第一章 脱出 第四話 裏切者の制裁
リークとレーネは足早に、大通りに向かっていた。
大通りへと近づいて行くと、次第に罵声が聞こえてくる。
「みんな何か怒ってるみたいだぞ?」
僕はレーネの後を歩きながら大通りを見ていると、大勢の人達が騒ぎながら城へと向かっていく。
「城で何かあったのかしら?」
レーネが不安そうな顔で言う。
「城で何かあるとすれば....」
ボソボソ呟いていると、レーネが僕の顔を覗き込んで、
「何か知ってるの?」
「いや、なんでもないよ。とにかく急いで見に行こう」
城で何かあるとすればアラムスとシルファが心配だ。
誰にもバレていないはずだが、万が一のことを考えて城に戻ろう。
憎き魔法使いの僕を救いだそうとしてくれた大恩がある。
「わかったわ、急ぎましょう。」
レーネがそう言うと、人混みに合流して走り出した。
僕もレーネのすぐ後ろを走ってついていっていると、
レーネがすぐ隣を走っている男性に声をかけた。
「おっちゃん。何があったか知ってる?」
大きな響く声を出して、聞いた。
すると男性はとんでもないことを口にした。
「アラムス兵長と庭師のシルファが、捕らえていた魔法使いを逃がしたらしい!」
.......!
最悪を想定していたとはいえ、この状況はかなりまずい。
ここで僕が逃げれば二人はどんな罰を与えられるかわからない。
さらに男性が、
「庭で話してるのをネイシャが聞いていたらしい!」
.....しまった!
部屋のドアまで離れているとはいえ、もっと注意するべきだった。
「魔法使いを捕らえてたなんて...」
レーネが複雑そうに言ったが、僕はレーネを抜かして全速力で走り出した。
「レーネ、先に行くよ。シルファが危ない!」
「うん!すぐ追いつくから!」
レーネはそう言うと、男性の隣に付き話ながら走っている。
「森羅万象の力よ、我が足となれ」
小声で囁くと、リークの速度が2倍以上にも上がる。
周りの人たちを抜きさりながら駆け抜けていく。
徐々に城の正門が見えてきた。
正門の前は少し広間になっていて、そこから罵声と共にアラムスの怒号が聞こえてくる。
「俺たちはなにもしていない!」
すると町の人達は
「うるさい!ネイシャから話は聞いているぞ!」
「そーだ!」
「お前たちは裏切り者だ!」
「大罪人だ!」
次々にアラムスへと浴びせる罵声。
リークはさらに加速し、人混みをかき分けて一番前に出た。
そこにはアラムスを取り囲む多くの兵士達とそれを両手持ちの大斧で牽制しているアラムス、よく見ればアラムスの隣に震えながら寄り添っているのはシルファ。
「お前達を火あぶりの刑に処する、大人しく捕まれい」
兵士達の一番前にいる、偉そうなおじいさんがそう言った。
するとアラムスが、
「なんと.....、ならば命に代えてもシルファは逃がさせてもらうぞ!」
ドゴーン!
大斧を地面に叩きつけると、兵士が何人も吹き飛んだ。
それでも兵士達は次々にアラムスに飛びこんでいく。
「うおおおおらあああ!」
裂迫の気合いとともにアラムスは兵士達を一薙ぎにする。
兵士達を次々に吹き飛ばしているが、それでも捕まるのは時間の問題だった。
僕は凄まじい脚力で兵士達を飛び越え、アラムスの前に着地した。
その瞬間、10秒ほど辺りが静まり、徐々に声が聞こえてくる。
「なんだ...今のは」
「まさか...」
そんな声が町の人達から聞こえてくる。
偉そうなおじいさんが声を張り上げて言った。
「これで裏切りは確定した!こやつらを殺せ!」
すると兵士達が一斉に攻撃を仕掛けてくる。
振り返り見ると、町の人達のなかでレーネが心配そうにこちらを見ている。
レーネに向かってごめんと告げると、レーネは目にいっぱいの涙を溜めて叫んだ。
「リーク!あの日赤毛の魔法使いは、あたしを助けてくれた!」
「あたしはあの人にお礼を言えないままあの人が処刑されてしまった!」
「あなたは死なないで!」
そう叫ぶレーネを、兵士が取りおさえた。
「森羅万象の力よ。風となり、我が力となれ」
リークの周りを突風が吹き荒れ、兵士達が次々に飛ばされている。
レーネの周りにも同じ突風が吹き荒れ、レーネを包んでいく。
リークの周りの突風がアラムスとシルファをも包みこむと、2つの風の塊は空中に浮き上がると、凄まじいスピードで外壁の城門へと進んでいった。
数々の住居、店を飛び越えながら進んでいく。
しばらくすると噴水の大広間が見えてきた。
凄まじい風が吹き荒れ、大広間に並んでいる店の屋根や商品が飛び散っている。
そのまま大広間を通り抜けると、人気の少ない居住区を飛び続けた。
長い距離を飛び続けていると、ものすごく高い外壁が見えてきた。
風の中でアラムスとシルファに話しかける。
「三人同時にあの高さを超えるのは厳しい、何か他に方法はないか?」
大声で二人に聞くと、アラムスが答える。
「あの城門をぶち破るのは無理だ!ここから少し西にいったところに、人の少ない貧民街がある、そこから別の門を目指す。そこの小さい広場で降りよう!」
大声で叫ぶと、大きい風の塊と小さい風の塊は西の方角へと進路を変えた。
しばらく飛んでいくと、建物が脆い造りの居住区が見えてきた。
その真ん中辺りに小さな広場がある。
「あそこで降りればいいのか?」
僕がアラムスに聞くと、
「そうだ!あそこには人がいないはずだ!」
アラムスがそう叫んだ。
みるみるうちに広場が近づいてくる。
スピードを一気にゆるめ、広場にゆっくりと降りた。
ぶわっと2つの風が消え、レーネが泣き崩れた。
シルファはうつむいたまま黙り込んでしまっている。
「とにかく少し休もう、まだ追手はこないはずだ」
そう僕が言うと、アラムスが答える。
「そうだな...リーク、お前のせいだとは言えよく来てくれた。助かった」
落ち着いた口調に戻ったアラムスに、僕は精一杯の謝罪をする。
「すまないみんな。みんなの人生を奪ってしまった」
「リークが悪いわけじゃないわ」
シルファが顔をあげ言った。
「もうそんなことはどうでもいい、俺たちもここにはいられない。生きるために」
アラムスがそう言うと、地面に座り込んだ。
レーネを見ると、相変わらず泣き崩れている。
シルファを見ると、シルファも悲しそうにこちらを見つめ返した。
そして空を見ると、漆黒の闇が僕らを引きずり込もうとしているように思えた。
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