第一章 脱出 第五話 旅立ち

広場に降りてから十分ほど静寂が過ぎている。

レーネは泣き止んでいるが、まだうつむいたまま座り込んでいる。

シルファはアラムスの背に頭を預け、目を閉じている。

アラムスは座り込んだまま俯き、険しい表情で何かを考えているように見える。

僕はレーネが城の前の広間で叫んでいた言葉が気になっていた。

「ねぇレーネ、さっきの事なんだけど。聞いていいかな?」

「うん、とりあえずこっちに座ったら?」

苦笑いしながら、自分の座っている隣をポンポンと叩く。

「わかった」

僕はそう言うと、レーネの隣に座る。

「赤毛の魔法使いのことを僕は知ってるよ」

「僕たちの里の長ザウロの孫でね。名前はジーロ、僕たちは灼熱のジーロと呼んでいたよ」

「ジーロが最も得意とする魔法は炎の魔法でね」

「そうだったのね...」

レーネが俯き呟いた。

さらに僕が話を続ける。

「ジーロは温厚な優しい魔法使いだった、町を焼き払ったりしたのには何か理由があったのかもしれない...」

「あたしね、町が焼き払われる前の日に赤毛の魔法使いに助けられたの」

「その日あたしは、他の国から来たという三人組の男に町の案内を頼まれて、町を案内してた」

「途中で後ろから三人組に襲われてしまってね、その時にどこからか赤毛の魔法使いが現れて三人組を懲らしめてくれたわ」

「その後すぐ飛んでいっちゃって、それから....会えなくて....」

そう言うとレーネは俯き黙りこむ。

僕はその続きを話す。

「その次の日、事件が起きて処刑されてしまった。ということか」

「そう、その頃からあたしは赤毛にしたの」

レーネは俯きながら言うと、アラムスが

「なるほど、赤くしたのはそういうことだったのか」

それにレーネが顔をあげ答える。

「あたしは、赤毛の魔法使いを忘れたくなくて...」

すると、いつの間にか起きていたシルファが僕に聞いてくる。

「ねぇリーク、町が焼き払われたこと、何か知ってるの?」

「いや、検討もつかないね」

そういうと僕は俯き考える。

確かに気になっていることはある。

魔法を封じる手段がこの国にあるということ。

もしかしたら、ジーロと何か関係があるかもしれない。

「気になっていることはある、捕まったとき魔法が使えなかったことだ」

そう僕が言うと、アラムスが答えた

「ああ、魔法を無力化する石のことか。三年くらい前に商人が持ち込んだらしくて、名前は確か」

その続きにシルファが割って入る。

「メリアの石、商人はそう言っていたらしいわ。魔法を無力化できると」

「今.......なんて....」

メリアと聞いて僕は衝撃をうけた。

最果ての國の里の伝説。

はるか昔、世界中でまだ魔法使い達が暮らしていた頃。

魔法使い達の群雄割拠の時代で、あちこちで戦争をしていた。

魔法使い達が殺し合い、自国では謀反が起きたり、魔法で人間達を支配しようとしていたやつもいたらしい。

そこにメリアという魔法使いが、実験と研究を重ね魔法を無力化する石を造り上げ、世界を我が物にしようとした。

そこに現れたのが魔法使いでもなく、人間でもない何者か。

黄泉使いの大賢者と呼ばれていた何者かは、メリアを黄泉の世界に連れていき、共に黄泉の世界を永遠にさまよっているという。

僕はなんとしても会って確かめなければいけない....

「ねぇってば!聞いてるの?」

不意にレーネに呼ばれて我にかえる。

「ああ、悪い。なに?」

「メリアの石のこと何か知ってるの?」

シルファが真剣な顔になり聞いてきた。

僕はそれに答える、

「昔メリアという魔法使いが、魔法を封じる石を造り上げ世界を支配しようとしていたという。ただの伝説...だった」

「支配なんて!....そんなこと」

立ち上がり叫ぶがすぐに黙りこむシルファ、僕が話を続ける

「そう、あってはいけないことだ。多分ジーロは石のことを知ってここに来たが、問題が起きてそうせざるを得ない状況になった....と思う」

「あたしは、信じてた....」

レーネは俯き目を閉じて言った。

アラムスが急に立ち上がり鎧を鳴らしながら言う、

「なるほど、話は見えてきたが、そろそろ西の門に向けて出発するぞ」

「そうだね、ここからは歩いていくよ」

僕がそう言うと、少し元気になったレーネが、

「えーーー。ビューンて飛べばすぐなのに?」

ニコニコしながら笑っているレーネを少し睨みながら僕は、

「目立つだろあれ。それに、あの力はあんまり使うものじゃない」

「なんで?魔力が減るとか?」

僕の顔を覗き込んで聞いてくるレーネ。

隣に座っていて顔が近い....。

距離を取るべく立ち上がって歩きだしながら説明する、

「あれは魔法じゃない。森羅万象の力を借りてるだけだ」

「森羅万象の力?」

三人が同時に聞いてくるのでさらに続ける。

「歩きながら説明するよ」

そう言ってみんなは歩き出した、

「魔法っていうのは自分の魔力を使い発生させるけど、森羅万象っていうのはこの世界にあるあらゆる現象、力のことだ」

「なるほど、世界の力を借りる。それで、あんまり使うものじゃない。ね」

レーネが納得したように頷く。

シルファが僕の隣に追い付き話しかけてくる。

「リークも、炎の魔法が得意なの?」

「いや?どうして?」

僕が聞き返すと、シルファが

「城の中で手から炎が出たじゃない」

「あのくらいなら魔法使いはみんなできるよ」

笑いながら僕が答えると、シルファは少し睨んでいる。

後ろから歩いてきているアラムスが、落ち着いた口調で言った。

「そろそろ静かに歩け、貧民街を通るときはできるだけ気配を消すんだ」

そういうと四人は黙り込み、貧民街を西にひたすら歩き続けた。

変わらない景色をひたすら歩き続けていると、後ろのアラムスが

「次を右にいって、二つ目の十字路を左だ。そこに門がある」

「わかった。それにしても、建物ばかりで周りが何も見えないね」

僕がそう言うと、隣でくっついて歩いているシルファが顔を近づけ耳元で、

「お化けがでるかもよ」

クスクス笑いながら囁いてくるが、お化けという概念が魔法使いにはないので。

「そのときは、シルファを囮にしようかな」

と、からかってみるとシルファが睨みながら脇腹を殴ってくる。

アラムスの言う通りの道を進むと無事に門に到着した。

「で?ここからどうするんだ?」

振り返りアラムスに聞く。

「これを使え」

そう言って渡してきたのは、大きな鍵だった。

「俺は以前この辺りを巡回していてな、ここの鍵は俺が管理していた」

アラムスの鍵を門にかかっている鍵穴に差し込むと、錠が外れ門が開く。

門を少し開け、四人が門を出る。

門を静かに閉め前を見ると、少し離れた森に引き込まれそうな気配を感じる。

「あの森に入れば姿を隠せるぞ」

アラムスがそう言うと、レーネは少し不安そうに

「大丈夫なのあの森、なんか嫌な気配を感じるんだけど」

シルファは僕の手を掴みながら、

「大丈夫よ。ここに頼りない魔法使いさんがいるもの」

「頼れる。の間違いか?」

笑いながらアラムスが言う。

森からはただならぬ力を感じるが、ここで見つかるわけにはいかない。

みんなを守らなければ。

「さぁ、森を抜けよう」

闇に染まる森に足を踏み入れるべく、四人は歩き出した。


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