第七章 グランディールの悪魔 第一話 魔法使いたちの誤算

ゆっくりと瞼を開ける


真っ白な世界にうっすらと浮かぶひとつの人影


ここはどこなのだろう


徐々に意識が覚醒していく


「こ......こは?」


「ここはコテージのベッドよ、目は閉じてなさい」

優しく話しかけてきたのは、シルファの声だ。

僕は目を閉じ、静かにシルファに話す。

「ごめんまた世話かけちゃって。

でも、こうするしかなかったんだ。

母さんが......僕にはできると......言った気がしたんだよ」

しばらく沈黙になり、シルファが言葉を返す。

「そう......なのね。

あなたのお母さんは、あなたの心の中に......いるのね」

何も見えないが、シルファが悲しそうな顔をしている気がした。

そう思ったからなのか、僕は少し強がる。

「聞こえた気がしただけだよ。

ちゃんとどこかで生きてるはずさ。

旅の途中で会えるさ、きっと」

「そうね、ごめんなさい余計なこと言ったわね。

後で見に来ると言っていたけど

双子の魔法使いと、そのお姉さん?みたいな人がさっき来てたわよ?」

「あー確か名前はー、イースとミース。

お姉さん?みたいな人がルーナ、らしいよ。

で、なぜここに?」

僕が聞き返すとシルファが答える。

「倒れたあなたを連れて来たのよ。

ルーナさんもかなり危ない感じだったけど、あなたの目の治療をして行ってくれたわ」

「そうだったのか、ちゃんとお礼を言わないとだな。」

「私から言っておいたけど、来たら直接話したほうがいいわね」


コンコンコン


ふいにドアを誰かがノックする

「どうぞ。空いてますよ」

「失礼します」

「「失礼します!」」

聞き覚えのある三人の声が聞こえてくると、

コツコツと近づいてくる足音。

「リークさん、ルーナです。

先程は私たちを助けてくださって本当にありがとうございました」

「「ありがとうございました!」」

リークは目を閉じたまま声の方を向く。

「いえ、目眩ましにしかなりませんでしたが」

「とんでもありません!バシリスクが怯むような仕草を見せたのは、先程が初めてです。

私たち戦闘特化の魔法使いですが、バシリスクを退かせた事は一度もありませんでした」

「一度も......というと、六度にわたる討伐隊に参加していたということですか?」

僕が聞き返すと、ルーナは落ち込んだ様子で答える。

「ええ......だけど五度目の時に、二人も死者を出してしまって。

その時の隊長、その他の魔法使いたちは解散したので。

今回私が隊長を努めて結成したのですが......。

あらゆる方法をもってしても叶う相手ではありませんでした。

なのでやむを得ず精霊魔法陣というものを......」

「ああ、あれはもう使わない方がいい。

自殺行為だよ。」

僕が真剣な声で答えるとルーナは驚き、聞き返してくる。

「精霊魔法陣を御存じですか!?

ということはあなたは賢者の方々...もしくは、かの果ての一族なのですか!?」

「あ...あぁまぁ果てから来たのは確かだけど...はは」

苦笑いで誤魔化す。

「お会いできて光栄です。全ての魔法使いの始まりの里ですから」

ルーナはそう言いリークの手をとり握る。

「んんっ!ちょっといいかしら」

シルファは咳払いすると、話に割り込む。

ルーナは咄嗟に手を離すと、一歩下がり答える。

「あ......あのつい、すいません失礼しました」

「治療は感謝します。だけどこうなったのはあなたたちのせいでもあるのよ。

無理な討伐はもうやめて、あなたたちは帰ってはどうかしら」

シルファが少し強めに言うと、ルーナは俯き答える。

「ええ、私たちもできれば戦いたくありません。

私たちの里は、北西にあります。

ですが沈黙の森とつながっているので、バシリスクが里の方に行動範囲を広げる前に討伐を......というのが里の総意でして......」

「なるほどそういうことか。

シャルマの里も、そこなんじゃないか?」

「あの方とお知り合いなのですね。

あの方は里でも随一の風の使い手です。

ですがはぐれ魔法使いの道を選ばれ、里を出ました」

「そうだったのか。

さっきの話に戻るんだけど、精霊魔法陣を使うということは

君は精霊の歴史書を見たことがあるんだね?どこでそれを?」

「ええ、つい先日なのですが森で魔法使いの方と出会ったときに拝見させてもらいました。

確か名前が......」

「ジーロ」

「ええ、そうです!

お知り合いでしたか。

そういえばリークさんのローブが彼と同じ紋章ですね。

いざとなったときの切り札にと、歴史書を薦められまして。

そのおかげでなんとか生き延びれちゃいましたね」


僕は少し黙りこみ考える。

ジーロが歴史書を持っているということは、

まぁありえなくもないが、はたして大図書の書物を外に出すのを師匠が許すだろうか。

無許可で持ち出していたにしても、師匠が気付かないはずがない。

あのぼろぼろの状態からの回復力といい、このルーナという魔法使いは何か秘密がありそうだ。

「では、そろそろ仲間の所に戻りますので。

またどこかでお会いできるといいですね」

「「ですね!」」

「では、お邪魔いたしました」

「「いたしました!」」

そういうと、ルーナと双子の魔法使いはコテージから出ていった。


入れ違いにやって来た金髪の魔法使いエイラは、

ドアを開けると中に入ってくる。


「調子は、どうかしら?

しばらくはダメだと思うから、もう少ししたらここを出るわよ。うふふ」

「そんな......危険よ!

明日になったら治るかもしれないし、明日でも...」

シルファが怒りを露に、エイラに詰め寄る。


「いいえ。うふふ。

その目は明日までには治らないわ。

だから、予定通りに森を抜けるわよ。

時間が、ないの。うふふ」

詰め寄るシルファに、エイラは不敵に笑みを向けると

体を翻し、コテージから出ていった。

「よし、準備して向かおうシルファ。

体はもう大丈夫だから」

リークは起き上がり指で耳の近くに魔法陣を描く。

「ムーサの加護をお与えください」

魔法陣が耳の中に入っていく。

「......今のは?

なんだか今までのとは違って、文字のようなものがいっぱい書いてあったわね」

シルファがリークに尋ねると、僕がシルファの方を向く。

「まぁ、ちょっとね。

音と空気を分析して、視界に反映させれるんだよ。

目は閉じていても、形くらいは見えてるよ。」

「んーよくわからないけど、音と空気の情報で何となく見えるのね?」

「そういうこと、さあ行くよ」

僕はそういうと立ち上がりソファに置いているローブに手を伸ばす。

「...すごい。ほんとに見えてるのね」

シルファが感心したように呟くと、荷物を持ち立ち上がる。

二人でコテージをでて、エイラの天幕に向かう。


エイラの天幕に着くと、エイラとシャルマは支度を済ませて外で待っていた。


「さぁ、行くぞ。

もう八時だ、これ以上遅れると時間がない」

シャルマはそう言うと足早に森に向かう。

「まったく、せっかちなんだから。うふふ」

エイラもシャルマの後を追う。

「なんか感じ悪いわね。まるでリークが悪いみたいじゃない。」

「まぁまぁ、ほら僕たちもいくよ」

リークはシルファの手を握ると二人は森に向かって歩き出す。


森に入り暫く進んでいくと、隣を歩くシルファがリークに小声で話しかける。

「ねー、ズボンってなんだか蒸れてむずむずするわね」

「ん?むずむずって...」

「言わなくていいから。あと私にも言わせないでね」

「ふふ、早く森を抜けたいね」

リークはクスクス笑いながら答える。

軽口を言い合っていると、前からシャルマが

「おかしい、今日は静か過ぎる。

狼たちもいないな、気を付けてくれ」

「でもバシリスクの魔力を感じない。

巣で寝ているんじゃないか?」

リークが答えると、エイラが

「ええ、その予定ね。

魔力を感じないということは、巣に潜ってるはず...だわ。うふふ」

「もうそろそろで少し広い場所に出るぞ、いいペースだ。

先に様子を見てくる、そこで少し休憩にする」

シャルマはそう言うと煙になり消えていく。


さらにしばらく進んで、少し拡がった場所に出た。

倒木などが並んでいて、物置のような建物がひとつある。


三人が倒木に座り水分を補給していると、建物からシャルマが出てくる。

「ここにあるのは斧や薪だ、おそらく集落の物だろうな」

「ここまで薪を作りに来てるのか?入り口でやればいいのに」

リークがそう言うと、エイラが水を飲み干し答える。

「ええ、今は入り口付近でやっているわね。

でも、昔は、ここにきていたわね。うふふ」

「そういえばバシリスクはいつからここにいるんだ?」

リークも水を飲み終えると、目を閉じたまま上を向く。

「いや、待った。ここからかなり北の方から何かくる。

でかいな.............バシリスクだ!」

全員が息をのむ。

その場の空気が凍りつく。

しばらくしてエイラが口を開く。

「そんなはずは、ないわ。

だって魔力を、感じないもの」

「いや......バシリスクは魔法を使っている。

ということは俺のように......」

シャルマは下を向き黙りこむ。

「魔力と気配を隠してきている!?」

僕が続きを口にすると、さらに空気が凍りつく。

「誤算だ。夜にしか動けないんじゃなく、夜が動きやすかっただけなのか!」

シャルマはそう言うと、下を向いたまま歯を食い縛る。

「このスピードはまずいぞ。会敵するまであと10分足らずだ」

シャルマは下を向いたまま何かを考える。

エイラは無言で北の方を見つめている。

シルファはリークの隣に来ると、無言で手を握る

北から猛スピードで進んでいる物体は

リークの目には悪魔の槍のように見えていた。










  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る