第二章 進まずの森 第四話 ジーロの記録
建物に着いた五人は、ひとまず休憩することにした。
建物は小屋で、入口が一つしかなく窓もない。
罠かもしれないので、入る前に休憩と話し合いをして決める事にした。
「とにかくこんな森で一夜過ごすのはごめんだわ。小屋があるなら好都合よ」
木に背を預けシルファが腕を組んで言った。
「えーーー。こんな気味の悪い小屋で寝るのやだよー」
レーネはそう言うとしゃがみこんだままシルファの足に抱きつく。
「そうは言っても、すぐに森を抜けるのは難しい。野宿よりマシだろうが」
アラムスが困った顔で近くの石に座り込んだ。
「人間どもめ、贅沢ばかり言いおって」
ルーシュは呆れたようにリークを見る。
僕は小屋の入口の前の階段に腰を掛け、みんなに言った。
「ともかく中に何か情報があるかもしれないんだ。僕は中に入るつもりだよ」
「リークが行くなら私も行くわ。野宿なんてゴメンよ」
シルファはレーネを振りほどくと、リークの近くに歩き出す。
「わかったってー。あたしも行くよーもう」
レーネがシルファの腕をつかんで歩き出した。
「俺も少し中で休んだら、入口の見張りをしよう」
アラムスも立ち上がり歩いてくる。
みんながリークの前に集まると、ルーシュが近づいてくる。
「だそうだ。中に入ろうか小僧」
「そうですね。僕が先に行きましょう」
そう言うと立ち上がり、小屋に入る。
「森羅万象の力よ、我の力となれ」
地面から光が現れ、辺りを照らす。
小屋に入るとすぐに左手の壁に蝋燭があるのが見える。
「師匠、お願いします」
「わかった、すぐに点けよう」
ルーシュはそう言うと目を閉じ手をかざした。
すると小屋の中から灯りが漏れてくる。
「これで全部じゃ」
そう言うと、ルーシュは目を開ける。
「ありがとうございます。さあ進むよ」
僕は光を戻し明るくなった小屋を進んでいく。
玄関は何もなく、前に廊下が伸びている。
廊下の途中にドアが二つあり、突き当たりに一つある。
「一つずつ開けてみようか」
僕は歩き出し、一つめのドアを躊躇なく開けた。
中は四畳半ほどの部屋で、本棚と机と長椅子があり、本が散らばっているだけだ。
僕は玄関に振り返りみんなに
「大丈夫。危険はない」
そう言うと、次のドアに進み始める。
僕の後ろを四人がついてくる音が聞こえ、ルーシュがリークの横に並ぶと、小声で話しかけてくる。
「小僧の視界を少し借りた。あの本の中に、メリアの石についての記述があったぞ」
「そうですか...。ジーロが何か調べているようですね。後で見に行きましょう」
「...うむ」
二つ目のドアにたどり着くと、後ろの3人が後ろで一つめの部屋を覗いているのが見えた。
「ここ、書斎なのかしら。本がいっぱいあるわよ」
シルファは入口から覗きこみながら言った。
シルファの肩越しに部屋を覗きレーネが、
「本が散らばってるじゃん...。なんか怖いよー」
「そっちの部屋はどうなんだ?」
アラムスがこちらに歩いてくる。
「どうかな...開けてみよう」
ガチャ。
ドアを開けてみると、こちらも四畳半ほどの部屋で中には大きなベッドとソファーが一つずつある。
「こっちは寝室のようだね」
僕がそう言うと、いつの間にかルーシュは突き当たりのドアを開けていた。
「これはなんじゃ」
眉間にシワを寄せてルーシュはドアを開けて見ている
「何かあったのか?」
アラムスがルーシュの後ろに立ち、ルーシュの頭越しに中を見ると、
「こりゃ風呂と便所じゃねーか。どこにでもあるだろ」
「人間のそれは初めて見るものでな」
ふんと鼻を鳴らして、ルーシュはリークの隣にきた。
「僕も里を出るまではわからなかったものですよ」
苦笑いしてルーシュの頭を撫でた。
「ちょっと置いてくなー」
レーネが怒りながらシルファを引っ張り近づいてくる。
「こっちは寝室だ。散らかってもいないから、レーネとシルファとアラムスはここで休んでて」
僕がそう言うと、シルファがレーネを連れて寝室に入った。
「ここはすごくキレイなのね。少し休ませてもらうわ」
シルファはそう言うとベッドに座り横になった。
「あたしも少し眠い...」
レーネもベッドに横たわる。
「俺も少し休んだら、入口の見張りをしようか」
アラムスはソファーに座ると目を閉じる。
「僕たちは書斎を少し見てくるよ」
みんなを見回すと、返事はなく静かに目を閉じていた。
僕とルーシュは書斎に入り長椅子に座ると、散らばっている本を一つずつ見ていく。
「どうやら呪術書のようじゃな。小僧はこれを使ってはならんぞ」
僕の横に座っているルーシュが本を見ながら言った。
「使えませんよ。さっぱり解読できません」
笑いながら本を開けてみると、いろいろな紋様と呪術の文字が書かれている。
呪術書を何冊か見て片付けていると、本の下から紙が何枚か出てきた。
紙を集めて見てみる。
「師匠、メリアの石についての記録です」
僕が小声でそう言うと、ルーシュが覗きこんでくる。
「なんと...ふむ、まだ途中のようじゃな」
紙を集めて読んでいく。
私はジーロ。
魔法使いの里を出て人間の町にたどり着いた。
人間達の文明は、思ったよりも発達しており様々な暮らしが伺える。
城を建て、町は栄え、その周りは堅牢な壁で守られている。
ここにたどり着いた私は、壁を飛び越え町に入った。
町の中は賑やかなところと居住区、廃れた場所といろいろな場所があった。
とにかく様子を見た私は、目の前の森に拠点を置くことに。
小屋を建て、しばらく調査を始めた。
「なるほどのう、ジーロは研究好きじゃったからな」
続きを読んでいく。
今日、兵士の一人が何か不思議な力を放つ石を持っているのを発見。
興味を持った私は、兵士に声をかけた。
兵士は私に警戒していたが、旅の者だと告げると、町のことを話した。
あと不思議な力を放つ石を私に見せてくれた。
私がその石に近づくと、私の魔力が反応し、やがて魔力を操れなくなった。
兵士に石のことを訪ねると、とんでもない事を口にした。
メリアの石。
兵士が告げた名前は、かの大魔女メリアが造り出した石だ。
私はこっそり小屋に石を持ち帰り、研究を開始した。
「なんということを...ジーロは何を始めるつもりなんだ」
僕はそう言うと、続きをみていく。
メリアの石は、魔法を無力化している。
これに対抗する力を作れば、世界は安定すると私は考えた。
メリアの石の無力化の無力化。これを研究していく。
メリアの石の素材がなんなのか分析してみたが、
現存するどの石とも物質が異なり、不明な点が多い。
さらに研究を重ねるも結果は出ず。メリアの石は万能であり、対抗する力を見つけること困難。次回城に行き、さらなる石をてに入れることに。
「ここで書き終わってる。もしかしてこのあとに事件が...」
僕はそう言うと考えこむ。
「事件とは、処刑がどうのと言っていたさっきのあれか?」
ルーシュが僕の膝の上に座ると、あごに頭をぶつけてきた。
「てっ...そうですよ。」
僕はルーシュを膝に座らせたまま、ルーシュの前に持っている紙を拡げながら、シルファとレーネから聞いた話を全て説明した。
「なるほどのう、ジーロもまた賢人を夢見ていたのかのう」
ルーシュが紙を見終えると、本棚の端にある紙を、魔法で引き寄せると手に取り拡げる。
「小僧、これを見てみな」
「これは...?!」
ガチャ。
不意に廊下で、ドアの音が聞こえて緊張が走る。
足音は書斎の前で止まり、静かにドアを開けた。
「まだ調べ物か?俺は入口の見張りにいくぞ。レーネとシルファは今寝たところだ。」
アラムスが少しドアを開け顔を出して言った。
「アラムスか、よろしく頼むよ。まだかかりそうだ」
僕はそう言うと、ルーシュの頭越しに紙を見る。
アラムスはそれを見て、しばらく黙ってから声を出した。
「......お前たち、仮にも親子じゃないのか?」
やれやれとドアを閉め、アラムスが入口に向かっている音が聞こえる。
しばらくドアを睨んでいたルーシュが呟く、
「親子だと膝に座れんのか...?」
「そんなことはないですよ。師匠早く調べて休みましょう」
ふぁーあと欠伸をしながら、二人で紙を見ていく。
城に行った私は兵士の襲撃を受ける。
人間の兵士達を引き離すことに成功。
だが、あらゆる建物から別の生命体が姿を現す。
その生命体は人の姿に変わり、私に襲いかかる。
「なんじゃこれは...」
ルーシュが真剣な顔になり紙を見ていく。
その生命体が近づくと魔力が操れなくなった。
私はこれをメリアの石と断定する。
メリアの石があらゆる建物に組み込まれている、とすると私は一つの仮説に行き着いた。
つまりここは、対魔法使いの要塞なのである。
地図上の配置からしてこの国は魔法使いの里の一番近くに位置している。
人間たちは、魔法使いと戦争をするつもりなのか。
私はメリアの石に取り囲まれ、やむなく全魔力を振り絞り、石の破壊を試みた。
辺りは爆風で吹き飛んだが石は壊れず、私は力尽きかけていた。
死を覚悟した私は兼ねてから研究していた呪術転生を使うことで生き延びた。
肉体は捕縛されたが、魂は森に帰ることに成功。
処刑が済んだあと肉体を回収。生成に成功し、呪術師となった。
私はこの記録を残し、さらなる事実を求めるために、世界をまわることにした。
後にこの記録を目にする魔法使いは、ルーシュ様、お祖父様であると考えている。
「...ここで終わっておるな」
ルーシュは目を閉じ考えている。
「ジーロ...僕がもっと早く来ていれば...」
僕も目を閉じ呟く。
「事情はわかった。とりあえず今日は休むとしよう」
ルーシュは振り返り僕の胸に頭を押し付けると、目を閉じる。
「師匠、こういうのは二人の時だけにしてくださいよ」
苦笑いしながら言うと、僕は背もたれに体を預けて、目を閉じると意識が遠のいていく。
すやすやとルーシュの寝息が聞こえてくると、
やがて僕の意識も闇へと消えていった。
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