第二章 進まずの森 第五話 山の麓

ルーシュの寝息が聞こえてくる。

意識が徐々に覚醒していく。

はっ、と目を開けると書斎の天井が見えた。

頭を起こすと、長椅子に座ったままの体勢で、ルーシュもリークに抱きついた状態のまま寝ている。

三時間ほど寝たみたいだ、体のあちこちが痛いが仕方ない。

目を閉じ魔力を放出してみると隣の部屋に二人、入口に一人、気配を感じる。

目を開けルーシュの顔を見る。

いつ見ても美しく、吸い込まれそうになる。

これは起こせないな、と考えていると、入口の方から足音が近づき、大声で叫んだ。

「朝だ!出発するぞ!」

アラムスが廊下で大声で叫ぶと、隣の部屋からガタンと物音が聞こえる。

僕はルーシュの顔を見るとルーシュはそのままの体勢で目を開けていた。

「師匠。おはよう」

僕はニコッと笑いながらそう言うと、ルーシュは不機嫌そうに答えた。

「おはよう小僧。私の至福の時間を邪魔するあやつを、消すことを許可しろ」

ルーシュはドアの方を睨みながら言った。

隣の部屋からドアの音が聞こえて、複数の足音が近づいてドアの前で止まった。

あれ?この体勢はマズイのか...?

僕は考えたが時すでに遅し、ドアが開けられた。

ガチャ。

「リークー、まだなにか調べて.....」

レーネが廊下で固まっている。

「早く起きろよ。出発だぞ。」

アラムスはそう言うと、入口に歩き出した。

「どうしたのレーネ。リークが何か....」

レーネの肩越しからこちらを覗き込んだシルファも固まった。

五秒ほどの静寂のあと、僕の顔めがけてあらゆる物が飛んできたのは言うまでもない。

一旦小屋の外に集まり今後の話をする。

「とりあえず森を抜けて山を目指すぞ」

アラムスがそう言うと、リークを見て言う。

「...大丈夫か?」

「大丈夫じゃないよ。死ぬところだったさ」

おでこにできたての傷口をさすりながら答えた。

「あんたたち...師弟で寝る体勢じゃなかったでしょ」

シルファが顔を赤くして僕を睨む。

「まさか...!はっ!禁断の......」

レーネの目が輝き僕を見つめる。

「なんじゃこやつら」

ため息をついてルーシュが森の奥に歩き出した。

「さぁ、いくぞ」

アラムスも歩き出したところで、シルファとレーネがそれについていく。

「まったく...」

僕は肩を落としてこれからの対処について悩んだが答えは出ず、

三人を飛び越え、ルーシュの横に並んで歩き始める。

しばらく森を歩いていると、足元が土から岩に変わり始める。

「出口が近いぞリーク」

アラムスが後ろから声をかけてきた。

「わかった。警戒しておく」

「案ずるな小僧。出口に人はおらん」

ルーシュが森の先を見ながら言った。

さらに歩き続けていると、光がどんどん強くなっていく。

だんだんと森が開けていき、その先にそびえ立つ山が姿を現す。

「おーーーー。たっかいねー」

レーネが上を見ながら言った。

さらに歩き続けていると、森を抜け麓にたどり着いたところに、でっかい大穴がある。

「ここが山の麓。ガンガルゼス鉱山の入口だ」

アラムスがそう言い近くの岩に腰をかけた。

「すっごいねー。山のてっぺん見えないじゃんー」

レーネが上を見ながら言った。

シルファはため息をついて、

「ねぇ、普通の道は無いのかしら?」

呆れ顔でアラムスを見ていった。

「ああ、無いな。ここから山に入り込んで鉱山内を登っていくと、

山の中腹辺りに外に出る出口がある」

「そこからでて頂上を目指して、山を越えた先に休憩する建物があったはずだ」

アラムスが説明を終えると、鉱山の中を見ながら言った。

「鉱山内は足元に気を付けろ。崩れやすいからな」

「はいはい。我慢します」

シルファはガッカリ肩を落として、アラムスの隣に腰をかける

レーネが無言で鉱山入口に近づき中の様子を見ている。

僕とルーシュは入口を見つめながら、聞こえないように魔法で直接頭に話しかけ会話した。

「小僧。中から精霊の力を感じておるか?」

「はい。でも様子が変ですね」

「うむ、精霊の力が乱れておる。恐らく、ここの精霊は攻撃してくるだろう」

「そうですね...なんとかなるにはなりますが、師匠....」

「ああ、私は一度里に帰らねばならん」

「ですよね。じゃあ何かあったらお力お貸しください」

「わかった。くれぐれも生命を削る力を使わぬように...」

魔法での会話を終えると、ルーシュはリークに向きそっと抱きついた。

僕もそれを受け入れる。しばらくして離れると、ルーシュが

「人間ども私の助力はここまでじゃ。またの」

そう言うと、梟の姿になりはるか上空へと消えていった。

「「「あっ」」」

三人が同時に上空を見つめた。

「さぁ、出発するよ。中は暗くて危険だ、絶対僕の前に出ないように。いいね」

そう言うと僕は入口に向かって歩き出した。

「リーク。どうしたのかしら、あんな険しい顔で」

シルファがアラムスと歩き出した

「さぁ、山が苦手...なわけじゃなさそうだが」

アラムスがシルファに笑いかける

「リーク大丈夫?。何かあった?」

隣に駆け寄りレーネが顔を覗きこむ。

「ああ、大丈夫さ。だけど僕からあまり離れないようにしていてくれ」

険しい顔で歩き続けている僕をレーネが見つめながら

「...わかった。気を付けるね」

腕を掴み、隣を歩くレーネ

後ろを話ながらアラムスとシルファが続く。

目の前にある巨大な鉱山の穴は、

僕たちを奈落に引きずり込もうとしているように思えた。



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