第二章 進まずの森 第三話 魔法使いの堕落

「あれは!?」

僕は先に見える何かをぼんやり捉えた。

「どうやら建物のようだぞ、窓がないから中の様子がまるでわからんが...」

ルーシュは眉間にシワを寄せ、言葉を続ける、

「入り口から誰か出てくる!」

少しずつ近づきようやくはっきり見えてきたところで、何者かが建物から姿を表しこちらを警戒しているのが見える。

背は僕より高い、黒いローブを羽織りフードをかぶっているため素性まではわからない。

「...あれは」

ルーシュが小声で囁き黙りこむ。

梟がどんどん近づいていく。

すると黒いローブの何者かが鋭くこちらを睨み付けた。

「「...なっ!」」

僕とルーシュは同時に息をのんだ。

こちらを睨み付けたローブの何者かのフード越しに見えた鋭い眼光は、

紅蓮のような瞳。

「間違いない、あの灼熱の眼光はジーロの眼じゃ」

ルーシュは冷静になると続ける、

「あやつ、呪術に浸かりおったか」

「だけど、ジーロは処刑されたって...」

僕は黙り考える。

確かにジーロほどの魔法使いがあっけなく処刑されてしまうというのは、少し違和感があった。

それでも大勢の人間が見ているのだから、疑う余地はなかった。

「でも...どうやって」

僕が呟くと、ルーシュがそれに答えた

「呪術転生」

「この呪術は魔法使いの源、すなわち魔力の元を生け贄にし、己を呪術に縛り付ける。魔法使いを捨て、呪術師になったのだろう」

「呪術転生...余程の知識がないとできん芸当じゃ。あやつ、もしや以前から...」

ルーシュが黙りジーロらしき黒ローブを見つめている。

「とにかくジーロに話を聞いてみようよ」

僕はそう言い黒ローブを見ていると、黒いローブの何者かは手に持っている物をこちらに向けている。

「師匠まずい。あの血紋は石の紋様と同じだ!」

僕が叫ぶと同時に、向けている石がこちらに向かって凄まじい勢いで飛んできた。

梟は師匠の化身。

これに当たるととんでもないことだ。

「師匠!!」

僕が叫んだその瞬間、石が当たるより前に視界ががらっと変わった。

「...飛ばされたな」

ルーシュが落ち着いてため息をついた。

梟は尚も飛び続けているが、その先に見覚えのある背中が姿を表している。

「これは...」

考える前に、後ろにいるアラムスが大声をあげた。

「後ろから何か来るぞ!追手かもしれん!」

さっと振り返り、大斧を前方に構える。

シルファは無言でアラムスの背に隠れた。

「案ずるな、それは私だ」

しばらくして梟が飛んでくるのが見えた。

「なっ、梟も呪術で戻ってきたということか。」

アラムスがほっとして斧を下げる。

シルファもほっとしてしゃがみこんだ。

「師匠、そろそろ恥ずかしいというか...」

「ん?ああそうだな」

おでこと鼻がくっついたままだったルーシュがそっと顔を離して森の先を見て言った。

「ジーロの出てきた建物に行こう」

「そうですね、何か手がかりが見つかるといいですけど」

僕も森の先を見ていると、すぐ隣にいるレーネが小声で呟く。

「いつまでくっついてんだか」

それを聞いて思い出した。

僕はまだルーシュとほぼ密着状態にある。

「っと師匠、これからどうしましょう」

さっと一歩離れてルーシュの顔を見る。

ルーシュはリークを見上げると、にやっと笑い

「そう照れることはないだろう?一緒に風呂で背中を流し合った事もあろうに」

「「なんですって!」」

レーネとシルファがほぼ同時に声をあげ、リークを睨み付けた。

「ともあれ、先に進むとしようか。小僧、あれを呼ぶぞ」

そう言うと、森の先に向き直り、目を瞑り手をかざした。

「聖大樹の光ですか。僕も続きます」

ルーシュと同じく森の先に向き直り、目を瞑り手をかざした。

「この世に住まう森の精霊達よ、我の力に答えよ」

ルーシュの詠唱は、ルーシュの魔力の大きさゆえに力の強い精霊も声をかけるだけで呼ぶことができる。

「森羅万象の力よ。大地と精霊の次元を繋ぎ、我の力となれ」

静かな時がわずかに流れ、声が聞こえてきた。

「我を呼ぶのは汝らか」

低く野太い声が響いた。

後ろで3人が固まって構えている。

「聖大樹よ我の力に答えよ」

ルーシュが凛として言う。

「よかろう」

「して、汝は何を差し出す」

精霊の声は僕に問う。

「僕の生命を食らえ」

「ほぅ、ならば答えよう」

すぅーっと僕の体から薄い光が出ていくと、地面に吸い込まれていく。

「小僧!生命を軽々しく削るなとあれほど、、、」

ルーシュが心配そうに僕を見て怒るが、話の途中で割って入る

「まぁまぁ、これから先力を借りる前払いということで」

ルーシュは僕を黙って見つめていたが、少し寂しそうな顔になり

「いずれは里に、我が家に帰ってくるんじゃろうな?」

「はい、もちろんですよ」

僕も俯き小さく答えた。

ゴゴゴゴ。

地面が少し揺れ、うっすらとした光が伸びると、大木の形になり止まった。

「この辺りの呪いを浄化する。目を瞑っておれ」

聖大樹はそう言うと輝きだした。

四人は目を瞑り待機している。

僕は聖大樹を見つめている。

「ほぅ、汝はあの...。よかろう、しかと見よ」

聖大樹は心に直接話しかけてきた

すると輝きは増していき、森全体を包むと、フワッと消えさった。

四人が目を開くと、森から光が消え静まりかえっている。

「行くぞ小僧。呪術はもう消えている」

ルーシュがリークの手を掴み、歩き出した。

「師匠、もう子供じゃないんだから...」

僕が苦笑いして言うと、そうじゃったな。といいルーシュは手を離した。

3人が後ろから着いて来ているが、ひそひそなにか話している。

「ねぇ、仲良すぎない?」

「俺は普通だと思うがな...」

「お風呂一緒に.....」

「子供の頃のことじゃないの?」

「でも...もしかしたら...」

などと後ろから聞こえてくるので、無言で前に進む。

しばらく歩いていると、森の先の暗闇にうっすら建物が見えてきた。

入り口の扉が開いたまま、まるで誰かを呼んでいるかのように。

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