第三章 ガンガルゼス鉱山 第五話 霧の楽園

森から少し外れたところに、林に囲まれた湖が見える。

林から湖に出てすぐ、一軒の小さな民家がある。

民家は木で作られた小さな2階建てで、下には小さなリビングと台所、

2階は寝室になっている。

そこには、父と母とまだ幼い男の子と女の子の家族が暮らしている。

幸せな家族はリビングで食事をし、湖に出ては楽しそうに走り回る父と幼い子供達。

それを優しく見守る母。

その四人の家族の顔は、うっすらとモヤがかかったようにはっきりとは見えない。

はしゃいでいる家族達のもとに、林から大勢の、鮮やかな銀色の竜の刺繍が入った緑色のローブを羽織った集団が近づいてくる。

母はそれに気づき、三人がいる湖の近くに走り出す。

それをローブの集団が追いかける。

父がそれに気づき、ローブの集団に両手をかざそうとしている。

ローブの集団の先頭の一人の手から、母めがけて青い閃光が迸る。

......やめろ

閃光が、母の背中を捉える瞬間、

......だめだ


「......やめてくれ!!!」

リークは、ソファーから飛び起きて自分の顔を押さえる。

すると、両目から涙が溢れていた。

「......なんだったんだ。今のは......」

少し落ち着くと、ソファーに座り込み目を閉じる。

今頭の中で見た光景が、だんだんと消えていく。

しばらくすると全て闇の中に溶け、目を開ける。

どれくらい眠っていたのか、と考えていると

大浴場からは、まだ二人の笑い声が聞こえてくるので

おそらく五分も経ってはいないだろう。

「「キャーーーー!!」」

突然大浴場から、二人の叫び声が聞こえてきた。

僕はソファーから勢いよく立ち上がり、ドアを開け、大浴場の扉を勢いよくあけて飛び込んだ。

目の前に広がる大浴場は静まりかえっており、目の前には三人の人影が見える。

一番左に、赤毛の細身の女性。

胸は小さく、少しふっくらしている程度。

おしりはきゅっと引き締まっていて、綺麗な細い脚。

真ん中には、白髪の美しい長い髪の女性。

胸は左の女性より大きくて、美しい。

おしりは少しふっくらしていて、女性らしさが際立つ。

そして一番右には、栗色が煌めく長い髪。

体は小さいが、それにたいして胸は大きい方で、

おしりも脚も細い女性。

三人とも、リークの知る人物であることは間違いなかった。

自分の置かれている状況にようやく気づくと、

最後に見た女性の顔を見たまま

「や......やぁ師匠。来てたんだね」

苦笑いしながら手を上げる。

「なんだ小僧か。いいところにきた、背中を流してもらおうかな」

そう言うと、浴槽の脇にルーシュが座る。

レーネがちょぽんとお湯の中に入り、僕に背を向ける。

シルファが俯き、拳を握ると

「......こ......こ......」

それを聞いた僕は、苦笑いしながら

「こ?」

これはまずいが、もう諦めて鉄槌を受け入れることにした。

「ころす!!!!」

そう叫びながら凄まじいスピードで飛んでくると、

僕の顔に拳を突き刺した。

「......ぐぬ。」

僕は感じた事のない痛みのせいで、気を失った。

次に起きると自室のベッドに横たわっていた。

アラムスがソファーに座っている。

「お、勇者のお目覚めか?」

笑いながらこちらを向くので、精一杯の言い訳をする。

「悲鳴が聞こえたんだよ。まさか師匠だったとは......ててて」

顔を押さえながら、立ち上がる。

「わはは、聞こえなかった俺は助かったわけだな」

アラムスは笑いながら立ち上がると、大浴場に行ったので

僕も大浴場に入っていく。

着ているものを脱いで湯に入ると、

「なかなかにいい湯だな!」

アラムスが浴槽の脇に肩をかけて、目を閉じる。

僕も湯に入ると、気持ちよさで意識が遠のく。

しばらく静寂が続いて、アラムスが

「リーク。ヴィーリームに着いたらどうするんだ?」

「国を出たのはいいが、俺たちの目的をまだ決めていないぞ」

アラムスがこっちを向き、真剣な顔になる。

僕は険しい顔になり、

「そうだね、ヴィーリームに着いた時点で話し合おう。

みんなの意見を尊重するよ。

ヴィーリームに残るのもいいと思うし」

僕がそう言うと、

「そもそもなんだが、リークはどこに行くつもりなんだ?」

アラムスが天井を見ながら目を閉じる。

「ある人を探している。それが誰なのか、どこにいるのかもわからないんだ。

今はそれしか言えない」

僕はそう言うと目を伏せる。

「......そうか。まぁ今後の方針はヴィーリームに着いたら決めるとしよう」

アラムスはそれ以上何も聞かず立ち上がると、出口に向かって歩き、大浴場から出ていった。

「......これから......か」

そう呟いて天井を見上げ、ぼーっとしていると、

不意に腕に柔らかくてぷにぷにした感触が伝わる。

おそるおそる隣を見ると、そこにはルーシュの顔があった。

「師匠。僕は二度も死にたくないんですが......」

そう言うとルーシュは僕に、

「案ずるな、やつらは寝ておる」

といいながら笑いかけた。

浴槽から出てルーシュの背中を流す。

白く美しい肌、ルーシュの身体を見る度に煩悩を押さえつけながらルーシュに話しかける。

「......師匠、不思議な夢を見たんです」

「......ほぅ。それはどんな夢か」

ルーシュが目を閉じる。

「林に囲まれた小さな湖に、家族四人の家がポツンと......。

そこに銀色の竜を描いた緑色のローブを着た集団が襲ってきて。

家族の一人が、魔法で殺されそうに......魔法で......。」

僕はそう言うと俯き、思い出そうとしていると。

「なるほどのう。まぁ夢じゃ、気にするものでもなかろう」

ルーシュはそう言うと、身体ごと僕の方を向き

「それより、たくましくなってきたの」

僕の太ももに股がり、笑いながら頭をくしゃくしゃしてくる。

頭をくしゃくしゃされながら、いろいろな感触が伝わってくるため、

煩悩と戦うべく目を閉じて頭の中で考える。

いろんなあれがいろんなところに触れて、ああ、煩悩に負け......。

いやまてよ。

このパターン......どこかで......

まさか......な。

その瞬間

ガチャ。

大浴場の入口の開く音とともに、お馴染みの声。

「......まさかと思って見に来たら.....」

ひっ!

僕はおそるおそる入口の方を見ると、そこには白髪の美女が怒りの形相で斧を構えている。

「.....こ......こ」

「こ?」

僕が苦笑いしながらシルファに聞くと、ルーシュはニヤリとしてさっと飛び退くと同時に、

「ころす!!!!」

ガゴーン!

僕の顔に斧の平たい面が直撃して気を失った。

気を失う寸前に、ルーシュの姿が見え、

今度こそ煩悩に負け、いろいろな感触を鮮明に思い出しながら、

意識が暗闇へと消え去った。







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