第二章 進まずの森 第二話 師の使い魔

石が再び現れてからしばらく、四人はその場で話し合いをしていた。

「とにかくこのまま進んでもダメだろう。ここはさっきの場所だ」

僕はそう言うと、石をひとつひとつ見てみる。

「戻るにしても、捕まっちゃうわよ」

シルファは木に背をもたれさせていった。

「リーク、精霊とやらに助けてもらえないのか?」

アラムスは地面に座り込んでいる。

レーネは相変わらず僕の腕にしがみつきながら、

「ねぇ、一時的にでも消えたのよね?何か対処法はきっとあるわよ」

「うーん...僕は呪術はあんまり心得てないからなー...。

よし!助けを呼ぼうか」

僕がそう言うと、みんなは首をかしげている。

みんなを順番に笑顔で見ると、僕は空を見て大きな指笛を吹く。

「ピューーーー」

数秒経つと、周りの空気がざわめき始めた。

「師よ、我に知恵を御貸しください。」

すると真上の空から何かが急降下してくる。

他の三人は固唾をのんで見ている。

腕に抱きついているレーネは少し震えている。

「大丈夫だよ。力を貸してくれる。」

小声でそう言うと、レーネは無言で頷いた。

急降下してくる何かは、近くの木の枝でピタッと止まってこちらを見ている。

それを見たアラムスがキョトンとした顔で言う。

「なんだ?ただの梟じゃないか」

「そ...そうね」

シルファも梟を見ながら言った。

5秒ほどの静寂が過ぎ、なんと梟が喋りだしたのだ。

「小僧。久しぶりだな」

少ししゃがれているが、女性の綺麗な声だ。

「「「喋った!!」」」

三人が同時に驚いて声を出した。

静かになってから、僕が梟に話しかける。

「お久しぶりですねルーシュ師匠。相変わらず本ばかり読んでおいでですか?」

笑いながらそう言うと、梟は顔を動かしながら、

「そうだな、いや...近頃里ではいざこざが多くてな。まぁそれはそうとして、何の用だ?」

「いやそれがですね...呪術に関わって、抜け出せないところで..アハハ

僕が苦笑いをしながら言うと、ルーシュは一喝する。

「馬鹿者が。呪術の対処法は教えてあるだろう」

「それがですね...。」

ここで起こった出来事を全て話すと、

「うーん...。精霊の加護がまるで効いていないと...。気になるな、私もそちらに行こう」

そう言うと、梟は突如真っ黒になり、しだいに人形に変わっていく。

完全に変わって地面に降りると。色もしだいに戻っていく。

目の前に立つ女性、ルーシュは顔は少し幼い雰囲気があり、背はリークより少し低くて色白で、髪は長く腰の位置ぐらいまである。その美しい髪はリークと同じ栗色で、姉弟とも思えなくもない。

リークと同じローブを纏ったルーシュは、他の三人を見て言った。

「人間達、国が滅ばなくてよかったと思いな。小僧に感謝することだな」

他の三人は、ポカンと目の前の美しい女性を見ている。

アラムスが、綺麗だ。と呟いている。

不意に話しかけられ呆気にとられていたが、シルファがはっと答える。

「それは、どういうこと?助けたのは私たちよ?」

「ふん...小僧に言われておらんのか、あのような小さな国一つくらいならそこの小僧は一発で吹き飛ばしてしまうというのに」

ルーシュは呆れ顔でリークを見る。

「いや、そこまでするつもりはないですよルーシュ師匠。人間の国では、できるだけそこのルールに従うつもりで...」

苦笑いしながらそう言うと、ルーシュはふんと言ってリークの隣に来ると、リークの足下にある石を見ている。

レーネはリークの反対側に立つルーシュを凝視して小さい声で呟いた。

「お....お姉さん?」

「馬鹿者。私が拾い、魔法使いに育て上げただけだ。小僧には家族はおらん」

石を見ながら、ルーシュは簡潔に答えた。

「まぁまぁ、僕の話はさておき師匠。これなんの呪いなんです?」

真横にあるルーシュの顔をじっと見ながら聞くと、ルーシュは眉間にシワを寄せた

「この血紋は呪術書には載っておらんな。使い魔をこの先に飛ばすとするか」

「我に従う者よ。汝の力を示すがよい」

ルーシュがそう唱えると、ルーシュの前に黒色の塊が現れ、しだいに梟の形になる。

さっきの梟とは違い、今回は人の大きさくらいになると梟は森の奥に飛んでいった。

ルーシュの使い魔の梟はその存在を主と共有できる。

よって梟が居るところにルーシュが居るということになる。

「小僧、目を貸してやる」

そう言うとルーシュはリークの顔を両手で掴んでおでこと鼻がくっつくまで顔を近づけると、至近距離でリークの目を見つめる。

僕は少し顔を赤くしてルーシュの目をじっと見つめる。

「ちょっ....」

反対側でレーネが固まっている。

シルファは木に背をもたれさせ、こちらを睨んでいる、ような気がする。

アラムスは、シルファの方を見ている。

僕の視界がどんどんルーシュの美しい瞳に吸い込まれていく。

ルーシュの目と一体になっていく感覚。

そして、森を飛びながら進んでいる梟は何かを捉えた。

近づいてくる森の奥にある何か、僕はルーシュと一緒に森の奥にあるそれを凝視した。



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