第二章 進まずの森 第一話 結界

「大地に眠る精霊達よ、我が道を示せ」

ぽぅっと小さな光の玉が地面から現れて、リークの頭上で停止した。

まだ夜で森の中は暗闇なので、明かりがないと何も見えない。

「さぁ、行こうか」

リークはそう言って歩き出すと、三人が後ろに続く。

アラムスが言うには、森を北に進むと山に行き着き、その山を越えると国境の関所を通らず北のヴィーリームという国に行けるらしい。

ただ、この森には二年前から不思議な力がはたらいて、進み続けてもやがて入り口に戻り、誰もここを通り抜けられた者はいないという。

「なぁリーク、この森もやはり魔法と関係してるのか?」

アラムスが後ろからそう聞いてくる。

「魔法じゃないけど、何か不思議な力は感じているよ」

僕はそう答えると辺りを見回すが、生き物の気配がまるでない。

「やっぱそうなんだ、ここ通ってあっち抜けた人いないみたいだもんね」

レーネはそう言うと、後ろから肩を掴んでくる

「ねぇリーク、ここ抜けれないと捕まっちゃうよ?」

「なんとかなるさ、とにかく歩きにくいから少し下がって」

僕がそう言うとレーネは、ちぇっと言って後ろに下がった。

森を北に十分ほど進むと奇妙な石が落ちているのを見つけた。

石の表面には、赤みがかったどす黒い色の独特な文字のようなものが描かれている。

おそらく血で何かが描かれているのだろう。

僕はこの文字に見覚えがあった。

「これは血紋[[けつもん]]結界だな」

僕はそう言うと、小石を拾い上げた。

「どういうことなの?魔法じゃないの?」

シルファが後ろから肩越しに顔を近づけ、手元を覗き込む。

「これは呪術と言って、血紋を書いた石を撒き散らし森に呪いをかけてるんだ」

リークが説明すると、レーネとシルファがひぃぃぃと言って抱き合っている。

それを胡散臭そうに聞いていたアラムスが

「誰がなんのためにそうしたんだよ」

「僕にもわからないが、考えられるとすればケーティスの関係者かヴィーリームの関係者が国を自由に行き来できなくするためじゃないか?」

僕がそう言うと、アラムスは首をかしげて言う。

「関所を通れば簡単に行き来できる、まず前提としてここを無理して抜けなくていい」

「だとすれば、抜けた先の山に何かあるのかもしれないね」

僕はそう言うと、持っていた小石と散らばっている小石を一ヶ所に集めた。

「大地に眠る森の精霊よ、我に力を与えよ」

リークがそう言うと、地面から光の玉が現れて、やがて形を作っていく。

光の玉が狐のような形になり、リークの前で止まった。

「我の力を借りたいか、お前は何を差し出す?」

狐の形をした光はリークに話しかけた。

「僕の魔力を喰らえ」

「承知した」

そう言うと、僕の体から魔力が吸いとられていく、少し吸いとられたところで光の狐は振り返り、石に向かっていく。

そして光が石たちを包み込んで、徐々に消えていった。

石を見ると血紋は跡形もなく消えている。

「....なに?今の...」

レーネとシルファは抱き合ったまま震えている。

アラムスは険しい顔で大斧を構えている。

それを見た僕は笑いながら

「大丈夫だよ、あれは精霊。力を借りたんだ」

「呪術はむやみに手を出さない方がいい、どんな呪いかわからないからね」

僕はそう言うと、再び歩き出した。

「ちょっと待ってよ!」

レーネは小走りに隣に来ると、腕に抱きついてくる。

「今のところ大丈夫だから離れて...」

僕がめんどくさそうにレーネを見ると、頬を膨らましてレーネが言う。

「こーんな可愛い娘が抱きついてるのに喜ぶべきじゃない?」

そう言いながら離れようとしないレーネと僕の後ろを、アラムスとシルファが並んでついてくる。

シルファが後ろから僕とレーネを睨みながら呟く

「二人、今日会ったばかりなのに仲良すぎじゃないかしら」

すると横を歩いているアラムスが複雑な表情になり、シルファに言う。

「なんだヤキモチか?シルファも今日会ったばかりだろ」

「そんなんじゃありませんから。勘違いも甚だしいわ」

シルファは二人を睨みながら怒ると、急に前の二人が止まった。

「ちょっとどうしたのよ?」

シルファが睨みながらリークに話しかけた

するとリークは数秒経って答える。

「さっきの一ヶ所に集めた石がある。しかも血紋も消えていない」

「なんだって?さっきの石はずっと後ろにあるはずだろ」

アラムスが笑いながら言うが、レーネが泣きそうな顔をしているのに気づいて表情が強張る。

「おい...それは本当か...」

「ああ、しかも血紋が復活しているということは、僕たちは何かの呪術に関わっているということになる。森に入ったときからだろうな」

「そんな...何の呪いか分かるの?...」

そう聞いてきたシルファの声は震えている。

呪術に精通していない僕は、この血紋の意味がわからない。

だから精霊に血紋を浄化してもらった訳だが、何故かまたここにさっきの石たちがあり、血紋は消えていない。

石をひとつ掴み見てみる。

どこからどうみてもさっきの石のようだ。

「幻の類いじゃないな...なるほど、進まずの森...か」

僕はそう言うとしばらく目を閉じ、周囲に自分の魔力を解放してばらまく。

すると周りの空気が少し変わる。

魔力に押されて、不思議な力が遠ざかっていく感覚を感じる。

「もうすでにのみこまれていたか」

魔力の解放を止めると、すぐに不思議な力が周りを取り囲んでくる。

先にこれをどうにかしないといけないな。そう思いつつ森の先を見ると、

闇の中から、何かがこちらを見ているような気がした。



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