアとバシリスクはノワールに落ちたんだ。

海峡からこの大陸に来るんだ...ウロボロスが」

リントが悲しそうにリルに話かける。

「......そんなことわかってる。あなた一人では勝てないことも...、多勢に無勢よ今逆らえばあたしも殺される」

「どっちにしてもウロボロスは君を生かしちゃくれない。

僕に関わっている以上殺されるんだ。

戦うんだよ......僕は君を、竜族を守るんだ」

「...うるさい。もう遅いの、あんたの首を噛みちぎって土産に持っていけば.....」

リルは目に涙をため、剣に手を伸ばす。

「わかった!!」

不意に後ろでシルファの叫び声が聞こえる。

全員がシルファを向く。

「あなたはあの娘が好きなのね。で、あの娘もあなたが好きなのに素直になれないのよ」

シルファが二人を指差しながらそう言うと、その場の全員が固まる。

・・・・・・・・・・

かなり長い沈黙が流れた後、リントが吹き出すように笑う。

「ぷっははははははは。

そうだね、僕の気持ちは君の言う通りだよ。

人族にも面白いのがいるもんだな」

「...まったく」

リルはやれやれと剣から手を離す。

「あんた、もうあたしを置いていかないって誓って。

じゃないともうあんたと一緒には戦えない」

「置いて行ったわけじゃ......いや、もう置いていかないよ。

僕に力を貸してくれ」

リントはリルに近寄り抱き締める。

「ちょっと待ってくれ!」

今度はリークが声を出す。

「今、ノワールとか海峡からとか言っていたけどまさか...」

リントはリークに向くと、

「ああ、ノワールがウロボロスと結託しウロボロスを使いこの地を手にいれるつもりだ。

お前が殺したワイバーンもウロボロスの差し金だ。

あそこに拠点を築くための布石だよ。

バシリスクもそのためにあそこに...。

ノワールは竜族を利用してまで魔法使いを統一したいのさ。

そして...人間を抹殺するだろう」

リークは唖然とリントを見つめる。

「...だが、最悪はその後だな。

ヒュドラが動く、ノワールもろとも魔法使い達も皆殺しにするために。

竜にも悪いやつがいてね、僕達が死ぬと暴走するのも増える」

リルはそっと目を閉じリントの腕を掴む。

「行きましょう、人族は巻き込めないわ。

それにそのこ...あなたと同じよ」

「気づいたか、まぁいい。

いいかリーク、次に会ったときは共闘してくれ。

セイレーンで待ってる」

そう言うと、リントはリルを抱き抱え飛び立つ。


全員が空を見上げ、小さくなっていくリントとリルをただ見つめていた。





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