第四章 対魔法騎士団 第五話 魔界士

ガチャ。

そっとドアの閉まる音とともにリークは目を開ける。

ルーシュが階段を降りる音が聞こえてくる。

窓に近づき、カーテンの隙間から路地を見回すと、

ルーシュが主街区に向かって歩いていく。

「ごめん師匠、師匠を危険にさらしたくないんだ」

そう呟くと部屋を出る。

シルファとレーネの部屋の前で耳を済ませると、

二人の寝息が聞こえてくる。

静かに階段を降りると、宿屋の店主のお姉さんに声をかける。

「店主さん。少し買い物に行ってきます」

厨房から出てきた店主がカウンターの中に入り、

「あたしのことはサリアでいいよ。お嬢さん達は見ててあげるから安心しな」

にっこり笑うと、厨房に戻って行く。

「ありがとうサリアさん。行ってきます」

そう言うと、宿屋から出て城門の方に歩き出す。

途中路地裏に入り狭い隙間を魔力をたどりひたすら進む。

しばらく歩いていると、路地裏の途中の建物の入口に着く。

「ここか」

僕は小さなドアを開けると、声をかける。

「いるんだろシャルマ」

薄暗く狭い部屋の中には、テーブルと二つの椅子だけがあり、

片方には茶色いローブに身を包んだ鋭い眼光の魔法使いが座っている。

「待っていたぞリーク。

やはりお前......、まぁいい。

お前はこの街で変な力を感じているのだろう?」


「この力が何なのかシャルマは知ってるのか?」


「俺にはわからん。力を感じ取ることもできていない、だが面白いやつを見つけたのでな。

お前の力を借りたい」

そう言うとシャルマは手でリークを椅子に促した。

僕は座りながら続きを聞く

「どういうことだ、騎士団は全滅したじゃないか」

するとシャルマの目が鋭くなり答える。

「黒いローブに羽の首飾り、そいつは魔界士の証だ。

さっき街を歩いているのを見かけてな」

「魔界士ってなんなんだ?」

僕はシャルマに聞くと、シャルマは少し驚いた様子で

「魔界士を知らないか......まぁいい。

魔界士というのは、ある魔法使いがさらなる力を求め

魔法使いと獣人の血を混ぜ作り出した亜人のような者達だ。

獣人とは仲間の獣を呼び出す力がある。

その力を魔法使いに合わせたというところだ」

「だとしてその魔界士が何か問題なのか?」

僕が聞き返す。

「問題だな、魔界士とは戦争のために生み出された種族だ。

それがこの街にいる、そしてメリアの石もな。

考えられるのは、果ての里との戦争じゃないか?」

シャルマは鋭い眼光をリークに向ける。

「......なるほど、確証はないが可能性はあるね。

だとして、君に何の関係が?」

僕はシャルマを見つめる

シャルマは目を閉じると落ち着いた声で話し始めた。

「俺が産まれたのはヴィーリームより遥か北にある深縁の森。

深縁の森の最深部にも、魔大樹があり里がある。

俺はそこからきたが、俺の先祖の墓は果ての里にある。

俺はそれを守りたいだけだ」

僕は俯き考える。

果ての里と深縁の森。

そこに一番近い国にメリアの石。

確かに話ができすぎている。

「よし、それでその魔界士をどうすればいいんだ」

「獣を呼び寄せる前に始末したい。

ただし、できるかどうかはわからん。

奴は魔力を消していた、底が知れん」

「やってみよう。作戦はあるのか?」

僕がそう聞くとシャルマの目が鋭くなり、

「この路地裏を進み続けると、城を回り込み裏手にある草原に出る。

そこの地下に奴のアジトがあるが、アジトには入らず待ち伏せて草原で始末する。

もしアジトに入られたら攻撃はそこで中止だ。

どんな危険があるかもわからんからな」

そう言うと、シャルマは立ち上がり外に出る。

「わかった」

僕も立ち上がり外に出ると、路地裏を走り出す。

シャルマは煙となり消えていく。

「俺は先に行って様子を見ている。早く追い付け」

「できるだけ頑張るよ」

苦笑いしてシャルマを追った。

シャルマの魔力をたどり細い路地裏を右往左往して進んでいると、

だんだんと建物が少なくなり、草原が見えた。

シャルマの魔力は草原の手前の建物の間に続いている。

それを追いかけていくと、シャルマが建物の隙間から草原を見ている。

「早かったな、そろそろ来るぞ」

そう言うと、シャルマはローブを脱ぎ捨てる。

僕は固唾を呑んで草原を見ていると、

建物の陰から黒いローブが出てくると草原を歩いていく。

「......あれか。どうする?」

リークがそう聞いた時にはシャルマは飛び出していた。

疾風のごとく黒いローブに近づいていく。

黒いローブがこちらに気づき、振り向こうとした時には、

シャルマはもう魔法を放っていた。

「毒霧よ、肉を喰らえ」

シャルマの全身から煙が溢れてくると、黒いローブを包んだ。

シャルマはそのまま通りすぎると振り返り煙を凝視する。

「まるで手応えがないな」

すると黒いローブは風で煙を振り払う。

「わははは。その程度の魔力でどうしようというんだ」

黒いローブは笑っている。

「森羅万象の力をもって、我が魔法に力を。

大地の精霊よ我が血を喰らいその力を。

風は吹き荒れる。

その風はやがて集束し、

巨大な真空の刃となる。

断て」

詠唱が終わると巨大な魔法陣が草原に浮かび上がる。

シャルマは全力で後ろに飛び退く。

黒いローブは魔法陣に気づくのが少し遅れた。

吹き荒れる風が黒いローブを襲いやがて集束すると、

図上から不可視の真空の刃が降ってくる。

キーーーーン。

甲高い音が聞こえてくる。

真空の刃が黒いローブを捉える瞬間。

ギャイーン!

不可視の真空の刃が、弾き返された。

「わははは!惜しかったな。

今のは少し焦ったかな。

だが君にできることは私にもできることだ。

そうだろう?」

黒いローブはこちらを見て言った。

僕は草原に出ると、黒いローブにジリジリと近づいていく。

「へぇー。今のを止められると、正直もう勝てる自信がないな」

僕はにやりと笑いながらも、次の一手を考えていた。

シャルマは煙となり僕の隣に現れる。

「今のは魔力を感じなかったぞ。まだ奥の手があるのか?」

僕に小さな声で聞いてくる。

「いや、魔力がないだけさ。

次の一手が正直思い浮かばない」

そう言うと、黒いローブを見つめる。

シャルマとリークを見ている黒いローブは不敵に笑い続けている。

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