第五章 暗躍する異端魔法士 第二話 ヴィーリームの貴族
「一度宿屋に戻ろう」
ルーシュはそう言うと、リークの目に手を充てる。
「しばらく見えんじゃろうな......。ゆっくり帰ろう、私が案内する」
ルーシュは立ち上がり、リークの手を取る。
「ありがとうございます師匠」
そう言いながらリークも立ち上がる。
「俺はそろそろ行く。これから奴らのアジトを調べるのでな」
シャルマは煙となり消え去った。
「主街区の方が道がいい。手を離すでないぞ」
ルーシュはリークの手を引き歩き出した。
目を閉じたまま歩き続けていると、
やがて周りが騒がしくなってくる。
そのまま歩き続けていると
「もうすぐ宿屋じゃ」
周りが静かになっていき、やがて扉を開く音が聞こえる。
「着いたぞ小僧」
ルーシュはリークの手を取り中に入ると、
アラムスとレーネとシルファが一階で食事をしているのが見えた。
三人と目が合うと、手振りで静かにと告げる。
三人は少し戸惑っているが、声を出すことなくリークを見つめている。
ルーシュはそのままリークを引っ張り、二階に上がり部屋に入る。
「少し横になっていろ。私は隣の様子を見てくる」
ルーシュはそう言うと、リークをベッドに寝かせる。
「わかりました。みんなには内密に頼みます」
リークはそう言うと、呼吸を整え眠りだした。
ルーシュは部屋を出て一階に降りると、三人が座る席に着く。
「何があったんだ。リークの目はどうした?」
アラムスが静かに聞き出す。
「ちと厄介な敵がいてのう、そやつらと戦った代償じゃ。
大丈夫、しばらくすれば目は開けられるようになる」
ルーシュは答えると、テーブルの水を飲む。
「......そう。またリークなのね......。
私、リークの部屋にいるわ」
シルファは立ち上がると、二階に上がって行った。
レーネは二階に上がるシルファを見届けると、俯いてしまう。
「ところでお前たち、金の目星はついておるのか?」
ルーシュはアラムスを見ながらそう言うと、
「ああ、そのことか。
金はもう手にいれてある。
翼竜の牙を貴族に買い取ってもらったからな。
翼竜の牙は稀少で、高値で取引されてるのさ」
アラムスは答えると水を飲みほす。
「竜族は誇り高い種族じゃ。
いずれ我々に報復に来るじゃろう......。
では私は一度里に戻る。
小僧をよろしく頼む」
ルーシュはそう言うと立ち上がり、宿を出て行った。
「行っちゃったね」
「ああ、忙しいんだろう」
レーネとアラムスは立ち上がると、宿を出る。
「しばらくそっとしておくか......」
アラムスがそう言うと、レーネも
「そうだね......あ!貴族のとこ、案内してよ!」
「よーし。主街区を回って行くか」
アラムスはそう言うと、主街区に向かって歩き出した。
レーネは一度立ち止まりリークの部屋の窓を見上げる
「......大丈夫よね」
「ほーら、いくぞレーネ」
「わかったってー!」
レーネは小走りにアラムスを追いかける。
主街区に着くと、様々な店が並んでいる。
大きな建物には商工会の看板が上がっている。
「ここが商工会か。リークが起きてからのほうが良さそうだな」
アラムスはそう言うと、ふたたび歩き出した。
「買い物は帰りにしようよ。荷物持って歩くのしんどいよ?」
「そうだな、先に貴族のところに行くとしよう」
主街区を過ぎ歩き続けていると、立派な建物の並ぶ通りに入る。
「ここらが貴族達の住まいだな」
「立派な建物よねー」
二人が歩いていると、道を歩く貴族が声をかけてきた。
「貴方はもしや、ケーティスの兵士長殿ではございませんか?」
アラムス程の背丈で細身の男。黒髪で少し長く、気品漂う顔立ち。
「......あなた方は?」
アラムスが険しい顔で答える。
「私はこの街の貴族長、トゥーエルと申します。
実は対魔法騎士団が全滅したらしくて......
何かご存知ないかと思いまして」
「......あなたは騎士団のことについて詳しい事を知っておられるのですか?」
アラムスがそう言うと、
「立ち話もなんですから、屋敷へご案内します。
どうぞこちらへ」
そう言うと、トゥーエルは歩き出した。
「ねぇ、大丈夫なのあれ?」
レーネは顔を見ながら小声でアラムスに聞く
「騎士団の事も気になる。俺が話を聞いて来るから宿に戻るか?」
アラムスが答えると、レーネは困り顔で
「今戻るのって空気読めない奴みたいじゃん......
いいよあたしも行くから。
彼、イケメンだしね」
「なんだそりゃ。まぁいい、ついていくぞ」
そう言うと、レーネとアラムスはトゥーエルの後を追う。
主街区を過ぎ、貴族達の住む通りを歩き続ける。
東に回り込むように進んで行くと、
先の方で草原になっているのが見える。
「城の裏側は草原になっているのか」
アラムスが呟くと、トゥーエルが答える。
「ええ、兵士達の訓練もここでやっておりますよ。
私の屋敷は草原を越えた先にございます、もう少しで着きますので」
トゥーエルは振り返ることなく歩き続ける。
通りから草原に出ると、急にトゥーエルが足を止める。
「どういうことでしょう......草原が荒らされておりますね」
アラムスがその光景をみた瞬間、ルーシュの言葉を思いだした。
「訓練の痕跡ではないですかな?」
アラムスがそう言うと、トゥーエルは笑いながら
「あはは、派手にやらかしましたね」
歩き出した。
アラムスは少し距離を取り、レーネに小声で話しかける。
「これはもしかしたら、リーク達が戦った跡かもしれん。
レーネは先に宿に戻ってリークに知らせてくれ」
「......わかった」
レーネが戻ろうとしたとき
「どうかいたしましたか?」
トゥーエルが振り返る。
その穏やかな笑みに、アラムスは戦慄を感じた。
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