第六章 沈黙の森林 第三話 商業団の集落



低い野太い声が響く


......リークよ。


時間がない。


......の力で.....助......。


......と母さん......のむ。



......さよ

......朝よ、起きて。

「ん.....。今の声は......?」

僕はゆっくりと体を起こし、隣を見るとシルファがベッドに座っている。

「リーク朝よ、起きてってば」

少しふくれ顔で、こちらを見ている。

「今......父さんの声が」

「誰も来てないわよ。それより、みんな下のテーブルに集まってるわ」

シルファはそういうとベッドを降り、小窓のカーテンを開ける。

「大丈夫?先に行くから早く来てね」

シルファが部屋を出ると、階段を降りる音が聞こえてくる。


今のは、父さんが最後に残した光だ。

けれどよく思い出せない。

「......よし。行くか」

リークは部屋にある椅子に掛けてあるローブを羽織ると、

寝室を出て階段を降りる。


階段を降りるとテーブルにはもう三人が集まっている。

「おはようみんな」

リークは先に声をかけると、レーネがにっこり笑いながら元気よく返してくる。

「っはよー!よく眠れたよ!」

アラムスは険しい表情で

「......ああ」

とだけ呟いた。

リークがシルファの隣の空いている窓際の席に座る。

しばらくの沈黙が続き

「お待ちどう!」

厨房からサリアが朝食を運んでテーブルに並べる。

「皆、やけにしんみりしてるねぇ。

まぁ、ちゃんと食べて元気だしな」

にっこり笑いかけると、サリアは厨房に戻っていった。

「いただきます」

「いっただっきまーす」

リークとレーネが同時に声を出し、

朝食に手をつける。

「......いただきます」

シルファが少しあとに、食事を始める。

「あれ?食べないの?美味しいよ?このパン」

レーネがアラムスの顔を覗き込み話しかける。

「......なぁリーク。俺はこれから先お前の旅に同行したとして、

少しでもお前の助けになれるのか?

......俺は、なれる気がしない。

シルファの事もレーネの事も......。

俺じゃ誰も守れないんだ。

相手にしている敵の次元が......違い過ぎるんだよ。」

「君の言っていることはわかってる。

ここから先は僕も皆を守りきれるかわからない。

セレネのアトランティス......

あれを見たときも、正直打つ手が思いつかなかった。

結局師匠がいつも守ってくれているだけなのさ。無力だよ」

リークが食事をとめ、外を眺める。

「ここからはシルファと二人で行くよ」

リークがそういうと、レーネが悔しそうに

「......わかってる。リークはみんなを思ってそう言ってるんだよね」

そういうと、俯き黙りこむ。

「私は来るなと言われてもついていくわ。

放っておくと寝坊するし、すぐ何かに巻・き・込・ま・れ・る・し」

最後の一言を強調しながら、シルファは肘でリークの脇腹を突く。


ぐふっ

不意を突かれ、僕は脇腹を抑える。

「......シルファ。すまん......俺にはお前を守れる力は......くっ。」

アラムスが悔しそうに俯き下を見る。

「ってて。

アラムス、君はここに残るんだ。

残らなかったとしても、別行動の方がいい。

揉め事は僕がいるから起こるんだよ。

魔法使い......だからね」

「悪いリーク。そうさせてもらう。

いつも......これからもだな。俺が太刀打ちできる相手じゃないことはわかる」

「あたしも......ここに残ろうと思ってる」

レーネも寂しそうに答える。


「貴様らには向かうべき所がある」


ん?

四人が同時に厨房前のカウンターの方を見る。

そこには、小さくなった(元の大きさに戻った)ルーシュが、

椅子に腰掛けてこちらを見ていた

「師匠、向かうべき所とは?」

「一番最初に聞くのそれじゃないでしょ」

僕がそういうと、シルファが呆れ顔でこちらを向く。

「俺たちが向かうべき所とは一体どう言うことだ」

アラムスがルーシュを睨む。

ルーシュは腕を組み話を続ける。

「ふん、貴様らが殺した翼竜。あれは竜の里を追い出されて悪さをしていたようでのう。

その牙を持って行くとあるいは......」

ルーシュがアラムスの腰に吊られている翼竜の牙を指差す。

「......これか?これがなんだと言うんだ」

アラムスがルーシュに問いただすが、

ルーシュはニヤリと笑うと

「行けばわかろう。小娘も連れて行け」

「ちっ」

アラムスがルーシュを睨みつける。

「行こうよアラムス。このままじゃ......それに、

ルーシュさんはあたしたちにしかできない何かを......。

行こう」

レーネがアラムスを見つめながら言う。

「......ちっ。

何処にあるんだ......竜の里とやらは」

アラムスが険しい表情になると、朝食を貪り始める。

「それを知る者がこの町にいる。

そやつに聞くんじゃな。

人間は好かんでのう、私の助力はここまでじゃ」

ルーシュは出口に向かい、ドアを閉める瞬間アラムスを睨む

「自らの死をかえりみず仲間を守る覚悟が、貴様にあるのなら......な」

バタン。


アラムスは食事を終えると、勢いよく立ち上がる。

「リーク、また会おう。

行くぞレーネ。

竜の里を知るもの、見当はついている。」

アラムスが勢いよくドアを開け、宿を出ていった。

「あーあー......。

行ってくるねリーク!

何かを掴んで二人を追いかけるから、きっと」

飛び出していくレーネの横顔。

目から涙がこぼれているのが、

一瞬見えた。

「さてと、私たちも出発しましょう」

シルファが立ち上がり、宿を出る。

「サリアさん!」

リークが厨房に向かい声をかけると、

厨房からサリアが出てくると、にっこり笑いながら

「お代は鎧の男前からもらってるよ。

行ってらっしゃい......気をつけてね」

「はい。お世話になりました。」

しっかりお辞儀をすると、振り返らずに宿を出る。

外で待つシルファはこちらに向くとにっこり笑いかける。

「さて......と、行こうか!」

にっこり笑いかけると、貴族の屋敷通りを抜けた先の東門へと歩き出す。

途中旅の食料や、服等の買い物をして

東門を出ると、目の前には広大な草原が広がっている。

「ほえー......すっごく広いわね」

シルファが呆気にとられている。

僕がシルファの分の鞄を持つと、

「荷物は持つから、頑張ろう。

おそらくあのすっごく遠くに見えてるのが商業団の集落......んー

町?なのか?あれは。

うん、あそこまでファイトー」

「魔法で......飛んで行けたり......」

シルファは困り顔でこちらを見る。

「知ってるだろー、ここ最近力を使いすぎて

今は温存しなきゃならないんだよっと」

二人分の鞄を肩にさげると、僕は歩き出す。

「じゃ、あそこまでその鞄は、あなたがずっと持っててね!」

シルファがニコニコしながらスキップで僕を追い抜いていく。


風になびく美しい白銀の髪

その後ろ姿を見ると

僕はどこか懐かしく感じた。













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