第三章 ガンガルゼス鉱山 第四話 ガンガルゼスの頂

......よ。

......もう大丈夫よ起きなさい。

おっとりとした口調。うっすらと金色に輝く白銀の長い髪がなびく。

「......母......さん......」

僕はゆっくりと瞼を持ち上げると、風になびく白銀の長い髪が見えた。

シルファはリークの頭を膝枕したまま、満天の星空を見上げていた。

「......綺麗だ。」

僕は思わず声が漏れた。

「綺麗よね。こんなときだというのに、この星空を見ていると心が癒されるわね」

シルファは星空を見上げたまま答えた。

「あら、私の事だったら嬉しいわね。あと、私はあなたのお母さんじゃないわよ」

クスクス笑いながらリークの顔を見る。

「ああ、幼いときのことだから......今のが母さんなのかもわからないよ」

僕は苦笑いしながら話す。

「僕が幼いとき母さんが死んで、物心ついたときには母さんの事は何も覚えてなかった。

父さんに育てられて、ある時父さんが一人の女性を連れてきたんだ。

それからはその女の人が僕によくしてくれて、僕は母さんと呼んでたんだ。

今夢に出てきた女の人は、その人によく似ていた。

薄く金色に輝く、白い綺麗な長い髪......」

僕はそう言うと星空を見る。

「そう......。いつか会えるといいわね.....」

シルファは哀しそうに僕に笑いかけると、星空を見上げた。

少しの静寂が過ぎると、近くで鎧の擦れる音が聞こえた。

「起きたか。夜になってしまったが、この星空、月明かりなら進めるだろう」

アラムスが立ち上がり僕に歩み寄ると、腕を伸ばしてきた。

僕はそれを掴むと、シルファのすごく落ち着くいい匂いのする温かい膝にさよならを告げる。

「そうだね。シルファのいい匂いと温かい膝がもったいないなぁ」

そう笑いながら立ち上がり、シルファを見ると、

「......そんなこと.....」

と呟き、顔を赤くして俯く。

「こらぁーーーー!いちゃいちゃするなぁーー」

レーネが翼竜が倒れている向こう側にある山頂への入口から駆け寄ってくる。

「一人でどこに?危険だよ」

僕はそう言いながらレーネに歩み寄ると、レーネの頭をポンポンと叩きながら

「ごめんね、心配かけたね」

小さい声で呟く。

「入口だけの偵察です隊長!もう調子はいいの?」

ビシッと敬礼すると、ニッコリ笑いかけてくる。

「ああ、この月明かりなら足下もちゃんと見える。山頂まで登ろう」

そう言うと、僕は入口に向かって歩き出した。

翼竜を通りすぎるころ、後ろを振り返ると

レーネがにこにこしながら後をついてくる、その後ろにシルファがまだ顔を赤くして少し下を向いたまま、一番後ろをアラムスが険しい顔をして歩いてくる。

僕は前に向き直ると、山頂への入口をくぐり抜けた。

中腹から山頂へ続く道は、鉱山内とはまるで違い、緩やかに長い坂になっている。

道のりは長いが、道もさほど狭くなく危険は少ないと思える。

「この調子だと、安全に登り続けられるね」

僕はみんなにそう言うと、星空を見上げた。

「試練を乗り越えたあとは楽をできるってものよー」

レーネは星空を見上げ笑って言う。

「あーなーたーは、何もしてないでしょう?」

シルファもそういうと、笑いながら星空を見上げる。

どんどん道を登っていくと進まずの森の向こう側に、

昨日さんざん逃げ回り苦労して出てきたケーティスの外周の壁が見えてきた。

「シルファにレーネ!俺たちの国が見えるぞ!

皮肉なもんだな!わはは」

アラムスが笑いながら言う。

「ほんとだー!まだ一日しか経ってないのに、ずいぶん前に感じるね」

あははー、とレーネも笑っている。

シルファがレーネを追い抜くと、僕の隣に並ぶ。

「私も、後悔はしてないわ。ちゃんと守ってね」

僕だけに聞こえる小声で、そういうと背中をそっと叩いてくる。

どこかで感じた感触を思い出すより早く、

「またあーー!いちゃいちゃするなってば」

叫びながら走ってくると、シルファの腕を引っ張り腕を組むと、

リークの後ろを歩き出した。

他愛ないやり取りをしている間に、山頂にたどり着こうとしていた。

「その先少し向こう側に降りたところに、休憩する場所があるはずだ。

確か......風呂もあったと思う、みんなこの臭いをどうにかしたいだろう」

一番後ろを笑いながらアラムスが登ってくる。

「そうだね、あの広間は翼竜の巣で。あの異臭は食事の跡だったんだろうね」

僕はそう言うと、山頂に着き辺りを見回す。

各地の絶景を目にし、胸が高まるが、一刻も早くお風呂に入りたいであろう女性たちの事を考え、少し向こう側に降りたところに見える建物へと歩を進める。

建物に着くと、玄関の扉を開け明かりを探す。

蝋燭が壁にいくつも並んでいるので、魔法で火を点けていく。

「おおー、わりとちゃんとした建物だねー」

レーネが後ろで感心している。

「そうね、掃除もしているみたい」

シルファが壁を指で擦っている。

「ここはヴィーリームの管轄内だ。おそらくきちんと管理しているんだろう」

アラムスがそう言うと、奥に向かって歩き出した。

廊下を歩いているといくつも扉があり、それぞれ寝室になっていて、

一番奥の大きな扉を開けると、大浴場になっている。

大浴場のすぐ手前左側の扉を開けると、アラムスが入っていく、

「リークと俺はこっちで休もう。レーネとシルファは反対側でいいだろ?」

「そうしましょう。言っておきますが、お風呂には私達から入るわよ」

シルファはそう言うと、大浴場に入っていった。

それに続き、レーネが

「覗いたら斧で頭割っちゃうんだからね!」

そう笑いながら大浴場に入っていった。

「わはは、覗きたいところだが俺は入口の見張りに行くからな」

アラムスが笑いながら玄関の外に出て、扉を閉めた。

「やれやれ、気が抜けてきているなみんな」

僕は呟きながら自分の部屋に入る。

部屋に入ると大きなベッドとソファーがあり、ソファーに腰を掛けると雑念を払うべく、今日あった出来事を頭の中で整理する。

大浴場から聞こえてくる二人の笑い声を聞くと、

どうしてもモヤモヤせずにはいられなかった。


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