第一章 脱出 第二話 城中の番犬

出口に辿り着いた僕が目にしたのは、それはもう美しい庭園だった。

「城の中にこんなところがあるのか」

見たことのない綺麗な植物が庭園全体に生い茂っている。

足元は辺り一面小さな細い緑の葉、点々とそこらじゅうに背の高い木が生えており

その周りを腰ぐらいの高さの葉が取り囲んでいる。

青色、赤色、白色の綺麗な花もあちこちで咲いている。

「ええ、私がここを管理しているのよ」

「へぇ...手入れが大変そうだね」

クスクス笑って言うと、シルファは少しばかり頬を膨らませている。

「ねぇシルファ。ここには君以外は入って来ないのかい?」

庭園を見回すと、入り口が2つ見える。

「普段は私以外はここには入って来ないわ。ただ...」

とシルファが言葉に詰まるので、聞き返す。

「ただ?」

「貴方が脱走したのはもう気づいてるはずよ」

「そうか、監獄の管理人が探し回ってるな」

「監獄の管理人ならいいのだけど...」

険しい顔で考えるシルファに理由を聞いてみる。

「どういうことだ?」

するとシルファは真剣な顔になり、こちらを見つめて

「貴方を探すために、城中の番犬が動いてるはずだわ」

犬..?噛まれたら痛そーー...などと考えていると

「言っておきますが、犬ではないですよ」

「だよね....」

思考を読まれて少し困っている僕に

「名前はアラムス。戦闘のスペシャリストよ」

戦闘か...こりゃ魔法を使うしかないか。と考えていると

「ここで魔法で戦うのはダメよ」

「どうして?」

「魔法使いへの憎しみが消えないものになるわ」

処刑されかけたのに憎しみが消えないものになるなんて

よく言ったもんだ...と考えていると。

「アラムスも私と同じ、全ての魔法使いが憎い訳じゃない」

「ただ、王からの命令には逆らえない」

王様がいたのか。会ってみたいがやめておこう。

「じゃあ君の力を借りて出ていくよ」

にっこり笑いながら僕が言うと、

「貴方、まだ名前も名乗らないのによく言うわね」

シルファは眉間にシワを寄せて睨んでくる。

「僕の名前はリーク。ここを出るまでよろしく頼むよ」

今度は真剣に挨拶をする。

「よろしくリーク」

今度はシルファがにっこり笑いながら答えた。

「早速だけどシルファ、あっちとあっちの見えてるドア2つのどっちが安全なのかな?」

両手でそれぞれ指を差しながら聞いてみた。

するとシルファは

「どっちも危険ね」

言うと思ったよ...。と目を瞑り考えてから聞いてみた。

「また隠し通路とかがあったりして?」

「無いわそんなもの」

希望を呆気なく砕かれて落ち込んでいると。

「あっちのドアから出るしか方法はないわ」

遠い方のドアを指差してシルファが言う。

「あっちのドアはどこに繋がってるんだ?」

別の方のドアを指差して聞いてみる。

「向こうは兵舎に繋がる通路の途中にあるドアなの」

「きっと兵士とすれ違うことになるわ」

それは、危険度が高過ぎるな。ここはシルファに従って行動しよう。

決意してから聞いてみる。

「今から行くところはどこに繋がってるんだ?」

「城内で働く人達の衣服を管理している部屋よ」

シルファが少し険しくなる。

「どうかした?」

心配そうに聞いてみる

「その部屋にはネイシャという洗濯係りの女の子がいるはずなの」

「見つかると厄介なのか?」

「厄介ね、あの子は魔法使いが町を焼いたとき親を失ったわ」

シルファが元気無く答える。

魔法使いが町を焼き払った。この事実だけを聞くと同じ魔法使いとして罪悪感がわいてくる。

だけど魔法使いにも何かしらの理由があったのかもしれない。

僕は俯いて言う

「ごめんシルファ。同じ魔法使いがそんなことをしてしまって...」

「貴方がしたことではないわ。それよりも通る方法を考えましょう」

「そうだな」

二人で俯いてしばらく考え込んでいると

ガチャ。

兵舎の通路のドアが開く音とともに、男の声が聞こえた。

「シルファ...お前が逃がしたのか」

ドアの方を見ると、背が高く白銀の鎧を身に纏った黒髪のツンツン頭で顔の凛々しい男がこちらに近づいてくる。

「アラムス...これはその...」

シルファが慌てていると、アラムスが答える。

「わかっている。全ての魔法使いが悪いわけじゃない」

「だが俺は兵士だ。これは見逃せないことだぞ」

アラムスがシルファの前に立ち落ち着いた口調で言った。

「城中の番犬とはあなたのことですか」

僕はアラムスを見て言った。

「俺の情報は伝わっているようだな。話が早い、一緒に監獄にきてもらうぞ」

またあそこに戻るのは困るな。そう考えてからアラムスに答える。

「脅す訳じゃない。だけど僕にはこの城を破壊するという選択肢が常にある」

そう言うとアラムスがこちらを睨んでくる。

続けてこちらから交渉してみる。

「僕にこっそり協力して無事に出られれば、全て丸くおさまるんじゃないかな」

アラムスが聞いてくる。

「なぜそうなる」

そう聞かれてすぐ答える。

「協力してるところを見られなければ、こちらが勝手に逃げたことになり、シルファやあなたが罪に問われることはない」

アラムスが少し考えていると、黙っていたシルファが小声で話す。

「アラムス...私はリークに協力するわ」

それを聞いたアラムスが小さく答える。

「シルファ...わかった。俺も手を貸そう」

どうやら二人は親密な関係らしい、そのおかげでアラムスを説得することに成功した僕はアラムスに話しかける。

「ありがとうアラムスさん。助かるよ」

するとアラムスも挨拶を返してきた。

「リークと言ったな。協力はするが、無事に出られたらもう近づかないことだ」

するとシルファが、

「ありがとうアラムス」

「ところでアラムスさん、どうやってこの庭からでるの?」

話を本題に戻す。

「アラムスでいい。そうだな、鎧を持ってくるからそれを着て兵舎の通路から行こう」

「わかったアラムス。できるだけ軽いものを頼むよ」

苦笑いしながら頼むと、アラムスは笑いながらドアの向こうに消え去った。

「さてと、待っている間にこの城の情報を聞いておこうかな」

そう言ってシルファを見ると、シルファが答える。

「ええ、今から通る道の先で正面の大通りに出ることになるわ」

「それで?」

「大通りは王座の部屋に繋がる道だから、たくさんの兵士が見張りをしているわ」

絶望的な答えしか返ってこないが、ここはアラムスに賭けるしかないな。

そう考えながら、聞く。

「大通りから外に出るのは危険じゃないか?みんな見張りをしてるのに、出ていく兵士がいるのは少し目立つんじゃないか?」

「そうね、アラムスは大通りを通って見張り台を目指して、見張り台の出入り口から外に出すつもりね」

「見張り台があるのか...万全の警備だこと」

僕は少し疲れて答えた。

「問題はそこからが大変よ。あなたは城から出た後に、城下町を通って外壁の門を突破しないとこの国からは出られないのよ」

難問をたくさん突きつけてくる美女にやや疲れぎみで答える。

「そうだね。もしもの時は僕を見殺しにしても恨まないよ」

苦笑いしながら言う。

ガチャ。

再びドアが開き、アラムスが小さめの鎧を持って現れた。

「さぁリーク、これを着ろ。城を出るぞ」


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