第七章 グランディールの悪魔 第二話 謎の魔剣士

「くそ、どんどん近づいてくるな。

逃げるか......迎え撃つか......」

シャルマは苛立ちを露に、声を漏らす。

「この、戦力だもの。

逃げるの一択しかないわよ。うふふ」

エイラは不敵に笑う。

「よし!できるだけ東に向かう!

散り散りでもかまわん、走るぞ!」

シャルマはそう言うと、荷物をまとめる。

「でも、シルファを、置いていくことになりそうよ?うふふ」

「いや、気にせずに東へ。僕がシルファについてるから」

リークもそう言うと荷物をまとめる。

「私も覚悟の上よ。いよいよというときは私を置いていきなさい」

シルファは凛とした顔で言う。

「大丈夫だよ、もう何も言うな。

シャルマ!後で合流しよう!」

リークは荷物を持つと、シルファの手を握り北に走り出す。

「おい!そっちは!くそっ!」

シャルマは止めようとしたが諦めると東に向かい疾風のごとく駆け出す。

「これは、置いていかれるわね。うふふ」

エイラも北に走り出す。

リークの隣に追い付くと

「あなたには、見えているのね。うふふ

この先にある、地下道の入り口が」

「ああ、だけど入り口に着くのはバシリスクとタイミングがほぼ同じだ。

かなり博打だけど他に方法がない」

「東に向かって助かるのは、シャルマだけだものね。うふふ」

半分人間ということもあって、エイラの肉体は人並みに脆い。

「あと、ちょっと気になることがある。

バシリスクからさらに北東、そこから一つの魔力があり得ないスピードでバシリスクを追いかけてる」

「そんなに遠くまで、感知できるの?

そんな魔法使いは、初めて会うわね。うふふ」

「あー...まぁちょっとずるはしてるけど...。

それより、そろそろだ!

地下道の入り口とバシリスク、謎の魔力の

持ち主と会敵する。

あと20秒、エイラ!戦闘準備!」

走り続けていると、地下への入り口が近づいてくる。

「ダメだ!間に合わない!」

リークが叫ぶと、エイラが前に出る。

「蛇に向かいなさい」

エイラが手をかざすと、風が前方に向かい吹き始める。

追い風でリーク達のスピードは増し、向かい風のバシリスクのスピードが落ちる。

「...だけど!」

リークが叫ぶと同時に前方の森からバシリスクが飛び出てくる。


ゴアアアアアア!!!


大口を開けたまま凄まじいスピードで進んでくる。

バシリスクの開けたままの口の前の魔法陣が輝き始める。

「やむを得ないか......。

我が身に宿りし光の力、その」

「吹き荒れよ!竜の息吹!」

突然誰かが割ってはいる。

北東の空に一つの人影、

そこから凄まじい凍てつく暴風がバシリスクに向かい放たれる。

バシリスクは北東の空に顔だけ向きを変えると、魔法を放つ。

魔法陣から緑色の炎が人影に進んでいく。

リークは走りながら人影を感知すると、その人影は炎に向かい急降下している。

「...あれはまずい。まともに受けるつもりか」

「地下道に入るなら、今しかないわ。うふふ」

三人が地下道の入り口に向かい全力で走る。

リークは人影が気になり、走りながら音と空気を感知する。

人影は急降下しながら腰の剣に手を伸ばし、構える。


剣では防げないぞ。

そう心の中で思うが、謎の人影はリークの予想を超える。


「薙ぎ払え!火炎の竜巻!」

人影は剣を抜き放ち、振り抜く。

剣から凄まじい炎が出て、バシリスクの炎を薙ぎ払いかき消す。

バシリスクは急停止すると、降下する人影を回避するべく西に進路を変える。

リークはその光景を全て感知し捉えていた。

三人が地下道の入り口に一斉に飛び込む。

三人がゴロゴロと転がり続け、リークが壁にぶつかると次にエイラ、その次にシルファがリークにぶつかる。

「ったーい、階段になってるなんて聞いてないわよ」

シルファが頭を押さえながら言う

「あら、意外と逞しい体ね。うふふ」

エイラがリークの胸に頬を押し付けたままクスクス笑っている。

「ぐふ......ちょ、重い、死ぬ」

リークが弱々しい声を出す。

「ご、ごめんなさい。大丈夫?」

「おかげさまで、助かったわよ。うふふ」

シルファはさっと立ち上がるとリークに手を伸ばす。

エイラはゆっくりと立ち上がり、相変わらず不敵に笑みを浮かべている。

「ありがと」

リークはシルファの手を握り立ち上がると、地上の様子を探る。

バシリスクはそのまま北西に森を猛スピードで進んでいる。

そのあとを一つの魔力がそれ以上のスピードで追いかけている。

バシリスクと一つの魔力は、止まったり進んだりと森を右往左往している。

「......凄いな、一人で戦ってる...。押してるみたいだよ」

「一瞬だけど、変な、魔力を感じたわ。

だけど、本人からは小さい魔力しか感じないわね。うふふ」

エイラがそう言うと、通路に顔を出して辺りを見回す。

「エイラ、ここ大丈夫なのかしら...」

シルファがエイラの後ろに隠れながら通路に顔を出している。

「あら、エイラって呼んでくれるのね。

よろしくねシルファ。うふふ」

エイラは振り返りシルファの腕を抱きしめる。

「きゃ!......ええ、よろしく」

シルファは少し驚き、唖然とエイラを見つめる。

リークは通路に出ると、東に方向へ歩き出す。

「何いちゃいちゃしてるんだ、いくよ。

ところでここは明るいのかい?僕は目を閉じてるからわかんないけどさ」

「ええ、壁に掛けられている松明が燃え続けているの。

魔法でね。

行きましょシルファ。うふふ」

エイラはシルファの腕を引っ張り歩き出す。

「ちょ、このまま!?」

シルファはエイラに引っ張られて歩いてくる。


なぜかエイラの鼓動が高鳴り、異常な緊張感が伝わってくる。


まさか......な。


リークがさらに東に意識を向けると、シャルマがすでに森を抜けているのが伺える。

「シャルマはもう森を抜けている。

速すぎるだろ、敵わないな」

「深縁の里では、疾風迅雷のシャルマ、と呼ばれていたほどね。うふふ」

「なんにしても無事でよかった。

僕たちも時間はかかるけど、無事に森を抜けよう」

リークが静かにそう呟くと、エイラが

「ええ」

と静かに呟く

「さっきの人、バシリスクを追いかけ回しているな。

相当な手練れみたいだぞ、魔力はあまり感じないが。

さっきの剣から出た魔法、賢者に匹敵する魔力だった」

「ねぇ、さっきから話読めないんだけど?

見ていないのって私だけなの?」

シルファが不満そうに声を上げる。

「大丈夫よ。私もちゃんと、見ていないもの。うふふ」

エイラは笑顔でシルファにすり寄る。

「あの......そうなんだ。ち、近過ぎ......」

「大丈夫よ。うふふ」


何が大丈夫なんだか


後ろから聞こえてくるやり取りを聞きながら心の中で突っ込む。


地下道の全体を感知し、東に向かい通路を歩き続け

ようやく森の半分に到達しようとしていた。


ゴゴゴゴゴゴゴ


急に通路が揺れ、天井から土がぱらぱらと落ちてくる。

「や!どうしたの!?」

シルファが驚きしゃがむ。

「上を、通っているわね。うふふ」

「ああ、早いとこ向こうに抜けないとまずいぞ」

しばらくして揺れがおさまる。

「北の方に向かって行った。今のうちに、急ごう」

リークは二人に手を伸ばし立ち上がると、急いで通路を東に向かう。

もう少しで森を抜けるところで、出口に差しかかろうとしていた。

「あと少しで階段がある!もうちょっとだ」

三人が階段をかけ上がり、草原に出る。


草原に出るとそこにはシャルマが待っている。

「無事だったか。まさか地下に道があったとはな」

「ああ、目が見えていなかったら気づかなかったな。

そういえばエイラも」

「まあ、そんなことよりも今は、森から離れないと、だわ。うふふ」

エイラはそう言うと草原の向こうにある荒野に向かい歩き出す。

「それもそうだね。さぁ行こう」

リークはシルファの手を握り歩き出す。

「......自分で歩けるから大丈夫よ、ありがと」

シルファは手を離そうとする

「いや、目が見えない分少し不安なんだ。

足場のちょっとしたものまでくっきり見えてる訳じゃなくてさ......」

リークがそう言うと、シルファがぎゅっと手を握り返してくる。

「あら、そういうことなら任せてちょうだい」

リークを引っ張り、エイラに続く。

「エイラ、この先の道は知っているのよね?」

「ええ、私が、シルファを守るわ。うふふ」

三人が進んでいくのをシャルマはしばらく見つめる。

「......エイラのやつ.......何があったんだか」

シャルマが一番後ろをゆっくりと歩いてくる。


荒野に入ろうというところで、奇妙な感覚にとらわれる。

まるで誰かに見られているような。

辺りには何の気配もなく、魔力も感じられない。

それでも尚消えない感覚

リーク達はすでに、忍び寄る悪意に足を踏み入れていた。















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る