第六章 沈黙の森林 第二話 霞む記憶の欠片
「はい、お待ちどうさま」
宿屋の店主サリアはテーブルに食事を運び終えると、にっこり笑い厨房に戻っていった。
レーネを二階のベッドに寝かし、一階のテーブルに四人が集まっている。
「小僧、セレネという魔法使いの事を教えておこうか」
ルーシュは水を一口飲むと、テーブルに置きリークを見る。
「おおかた話は本人から聞いています。
けれどあの人は、なんだか危ない。
野心があるのか、、、僕にはそう感じました。」
リークは水を飲み干すと、続ける。
「あの魔力、精霊魔法。
師匠が来なければ危ない所でした。
彼女は処刑という名目であれ、殺すことに抵抗が一切ないようでした。
あれが、六魔法衆国六賢者の処刑執行人、、、」
リークは俯き頭を抑える。
「小僧、、、記憶が戻りつつあるようじゃな」
ルーシュは腕組すると、話を続ける。
「恐らくセレネは六魔法衆国から抜け、対立するつもりじゃろう。
六国のうち一番豊かな国はセイレーンじゃからな。
が、知と力はノワールに劣る、、、。
それだけでセイレーンという大国は、ノワールの管理下になってしまうからの。
テムプスはノワールに落ちておる。
薄々感づいてはおろうが、光の賢者は、、、
小僧、お前の父フォーカスじゃからの」
リークは俯いたまま、ルーシュの話を引き継ぐ。
「けど父さんの力は、ノワールに勝ることはなかった、、、。
父さんは、母さんと思われる女性と幼い女の子を取り戻しに時計塔に行きました。
けれど帰っては来なかった、、、。
最期に父さんが放った光には、僕が時計塔を引き継ぐんだと。
それで時計塔に行きましたが
そこからは何があったのか思い出せません」
ルーシュは少し目を閉じ、
「その記憶はテムプスにある。
じゃが、今の小僧にはまだ早い。
記憶が戻ることはおろか、塔に食われるかもしれん。
まずはここから東に行き、アルベスという者に会いにいくとよい。
グランディールという国じゃ」
「わかりました、アルベスさんですね」
「うむ、では私は戻るとしよう。
小僧、くれぐれも無理はせぬように。
貴様らもな」
ちらっとシルファとアラムスを見ると、ルーシュは宿屋を出た。
リークはシルファとアラムスを見ると、
「、、、ということなんだ。
僕はグランディールという国に行く。
他の皆には強制はしない、よく今晩考えてくれ。
ここに残るという選択肢もある」
僕がそう告げると、アラムスがゆっくりと立ち上がり、
「、、、悪いリーク。少し、考えさせてくれ。」
掠れた声でそういうと、二階の部屋にいった。
「シルファも、よく考えてくれ。」
「私もグランディールに行くわ。
ここまでリークは、自分の身を挺して私たちを守ってくれた。
足手まといになるかもしれないけれど、私は少しでもあなたの助けになればって、、、」
シルファはそういうと、小窓から外を眺める。
「アラムスとレーネはもう限界よ。
ルーシュさんのあれを見て絶望しているわ。
あんな力の存在の前では、私たちは赤子のように、、、
まるで何もできない、ただ見ているだけしか」
「、、、僕も似たようなもんさ。
いつも師匠に守られているよ、自分で生き抜いたことなんて今まで一度もなかった。
魔法が使えたとしても、結果が何もできていなければ同じさ」
リークはそういうと立ち上がり、シルファの頭を撫でると宿屋の出口に向かう。
「どこにいくの?」
シルファは不安そうに見つめる。
「アラムスを一人にしてあげたいんだ。
それと、少しやることがある。
シャルマの動きが気になってね、、、
油断できない奴だから」
「、、、そう。なら先に休んでるわね。
気をつけてね、、、」
おやすみと言って僕は宿屋を出ると、細い道に入りシャルマの隠れ家に向かう。
隠れ家につくと、小さな灯りが漏れているので
入り口を小さく叩く。
「遅かったな」
ドアが少し開くと、そこにシャルマの姿があった。
「中に入れ。少し情報を掴んだ」
そういうとシャルマは椅子に座り、リークにも促す。
リークは無言で椅子に座ると、シャルマを見る。
至近距離で見ると、背丈はリークと同じくらいだが
体がすごく細身で、気品漂う目をしている。
「情報なんだが、例の魔界士はギムリーという名前らしい。
闇の賢者ノワールに造られた魔界士らしいが、媒体はノワールの左腕、、、
あの魔力はこれで納得がいくな」
リークは驚き、
「自分の左腕を?!」
「ああ、そうらしい。
だが、魔界士を造るにはノワールだけでは無理だそうだ。
ここから東にあるグランディール、そこにいるであろう獣人アルベスの力が不可欠らしい」
シャルマは話終えると、カップのお茶をすする。
「、、、アルベス。なるほど、師匠がアルベスに会えと言っていた。
その事を言っていたのかもしれないな」
リークもお茶をすする。
「それでだ。俺もグランディールに向かう事にした。
だが人間と馴れ合うのはごめんだ。
ここから東に草原を進み、真ん中辺りに行商人のたまり場があるらしい。
そこで落ち合うのはどうだ?
その先沈黙の森林は俺一人では抜けれん、ここは協力といかないか?」
シャルマはリークに手を差し出す。
「なるほどね、それで情報提供か。」
リークはシャルマの手を取ると、しっかり握る。
「成立だな。では商業団の集落で会おう」
「、、、細すぎるな。大丈夫なのか?」
「お前には関係のないことだ」
シャルマはさっと手を引くと、煙となって消えていく。
「さて、宿に戻るか」
リークはゆっくり立ち上がり、隠れ家をあとにした。
宿屋に着きそっと中に入ると、シルファがまだテーブルに座っている。
「ただいま、遅くなったな。」
「おかえりなさい。私も、レーネを一人にしてあげたくて、、、」
「何があったかしらないけど、一番手前の部屋使っていいよ」
店主のサリアが厨房からこちらを見ている。
「ありがとう、サリアさん」
「ありがとうございます。お言葉に甘えさせていただきます」
二人が返事をすると、サリアがにやっと笑いながら、
「声、抑えてね。あ、後ベッド古いから気をつけて」
そういうと厨房に戻っていく。
「はぁ.....」
「はぁ.....」
二人同時にため息をつくと、一緒に部屋に入る。
ベッドが一つなので、一緒にベッドに入る
「明日、ゆっくりアラムスとレーネの話を聞こう」
「そうね」
シルファはリークの左腕を枕にして胸の辺りに顔をうずめる
「やっぱりここが一番落ち着くかしら」
そういうとスースーと眠り始めた。
「無防備が過ぎるだろ、、、」
そう呟くと、リークの意識も闇に消えていった。
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