第三章 ガンガルゼス鉱山 第一話 採掘跡

鉱山に入ると中は暗くて何も見えない。

精霊の力が乱れているので、灯りは小屋から持ち出した松明を使うことにした。

ボッ。

右手に宿した炎を松明に移す。

「みんな、聞いてくれ。この鉱山では精霊の力は借りられない。ここから先は過酷だけど頑張ろう」

リークが落ち着いた声でみんなに言った。

「そうなのね。だけど魔法は使えるんでしょ?」

後ろを歩いてくるシルファが聞き返した。

「魔法は使えるんだけど、師匠みたいに万能じゃない。魔力も弱いからね」

そう言うと、レーネが隣に駆け寄り腕を掴みながら、

「そうなの?すっごい強いんだって思ってた」

「魔力が強いなら、精霊や森羅万象の力に頼らないさ」

僕は苦笑いしながら答える。

「魔力や生命を喰わせてたな、あれはやはりリークにはキツいのか」

アラムスが心配そうに聞いてきた、

「まぁ...そこそこね。だけど魔力は回復するし、生命だと少しの量で力を借りられる」

僕がそう言うと、シルファが悲しそうに、

「諸刃の刃ね。リークだけに頼りっきりでごめんね」

「まぁ元を辿れば、僕が連れ出したようなもんだからな。僕が守らないと」

ニコッと笑いながらそう言うと、鉱山の奥を見据える。

しばらく歩いていると、トンネルのような通路から開けた場所に出た。

「ここは旧採掘跡だな。昔はここで鉱石を採掘して持ち帰り、武器を作っていたらしい」

アラムスがそう言うと、近くの壁を叩いている。

「今は採掘していないのか。鉱石が要らなくなったのか?」

僕がアラムスに聞くと、

「今は周辺の隣国から買っているらしい。森を抜けられなくなったというのも理由にあるんだろうが、ここの鉱山はもう掘りすぎたんだろう」

「崩れて死人もたくさん出たという話を聞いたこともある」

アラムスがそう言うと、辺りを見回した、

「見ろ。上に続く階段があるぞ」

アラムスが言うところを見ると、壁を抉って作られた階段がある。

「なるほど、あれを登っていくわけか」

どうなることやらと思っていると、シルファが少し離れた壁の近くで、

「ねぇ。ここから下に行けるわよ」

壁に穴が空いている。

「下に行っても意味ないじゃーん」

レーネが不安そうにシルファを見て言った。

「どうするリーク。俺は上に行く方が確実だと思うが」

アラムスが腕を組み、壁にもたれて聞いてきた。

「そうだね...」

おそらく進む道は上で間違いないだろう。

だけど気になるのは精霊の力が乱れていること。

下に行けば何かてがかりがあるかもしれない。

みんなを危険に晒すわけにもいかない。

「...みんなは先に上に、僕は下の様子を見てから追い付くよ」

「私たちだけで行けって言うの?」

シルファは振り返り僕を睨む。

「そーだよ。あたしはリークがいないと心細いよー」

レーネが不安そうに腕を掴み言う。

「...うむ。では四人で一度下に降りるか」

アラムスが歩き出し、壁の穴に向かっていく。

「わかったわ。何もなければいいのよね」

シルファも穴の方に向き直った

「よし。じゃあさっさと済ませようか」

僕も穴の方に歩き出した。

「やっぱ四人じゃなきゃ」

レーネが腕を掴みニコニコしながらついてくる。

「僕が先頭を行くから、みんなも周りに気を付けて」

そう言うと僕はシルファの横を通りすぎ、穴に入っていく。

幅、高さともに3メートルほどで、壁は尖っていたりと雑に掘られた跡がある。

どんどん進んでいる間にも、下に向かっている感覚がある。

隣で腕にしがみついてるレーネの胸の感触が...

「けっこう進んだよね。どこまで行くんだろ」

レーネがそう言うとリークの顔を見る

「あらリーク。顔を赤くして、何かいいことでもあったのかしら?」

後ろからついてきているシルファが僕を睨んでいる。

「まぁまぁシルファ、リークに悪気はないだろう」

アラムスが苦笑いをしながらシルファの肩を叩いた。

「どしたのリーク?」

レーネが不思議そうに僕を見るので、罪悪感がわいてくる。

「その...胸が...」

僕が顔を赤くして言うと、

「やーらしー」

レーネは笑いながら言った。

そんなやり取りをしながらもどんどん進んでいく。

ピリッ!

不意に魔力に何かが触れてきた。

「待った!」

慌ててみんなを制止させると、松明の炎を魔法で遠くへ飛ばす。

すると10メートルほど離れたところに、茶色の岩石が転がっている。

縦横2メートルほどあり、少し輝いているようにも見える。

岩石からは乱れた精霊の力が放出されている。

「...あれは、ノームの石じゃないか...」

僕が静かにそう言うと、後ろでアラムスが聞いてくる。

「まさか、俺たち人間があれを掘り起こしたせいなのか」

「...かもしれないね、鎮めよう。みんなはここにいて」

僕はそういうとレーネに松明を持たせ、下がらせる。

一人岩石に近づいた僕は、ノームの怒りに触れることとなった。

「我に害なす者共よ。我の怒りを受けよ」

突然聞こえてきた声とともに、目の前の岩石がうごめき姿を変える。

人の姿をした岩石が、リークめがけて突進してきた。

直径3メートルのこの狭い場所ではあれは避けられない。

まずいな、いよいよか。

そう思った僕は最後の手段に出る。

「ノームの石よ、我の魔を受けよ」

僕はそういうと、右手を上げて魔力を高める。

リークの全身から光があふれでてくるとノームの岩石を照らした。

岩石は光を浴びて、リークの目の前で停止した。

すると声が聞こえてくる。

「...ほぅ。その力を知っているぞ」

「よかろう。汝が去るまで、危害を加えぬと約束しよう」

「だが。また人間どもがきたときは、容赦なく蹴散らしてくれる」

声が消えると同時に、岩石は丸くなり通路を塞いでしまった。

乱れた力も消え去っている。

僕は目を閉じ祈ると、すぐに三人のところへと戻る。

「大丈夫。だけど力は借りられないね」

苦笑いしながらみんなを見ると、アラムスが険しい顔で

「今回は大丈夫ということか。俺たち人間への怒りということだな」

「そうだね、まぁ目的は山を越えることなんだ。今のうちに上に行くよ」

僕はそういうとゆっくりきた道を引き返す。

しばらく歩いていると、開けた場所に出た。

「戻ってきたね。さぁ、階段を登っていこう」

僕はそういうと階段に足をかける

後ろの三人は不安そうに足元を見つめている。

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