第五章 暗躍する異端魔法士 第一話 闇にのまれし賢者

ルーシュは一定の距離をあけて、黒いローブを追う。

カルシアとの密談の内容では、ギムリーの屋敷に向かうと言っていた。

ギムリーとは何者なのか気になるが、それよりも黒いローブの魔法使いから滲み出る禍々しい気配。

魔力のそれとは全く違う何かを感じる。

だんだんと道は狭くなり、路地裏に進んでいる。

しばらく後をつけていると、遥か前方に草原らしき場所が見える。

黒いローブが草原に出ると、少し離れたところから別の魔力を感じた。

「......この魔力、シャルマとやらか。

まさか奴の仲間......?」

路地裏に隠れたまま草原を見渡す。

するとシャルマが疾風の勢いで黒いローブに襲いかかる。

「これはどういうことじゃ......」

シャルマの電光石火の一撃は黒いローブの

風によってかきけされた。

「力に差がありすぎる、無謀じゃな」

すると、地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

これは精霊の力を引き出した精霊魔法陣と、リーク固有の森羅万象を混ぜた魔法陣。

「......そんな!小僧は今......」

黒いローブを荒れ狂う風が襲いかかると集束、真空の刃となった。

「こんな大魔法......魔力のない小僧には......」

そんなことを考えていると、黒いローブは無詠唱で真空の刃を放ち、弾き返した。

すると、黒いローブが何者かに話しかけると不敵に笑い続けている。

草原を見回すと、少し離れた建物の陰からリークが姿を見せた。

「小僧!寝ておれというたのに!」

ルーシュは草原に飛び出していた。


まずいな、魔力はもう残っていない。

シャルマ一人の魔力で太刀打ちできそうもない。

仕方ない。

覚悟したその時、少し離れた壁の陰から一人飛び出す。

「......あれは!師匠!」

僕がそう叫ぶと、シャルマは援護するべく飛び出していた。

「火は風と共に、その力を高め合う。焼き払え」

シャルマの両手から炎と突風が放たれると、

混ざり合い炎の竜巻となって黒いローブに襲いかかる。

「きゃはははは。これはなんの遊びだ!

話にならんぞ!」

黒いローブはそう叫ぶと、片足で思いきり地面を踏む。

すると土煙が舞い上がり、炎の竜巻を飲み込んでいく。

「我に眠るは古の始祖が魔術。

大地は我の力に答え、その力を示す。

大気は収縮し、やがて轟雷となる。

撃ち砕け」

ルーシュが黒いローブの背後から魔法を放つ。

黒いローブはシャルマに気を取られ、ルーシュの存在に気づくのに少し遅れた。

黒いローブが操った土煙が固まり、大きな壁となり黒いローブに襲いかかると同時に

背後から轟雷が突き進んでくる。

「......く!」

黒いローブが轟雷に向かって手をかざすが、轟雷は容赦なく突き抜け、

土の壁に当たると消える。

黒いローブは轟雷を受けるが倒れず、土の壁を回避するべく飛び退く。

「逃がさんぞ!」

ルーシュは追撃の一撃を放つ。

「水よ爆ぜ...」

「ダメだ師匠!!」

僕が叫ぶと同時に今度はルーシュが飛び退いた。

すると今まで立っていたところの地面が突如爆発し、土煙をあげた。

「あらぁ?はずしたかしら?」

妖艶な声が聞こえてくる。

黒いローブは地面に膝をつき、苦しそうにしている。

その向こうにもう一人の、黒いローブ姿。

「仲間か......」

シャルマが煙となり僕の隣に現れる。

「そうみたいだ。三対二ではあるけど、分が悪いな」

僕はシャルマにそう言うと、ルーシュの方を見る。

ルーシュが黒いローブの女に話しかける。

「......ほう。お前は北東の荒野の......

闇に堕ちたか?テムプスの守護賢者よ」

黒いローブ姿の女はフードを取る。

黒髪が肩までの色白の美しい顔立ちの女。

女がルーシュを睨み、答える。

「あの国は捨てたわ。人間になぶり殺される道を選んだのよ?

私は違うわ、人間を滅ぼしてでも生き残る。

ルーシュ。あなたも死ぬのは怖いでしょう?うふふ」

ルーシュは険しい顔になり、黒いローブの女に返す。

「ミラリカ、私は死ぬつもりはない。

戦争をするつもりもな。

人間ごとき取るに足りん。

メリアの石とて万能ではないからのう」

するとミラリカはいっそう目を細める。

「......ふーん。

赤毛の坊っちゃんは死んだハズよね。

メリアの石のこと、どこで知ったのかしら?」

「......お前が......ジーロを......」

僕は怒りを抑える事ができなかった。

リークの体から薄い光が漏れる。

「なにかくる!下がれミラリカ!」

黒いローブの男は叫ぶと地に手をかざす。

地面に描かれた黒い魔法陣から双頭の魔獣が出てくる。

「あいつを喰らえ」

黒いローブはニヤリと笑うと、魔獣をリークに向け放った。

隣にいたシャルマは薄い光を見ると、煙となりルーシュの隣へと現れる。

「奴を止められるのはおまえだけだろう?

何もかも消し飛ばす前に止めるんだな。

あの魔界士は殺すな。聞きたいこともある」

「わかっておる!」

そう言うとルーシュはリークに向かい走り出した。

「小僧落ち着け!目を閉じよ!」

「あらぁ、あなたの相手は私でしょう?」

ミラリカはルーシュに向け魔法を放とうとしたその時、

「......遅いよ」

薄い光に包まれたリークの目が輝くと、リークの姿が消える。

それとほぼ同時に、しゅばっという音と共に魔獣が消え去る。

黒いローブの男はリークが消えると同時に自分の体を黒い魔法陣で包み込んでいた。

「ミラリカ!」

黒いローブの男が叫ぶと同時に、ミラリカは横に飛びながら魔法陣で自分を包む。

その瞬間、リークはミラリカの背後にいた。

僕の右手が閃きミラリカの背中に突き刺さる

その瞬間、黒い魔法陣の力が僕の右手を止めた。

ミラリカは横に飛んだ勢いのまま、さらに後ろに飛び退く。

「ちっ......あなたまさか......!」

「ミラリカ!一旦退くぞ!

俺の屋敷は捨てる。

トゥーエルと合流するぞ」

そう言うと、黒いローブの男の魔法陣がミラリカをも包み込み

闇へと消えると陣も消え去った。

僕は目を閉じるとその場に崩れ落ちる。

ルーシュがリークに駆け寄ると僕の頭をかかえる。

「すいません師匠、力が足りず逃がしました」

目を閉じたままルーシュに笑いかけると、

「馬鹿者......ミラリカ相手によくやった」

そう言うと、僕の顔にルーシュの涙が落ちて口に入る。

口に入った涙は、甘くしょっぱい味がして、

ルーシュの愛情を感じた。









  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る