第一章 脱出 第三話 城下町の案内人

カチャカチャカチャカチャ。

鎧を鳴らしながら三人は通路を歩いて大通りに出る。

「わぁ...、すごい広い大通りだね!」

大通りの真ん中には入口の城門からおそらく王座の間であろう大きな両開きの扉まで真紅の石畳が敷き詰められており、道幅は100メートルを超えるほどもある。

思わず声を出してしまった僕にアラムスが、

「声がでかいぞ、静かにしてろ」

落ち着いた口調で言う。

それを見たシルファがクスクス笑いながら、

「リークはお城は初めてなのかしら?」

「まぁ...僕の国は大自然の中にあるからね」

古郷を思い出すと少し寂しくなり僕は俯く。

「さぁ、見張り台の入口まで一気に歩け、俺たちは少し離れてついていくから中に入ったところで待っていろ」

会話を遮り、アラムスが言う。

確かに世間話している余裕はないな。

そう思い歩き出した。

辺りを見ながら歩いていると、兵士がそこらじゅうに立っているが誰も僕を気にしていない。

みんなアラムスに敬礼している。

「これは大丈夫そうだな」

そう呟きながら見張り台の入口まで一気に歩いていく。

見張り台の入口に着きドアを開けて中に入ると、見張り台までの階段があり、その向こうには頑丈な鍵のついた鋼鉄のドアがある。

数十秒待っていると、足音が聞こえてきて後ろのドアが開いた。

「うまくいったわね」

シルファがホッとしながら言うと、その横でアラムスが

「さぁそこのドアを開けるから、城下町に出るんだ」

「わかった...、って僕一人で城下町に出るの!?」

城下町の情報が無いまま移動すると、危険度が高過ぎるよー。

そんなことを頭の中で喚いていると、シルファが

「私の知り合いに城下町の案内人をしている人がいるわ。そこまで連れていってあげる」

万事休す、これでなんとかなる。と僕はホッとする。

「シルファが連れていって大丈夫なのか?」

アラムスが心配そうにシルファを見て言った、それにシルファが答える。

「町の人はまだリークの顔を知らないもの、大丈夫よ」

するとアラムスが

「わかった...。何かあったらすぐ行く」

「ありがとう」

シルファがにっこり笑うと、アラムスの顔が少し赤くなった気がした。

「さぁ、行くわよリーク」

そう言いながら、シルファは鋼鉄のドアを開けた。

外に出るとそこは、城の中とは全然違う風景だった。

地面は石畳が敷き詰められているが多少でこぼこしており、城の中に敷かれている石畳より粗悪だ。

民家や店の建物の壁も、ほとんどが石の壁でできている。

中には木でできているであろう建物もあるが、そう多くない。

歩いている人が数人いるくらいで、思っていたのと少し違った。

「ねぇシルファ。城下町ってこんなの?」

残念そうに聞くと、シルファが答える。

「メインの通りの方は賑やかよ」

笑いながらシルファは話す、

「城の周りをウロウロする人が大勢いるわけないじゃない」

「まぁ...確かにそうだけど」

やや睨みながら僕が言うと、シルファがクスクス笑いながら答える

「城に出入りしているのは、城で働いている人と兵士と、それと...商人くらいね」

「なるほど。さぁ、案内人の所へ連れていってくれるかい」

やや拗ねて言う僕に、真剣な顔になったシルファが答える。

「ここからは、何が起こっても魔法は使わないで」

「町の人は魔法に恐怖を感じているの。どんなことになるかわからないわ」

「わかった」

真剣に答えた僕と、シルファは歩き出した。

しばらく歩いていると、歩いている人がしだいに増えていく。

すると、真ん中に噴水がある大きな円形の広間に出た。

「おおー...」

広間の広さは直径500メートルはあろうかというほどで、円形に沿って様々な店が並んでいる。

「ここが一番賑やかな場所よ。だけどここを通るのは避けるわ」

シルファが言うと、僕は残念そうに

「ええー、せっかく来たのに...」

とがっかりする。

そんな僕を見てシルファが呆れ顔で、

「あなた遊んでる場合じゃないのよ。さぁ、こっちにきて」

僕の腕を強く引っ張りながら、広間の入り口近くにある細い道に連れていく。

「この道の途中に案内人の家があるわ」

シルファが歩きながら説明する。

「案内人の名前はレーネ。私と同い年の女の子よ」

「へぇ、というか君の歳を知らないよ」

笑いながら僕が答えると

「私は19歳よ。あなたも見たところ18歳くらいね」

シルファが得意気に言う。

「子供っぽく見えるのか。残念だけど、僕は22歳だよ」

笑いながら僕が答えると、少し不満そうに

「あなた歳上なの?頼りないのに...」

シルファはそう言うと、僕の腕を離した。

「さぁ、着いたわよ」

立ちどまったところにある、木製のドアをシルファはコンコンと叩いた。

ガチャ。

ドアが開いて出てきたのは、背はシルファと変わらないが、少し筋肉質で体は細く赤毛の短髪の幼い顔で、シャツに短パンという動きやすい格好をした女の子だった。

「やー!。こんばんわシルファ、まさか...彼氏?」

明るい口調でニヤニヤしながらシルファに挨拶をする。

「こんな頼りないの、私の趣味じゃないわ」

突き刺さるような言葉を言うシルファに僕が負けじと

「歳下には興味ないなぁ」

と言い返す。

「なんですって...!」

シルファがそう言うと僕に向かって手を振りかざす。

パシッ。

その手をレーネが掴むと、笑いながら話す

「見たところよそ者だね。あたしに案内を頼みに来たってわけか」

掴まれた手をほどくと、それにシルファが答える

「そうよレーネ。外壁の外までお願いできるかしら?」

「あれれ?出てっちゃうの?」

レーネが不満そうに聞いてくると、シルファが

「ええ、もう用が済んだけど道がわからなくなったらしいわ」

「ふーん...」

怪訝そうにレーネがこちらを見つめてくるので、慌てて僕が挨拶をする

「そ、そういうことなんだ。よろしく頼むよレーネ、僕はリーク」

「まぁ、わかったわ。よろしくリークさん」

そういうと外に出てドアを閉め握手をした。

シルファは城に戻るので、シルファと別れレーネと二人で歩き出す。

レーネが歩きながら話しかけてくる、

「リークはどこから来たの?」

「ここからかなり西にある、ま...」

一瞬言いかけて止まったので、レーネが怪訝そうにこちらを見て

「ま?」

「まぁまぁ大きい町だよ...アハハ」

ギリギリ口が滑らなかった僕が話を反らすように、

「城下町は夜でも活気がすごいね」

「そうねー、昼も夜もみんな賑やかにしてるわ。あの日のことを忘れたいのよ」

ごめんレーネ。最後少し落ち込みぎみに言った一言に、僕は心の中で謝る。

とにかく口が滑るといけないので、その話には触れないでおこう。

しばらく無言で歩き続けていると、大勢の声が聞こえてくる。

「そろそろ大通りに出る頃よ、なにか騒ぎが起きてるわね」

「騒ぎ?何だろう?」

すごく嫌な予感がしながらも、大通りに向かって進んでいくレーネとリーク。







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