第四章 対魔法騎士団 第二話 忍び寄る刃

静まり返る部屋。

長い静寂の末に口を開いたのは、シャルマだった。

「聞きたいことが一つある。何故人間と共にいる?」

「彼らはケーティスで僕を逃がした。その罪で国を出るしかなくなったのさ」

僕はそう言うと、後ろの三人を見る。

アラムスは依然として険しい顔をしているが、

シルファは僕を見ると苦笑いする。

レーネはシルファの後ろに隠れていてよく見えない。

「なるほどケーティスか。鉱山を越えてきたとなると......

ジーロには会ったんだろうな」

シャルマは腕を組み鋭い眼光でリークを見る。

「会ったというべきか、会えなかったというべきか......」

俯き答える。

「なるほど、呪術師になったジーロはもう魔法使いとは相容れん。

だが奴は奴なりに世界を安定に導こうとしている」

シャルマはそう言うと、立ち上がり部屋の片隅に置いてある木箱を持ってくると、

テーブルに起き話を続ける。

「これが何か知っているだろう」

「......メリアの石」

木箱を覗き、半透明の青い石を見て僕は答えた。

するとシャルマは、

「そうだとも言えるが、違うとも言える。

触れてみろ」

そう言うと、シャルマは石を差し出してくる。

メリアの石を近づけるだけでも魔力を乱すというのに、今は少し違和感があるだけで魔力はまだ操れる。

シャルマの差し出した石に触れる。

ピリッという違和感。

魔力が少し乱れるが、完全に封じられている訳ではない。

「......どういうことだ、魔力を封じられていないぞ」

僕は石を見つめるが答えにたどりつけず、シャルマを見る。

「そうだ完全には封じられていない。だが、

まだ少し力は残っている。

これはジーロが研究で使っていたメリアの石だ」

「ジーロの......。まさか無力化の無力化.....」

僕がそう呟くと、

「そうだ。完成途中ではあるが研究は進んでいる」

シャルマはそう言うと石を木箱に入れ、部屋の片隅に戻すと椅子に座る。

「この研究が進んでいくと、人間達の抑制に繋がるわけだが......。

この実験には人間の血を使っているらしい」

「なんてことを!」

シルファが後ろで叫ぶと、シャルマに罵声を浴びせる。

「世界の安定のために、人間を殺してるっていうの?!」

シャルマに詰め寄ろうと動きそうなシルファを、

僕は手で制した。

シャルマは言葉を続ける。

「なんのつもりか知らんが、お前は黙っていろ。

この実験に使われた血は、全て俺が殺した騎士団の血だ。

騎士団もメリアの石を持っていてな、ジーロに協力していたのさ」

それを聞いて、鉱山での事を思い出した。

「まさか......あの場所で.....」

そう呟きながら僕は俯く。

「......見たのか。まぁいい、リーク。

俺に協力し、メリアの石の無力化を完成させないか?」

シャルマは鋭い目でリークを見る。

僕は無言で考える。

確かに無力化を完成させれば、人間達の魔法使いへの攻撃に対抗できる。

だけどそれを成し遂げるには人間を殺すしかない。

「馬鹿者。考えるまでもなく協力はできん」

聞き覚えのある声。

振り返るとルーシュが後ろの入り口に立っていた。

「......なんだその魔力は、どうやって気づかれずにここまで来た?」

シャルマはルーシュを鋭い眼光で睨む。

ルーシュはリークの隣に歩いてくると、リークの背中をぽんと叩き、

シャルマの方を見て

「貴様の真似をしただけよ。弟子をたぶらかされるのは、ちと不満でのう」

そう言うと、ルーシュの魔力が増していく。

「まぁいい。よく考える事だ、魔法使いが生き残るか人間が生き残るか。

俺はそろそろいく、また会おうリーク」

そう言うと、シャルマの体がどんどん煙に変わっていく。

「待てシャルマ!君は一体......」

僕がシャルマに触れる直前

「一つ言い忘れていた。奴等はすぐそこにいるぞ」

そう言うと、シャルマは煙に変わり消え去った。

「小僧、囲まれておるぞ」

ルーシュは静かにそう言うと、魔力を高めていく。

「どういうことですか師匠」

「キャー!」

後ろで叫ぶレーネ。

咄嗟に振り返ると、レーネが入り口から何者かに引っ張られている。

「ふん!」

アラムスが斧を振りかぶるより早く、

僕の右手が閃き、何者かの胸を突く。

目に見えない速度で魔法がみんなをすり抜け通りすぎると、

何者かの胸部に直撃した瞬間、

胸部を音もなく消し飛ばした。

何者かはその場に崩れ落ち、外から声が聞こえてくる。

「なんだ今の魔法は、一旦退くぞ」

慌てて外に飛び出して確認するが、そこにはもう誰もいなかった。

「何が起こったのか、見えなかったぞリーク」

アラムスが外に出てくると倒れた人物を見ている。

僕も近づいて確認する。

胸部に空いた穴は焼け焦げており、血すらも出ていない。

気になるのは身に付けているローブ。

金色の刺繍で鳥が描かれている紅のローブ。

これと似たものをどこかで......。

「大丈夫レーネ。なにもされてない?」

シルファがレーネの肩を抱き外に出てきた。

「うん。一瞬手を引っ張られただけ」

そう言いながらリークを見ると。

「ありがと」

悲しそうな顔をして俯いた。

「やむを得ずとは言え......恐ろしい」

ルーシュが小さい声で呟きながら出てくると、

リークを抱きしめて囁く。

「すまない。私の魔法じゃ小僧を助けてやれんかった」

目を閉じリークの胸に頭を押し付ける。

「師匠......。竜殺しに人殺しとなると、里に帰れませんかね?」

苦笑いしながらルーシュの頭を撫でる。

その光景を三人が悲しそうに見つめているなか、

僕は倒れた何者かを見て、胸がざわめきつつあった。







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