第四章 対魔法騎士団 第一話 鉱山道の狩人

短髪で金髪、体は鍛えられているが細身の男が幼い子供を抱きかかえ、

荒野を歩いている。

歩いているずっと先に、とてつもなく高い建物が見え、それを囲むように街が広がっている。

はるか後方はというと、先が見えないほどの深い森が見える。

細身の男は息を切らしながらも、幼い子供を抱き街の方へと歩き続ける。


......だぞ

......朝だぞ


ゆっくりと瞼を持ち上げると、アラムスがすぐ近くに立っているのが見えた。

「朝だぞリーク、あとはヴィーリームまで鉱山道を降りるだけだ。

出発の準備をしろよ」

そう言うとアラムスは部屋を出ていった。

ゆっくりと起き上がると、まだ頭がジンジンする。

昨日シルファに斧で殴られたことを思い出し少し震えるが、

ベッドから降りると立ち上がり部屋を出る。

外で話し声が聞こえるので、玄関に向かって歩きだす。

玄関を開け外に出ると、アラムス、シルファ、レーネはリークを待っていた。

空を見るとまだ薄暗く、朝焼けも出ていない。

「おはようみんな、よく眠れた?」

ふぁーとあくびをしながら聞くと、シルファがまだ怒りの抜けていない声で

「そうね。誰かさんの師匠が帰ってからはね」

そういうので、はっと思い出す。

「あ、師匠帰ったのか。いつ?」

「夜中に追い返したわよ。あなたに抱きついて寝てたわ。

ハ・ダ・カでね」

そういうと、ジッとリークを睨み付ける。

レーネは苦笑いしながら僕を見ると、

「まぁ......、お母さんのようなものなんだしー......」

そういうと、シルファの肩にポンと手をおく。

「はぁ......お前たちはほんとに忙しいやつらだな......」

アラムスはそう言うと、呆れ顔で鉱山道を降り始めた。

僕は自分の窮地を感じ取り、すたすたとアラムスの隣につき歩く。

すぐ後ろを歩いてくる二人からは、殺気のようなものを感じるが、

振り返らずに進み続ける。

「こっち側の鉱山道はかなり整備がいきとどいているな。

見ろ、あそこの森を抜けた先にでかい門が見えるだろう。

あれがヴィーリームの城門なんだが、

入り口はあそこと東に小さい門しかない。

周りは全て深い堀になっている」

アラムスが先を指さし説明する。

「森の途中で鉱山の関門からの道との合流点がある。

そこを通る時は細心の注意を払うぞ。

なんせお尋ね者だからな」

そう言うと、手を下げ無言で歩く。

だんだんと森が近づいてくると、後ろからレーネが

「げっ。また森」

残念そうにそう言うと、レーネの隣を歩くシルファが

「ヴィーリームに着いたら新しい着るものを揃えましょう」

にこにこしながらそう言うと、レーネも元気を取り戻し

「おー!かわいい服を買いたいな!

あ、でも冒険向きな頑丈なやつの方がいいのかな?」

後ろでそんなやり取りをしているのを聞いた僕は、

もっとも残酷な一言を口にした。

「お金。持って来なかったんでしょ?」

「「あっ」」

後ろから呆気ない声が聞こえるので、アラムスが笑いながら

「そのへんは任せろ!俺に考えがある」

にんまりと笑いながら後ろをチラッと一瞥してから、

森に向き直る。

この状況でなにを任せろなんだか......

そんな事を思いながら森に進んでいく四人。

森の入り口にさしかかると、僕は奇妙な感覚にとらわれた。

「まるで気配がない」

僕がそう呟いて立ち止まると、アラムスが

「何もないのはいいことなんじゃないのか?」

「そうよ。気配がした方が困るわよ」

シルファはそう言うと、レーネと森に入っていく。

すぐ後ろをアラムスがついていく。

まぁいいか。

この感覚は何なのかわからないまま、リークも森に入っていく。

森に入ってしばらく歩いていくと、

少しだけ木々のざわめきが聞こえた気がした。

僕は周りに細心の注意を向ける。

サササササ

風で葉の擦れる音。

サササササ

ザ。

少しだけ違う音が聞こえた瞬間、僕はみんなの肩を少し叩くと、

手で止まれの合図をする。

三人は背中を合わせて固まり構える。

僕は意識を集中して、音の方向を探る。

サササ

ササ

そこだ!と心の中で叫ぶと、少し離れた木にめがけて雷を放つ。

「おっとー!やるねー」

木の裏側から飛び出て木の上に飛び上がった影は、

紫のマントを羽織り、頭には紫バンダナ、紫のマスクをした小柄な男だった。

鋭い目をした男はリークを見ると、

「......同胞か?にしては魔力が弱い奴等だな。

......後の奴等は人間か」

ブツブツ言いながらこちらの様子を伺っている。

「君は魔法使いだな?魔力で気配を消しているのか」

僕は紫の男と目を合わすと、眼球に魔力を集中させた。

「おっと危ない奴だな。

俺の名前はシャルマ。お前の言う通り魔法使いだ」

そう言うと僕から目を逸らす。

「僕の名前はリーク。最果ての國から来た」

そう言うと眼球に集中させた魔力を元に戻す。

「なんだと......。よし、お前と少し話しがしたい」

シャルマはそう言うと木から飛び降り、リークの前に立つ。

「俺の名前はアラ」

「人間に興味はない。下がっていろ」

アラムスの言葉を遮り、アラムスに鋭い眼光を向ける。

アラムスは息を呑み、一歩下がる。

シャルマはレーネとシルファを見ると、

「お前......まぁいい。リーク、ついてこい」

そう言うとシャルマは森の中に入っていく。

「みんな、少し付き合ってくれ」

そう言うと僕は、シャルマの後を追う。

アラムスとレーネとシルファも無言で後に続く。

シャルマはすたすたと森を右に左に歩いていく。

それについていくと、大きめの小屋にたどり着いた。

シャルマが扉を開けると、無言で首を傾け促すので、

僕と三人は小屋へと入ると、中には大きな木のテーブルと木と葉を編み込んで作られたソファーがあった。

シャルマはソファーに座ると僕をみて、

「リーク。ここは魔法使いの来る場所じゃない」

そういうので

「でも君も魔法使いじゃないか」

僕は当然の疑問を投げかける。

「よく聞け同胞。俺はここで人間を始末している」

「なんだって!何の理由があって!」

僕は怒りを露にした。

それを見てもシャルマは冷静に鋭く僕を見て、

「無差別に殺しているわけじゃない。

ここを通るヴィーリームの騎士団だよ。

ヴィーラム対魔法騎士団。

奴等は各地の魔法使いを探して国に連れてくると

......虐殺している」

よりいっそう眼光が鋭くなり、僕を見る。

「な......」

言葉に詰まり、シャルマの眼を見据える。

シャルマの眼光は、この先に待つ何かを、暗示しているように思えた。



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