第四章 対魔法騎士団 第四話 ヴィーリーム商工会

ゴーンゴーンゴーン

教会の鐘の音が響く。

少年は目を覚まし、教会のベッドから降り、窓の方へと歩み寄る。

栄えた街並みの中央にそびえ立つ遥か高い時計塔。

少年は時間を刻む時計の針を見つめる。

時が......父さん......

優しい温かな力が体を包み込んでいく


「リーク......目を覚ましてお願い」

シルファはリークの胸に手を当て、言葉をかける。

僕はゆっくりと目を開けると、師匠の胸のあたりが見える。

どうやら師匠に頭を抱きかかえられているようだ。

気を失ってすぐなのか、先程と様子が変わっていない。

「......師匠、その......胸が」

そう言うとルーシュは体を離して頭を持ったまま僕の顔を見つめる。

その顔には涙が滲んでいる。

「大丈夫ですよ、閃光の力が思ったより大きくて」

僕はそう言いながら師匠に笑いかけると、

ルーシュは涙を拭い、

「ああ、助かったぞ小僧。やつらを逃がせば攻城戦になっていたかもしれん」

そういうとリークに笑いかけた。

「......よかった」

シルファはそう呟くとリークの胸からそっと手を離す。

「リークのおかげでヴィーリームには入れそうだ。助かった」

近くに立っているアラムスがリークに手を差し伸べると、僕はその手を掴み立ち上がる。

「全部リークに背負わせてる......ごめんねリーク」

アラムスの隣でレーネが俯きそう言った。

「みんなが無事ならそれでいい、先を急ごう」

そう言いながらヴィーリームに向けて草原を歩き出した。

「小僧あまり無理をするでないぞ」

ルーシュが心配そうに隣に追いつき歩き出した。

後ろの三人も心配そうに後をついてくる。

草原を歩く間、僕は気を失っている間に見る夢の事を考えていた。

見たこともない町。うっすらと、もやがかかって見えないあの少年

以前に見た少年に似ている。

彼はいったい誰で、自分と何か関係があるのか

わからないことだらけだ。

そんなことを考えている間に、城門が目の前にあることに気がついた。

「リーク!着いたわよ」

シルファが後ろで大きな声を出すので、はっと意識が戻る。

「......ああ、ごめん少しぼーっとしてた」

「大丈夫かリーク。街に入れれば宿で少し休めるんだがな」

アラムスはそういうと先頭に出て、城門の前に立つ。

頭上から聞き覚えのある声が聞こえてくる。

「騎士団との戦い、面白いものを見せてもらったぞ」

五人が声のする方を見ると、そこには茶色のポンチョで全身を隠しているが

あの鋭い眼光をした魔法使いが城壁の上に座っている。

「シャルマ、君はなぜここに」

僕がそう聞くと、シャルマは答えた

「邪魔な騎士団が消え去ったんだ、ヴィーリームを調査する絶好の機会だろう。

安心しろ、話は通してある。

そろそろ門が開く頃だ、お前たちは商人と護衛ということになっているがな。

門が開くと商工会の人間が出迎える、俺はそろそろ行くとしよう」

そう言うとシャルマは煙となり消え去った。

ゴゴゴゴゴゴ

門がゆっくりと開いた。

その向こうに見えるのは背が低くて小太りの髭を生やした中年の男性。

「ようこそヴィーリームへ。ここの商いを見回りたいとのこと。

どうぞよろしくお願いします、私はカルシアと申します」

「よろしくカルシアさん。僕はリーク、こちらは旅の仲間たちです。

早速なんですが、宿屋に案内してくれませんか?」

僕がそう言うと、カルシアはにっこりとして答えた

「さぞやお疲れでしょう。案内いたします、こちらへ」

そう言うとカルシアは街の方へと歩き出した。

五人はカルシアに連れられ門から少し歩いたところにある宿屋に到着した。

宿屋のドアを開けるとカルシアは声をかける。

「すいません、こちらの旅の方たちに部屋を」

「あー!カルシアさんじゃないですか、どうぞお連れください」

ドアの向こうから女性の声が聞こえてくる。

カルシアはこちらに振り返り、

「どうぞ、私はこれにて。後で主街区にお越しくださいませ、そこに商工会がございますので」

そう言うと歩き去っていった。

リークは宿屋に入る。

テーブルと椅子がきれいに並んでいて、カウンターもある。

造りは木造だが、そんなに古い建物ではないように見えるのは、

手入れが行き届いているからだと思える。

「いらっしゃい。部屋はいくつ必要なんだい?」

にっこり笑い話す女性は、紺色の髪のポニーテール、歳は僕より少し上だろうか。

「二つでお願いします。部屋はどちらに?」

僕が不思議そうにそう聞くと、

「一階は食事処になっているのよ、そこの奥の階段を上がったところに部屋が三つあるわ。

一番奥から二部屋使ってもらおうかしら。」

女性はそう言うと、カウンターの裏にある厨房に入っていった。

階段を上がって一番奥の部屋に着くと、

「一番奥にシルファとレーネと師匠、手前に僕とアラムスでいいかな」

そう促すとシルファとレーネが部屋にはいる。

「キレイな部屋ね、埃一つないわ」

シルファが中でそう言うと、レーネがベッドに倒れこむ

アラムスは部屋には入らず、

「俺は先に行くところがある。みんなは休んでいてくれ」

そう言うと、階段を降りていく。

「わかった、くれぐれも気をつけて」

そう言うとアラムスは手を上げ、宿屋から出ていった。

僕は自分の部屋に入ると、窓のカーテンを閉める。

すると後ろでドアの閉まる音と、

「小僧。少し話がある」

ルーシュがそう言うと、ベッドに座る。

僕も隣に座り、話を聞く。

「鉱山で小僧が見たもの、あれは間違いなくメリアの石じゃった。

それと、台とその周りに散らばっていた骨は人間のそれじゃ。

あのシャルマとかいう魔法使いの言うことは間違いない。

しかし人間を使ってどうやってメリアの石を無効化しとるのかがまだわからん」

「そうですか......。

それよりも師匠、メリアの石が一体どれだけ流通しているのかが気になりますね。

世界中にあるのだとしたらそれはもう、魔法使いが生きていく場所がなくなってきているということになる」

「そうじゃな......。

今はまだわからんが、メリアの石の無効化の方々についても引き続き調べるとしよう。

小僧は少し休みな。力を使いすぎておる」

そう言うと僕の体をベッドに倒し、ルーシュも隣にくる。

ルーシュが僕の胸に手を置くと、僕は眠くなって目を閉じる。

薄れゆく意識の中で、薄く金色に輝く長い髪の女性が優しく笑いかける。

「ありがとう......母さん」

無意識にそう呟き、眠りについた。


ルーシュはリークが寝たのを確認すると、体を起こしベッドに座る。

「母さん......か」

ルーシュはリークの顔を見て優しく笑いかけると、静かに部屋から出て階段を降りる。

一階には誰もいないので、そのまま宿屋から出る。

城門から宿屋までの距離は短く、主街区までは少し離れている。

ルーシュは足早に主街区へと歩き出した。

しばらく歩いていると、道を歩く人がどんどん増えてくる。

道を歩いていると、衣服を売っている店、武器防具、食べ物、薬草など

さまざまな店が増えてきた。

どんどん進んでいると、少し開けた場所に出る。

そこにはひときわ大きい建物、看板にはヴィーリーム商工会と書いている。

入口の前に立ち、魔力を耳に集中させる。

建物の中から声が聞こえてくる。

「旅人は今宿屋に案内しました。これで商談は成立でよろしいですか?」

「ふん、いいでしょう。だが問題はここからです。

カルシアさん、後でギムリーの屋敷に来るように」

「わかりました」

中から足音が近づいてくる。

「まずいな」

ルーシュはそう呟くと、建物の間の狭い隙間に隠れる。

入口が少し開くと、中から黒いローブの男が一人出てくる。

フードを被っていて顔は見えないが、あのローブは間違いなく魔法使いのもの。

「......魔力を隠しておるつもりじゃろうが、私にはわかるぞ」

人混みに紛れて消えていった黒いローブ。

これから何が起こるのか、ルーシュは商工会の看板をただ見つめていた


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