最果ての國の魔法使い

しろくま外伝

第一章 脱出 第一話 薄暗い監獄

物音が聞こえて目が覚める。

薄暗い監獄に捕らわれている僕、リークは最果ての國から来た魔法使いである。

このケーティスという国では魔法使いは罪人にように扱われてるらしい。

最果ての國を出て旅をして、東に7日間ほど経った頃に最初に行き着いた国だ。

入り口には鉄でできた頑丈な黒い城門があり、そこから入ろうとしたところ、捕まってしまったのだ。

この国には魔法使いは居ない。捕まったことと何か関係あるかもしれない。

「おい」

物音の正体はこの監獄の管理人だ。

「あんたの処刑は明日の昼間に城下町の大広間で行う」

背は小さいがゴツゴツした体格、顔はやや大きめで無精髭の監獄の管理人が

薄暗い監獄を覗き込んで話しかけてきた。

「そうかい。せいぜい逃がさないようにね」

薄暗い監獄からそう答えた僕に、監獄の管理人は灯りを照らした。

男にしては背は低く体も少し細め、髪は栗色で少し長めのローブを纏った青年が照らしだされた。

「そんなことを言っても、明日は泣くことになるぜ」

そう言うと、コツコツコツと監獄の管理人は去っていった。

再び薄暗くなったところで、脱出するにはどうしたものかと悩んでいた。

どうやらこの監獄では魔法は使えないらしい。

城門で捕らわれた時も、なぜか魔法が使えなかった。

兵士の他に、何かをこちらに向けている人達がいたが

あれが何か作用してるのだろう。

とにかく魔法が使えない訳だが、どうにか脱出しなくては。

鉄格子は錆びてはいるが太くて頑丈な作りだ。

よく見ると右端の鉄格子と壁の隙間が少し広い気がする。

壁が少し崩れて間隔が広がってるようだ。

頭が通れば出られそうだが、ここを出ても外で見張っている管理人に見つかってしまえば今度はもう出られないだろう。

出ても魔法が使えるという保証はないが、賭けてみるか。

さっと鉄格子に近づき辺りを見回す。

どうやら狭い通路の左側は行き止まりのようだ、あそこが奥なのだろう。

右側を見ると少し離れたところに扉があり、わずかに管理人の声が聞こえてくる。

「出口はあそこだけか...」

ひっそりと呟いてから右端の鉄格子と壁の隙間に頭をつっこんでみる。

小柄で細いことが幸いして、通り抜けられそうだ。

モジモジしながらもギリギリ通り抜け出た僕は、先に魔法が使えるか試してみた。

「ボッ...」

手に炎が宿る。

辺りが明るくなるが、入り口のドアは鉄で覗き穴もない。

見つかる心配も無さそうだ。

とにかく魔法が使えてよかった。どうやら監獄の中に何か仕掛けがあるらしい。

「さてと。気づかれる前に出るか」

小声で呟いた僕はドアとは逆の奥の方の壁に魔法で穴を開けた。

音をたてないようにゆっくり外に出ると、まだ夜なので辺りは静まりかえっている。

脱出に成功した僕はそっとため息をついた。

「ここは真ん中の城の中なのかな...」

そう呟きながら思い出してみた。

この国に来るまでに、かなり高い丘の上から城下町とその真ん中にある城が見えたのだ。

城下町はかなり広くて、外周は高い壁で囲まれており、その壁の上を兵士達が歩いて監視をしていた。

入り口は鉄の城門が二つあるだけだった。

その城下町の真ん中に城があり、城の入り口には広間があった。

「あそこで処刑されるのかっ」

クスクス静かに笑いながら呟く。

壁の外に出た僕は、どこかの通路に出た。

左を見るとかなり先に螺旋階段が見えている。

右を見るとすぐそこで行き止まりなので、左に進むしかない。

壁に穴を開けての移動はリスクが高過ぎるので、使わない方向でいくことにした。

階段を目指す途中で幾つかの扉を少しだけ開けて覗いてみたが、

木箱がいくつも積まれているだけの部屋ばかりだった。

どうやら倉庫なのだろう。

螺旋階段を少しずつ登っていくと、明るくなっていく。

壁に背中をつけ、じりじりと明かりの方に近づいていく。

1つめの入り口が見えてきた。

ここが何階なのかはわからないが、入り口から通路を見渡してみる。

通路の一番向こうにも螺旋階段がある。どうやらあそこが監獄に繋がる階段のようだ。

通路の途中には木でできた大きい扉が1つあるだけだ。

そーっと扉に近づいていく。

扉の前で耳を澄ませてみると何人かの声が聞こえてくる。

それと何か美味しそうな匂いがしてくる。

どうやら食堂らしい。

ここは開けずにさっと螺旋階段に戻ろうとした時、

ガチャ。

扉の開く音。

おそるおそる振り返ってみると、大きな木の扉が少しだけ開いていて

中から女の人がこちらを見ている。

まずいなこれは....。

そう思ったとき

「あの。貴方はお昼に運ばれてきた人ですか?」

見つかった。終わりだ。かくなるうえは城を破壊するか....

そう悩んでいたが、その女の人はそっと通路に出ると静かに扉を閉めてこちらに近づいてきた。

僕は身構えていたが、どうやら攻撃してくる訳では無さそうだ。

髪は長くて綺麗な白髪。背は僕と同じくらいで歳も同じくらいだろうか。

「私はシルファ。私は、全ての魔法使いが悪いとは思わないわ」

やはり何かあったようだ。

「この町で、魔法使いは悪者なのか?」

小声でだが聞こえるように聞いてみた。

「ええ、2年くらい前、貴方のように訪ねて来た魔法使いがいてね...」

そこで言葉が止まったので、促す。

「それで?」

するとシルファは悲しそうにこちらを見て言った。

「魔法使いが、町を焼き払ったのよ...」

「なっ...!」

僕は言葉が出なかった。

「多くの人が死んだわ。だけど魔法使いを捕らえ、実験をして対処法を学んだ後に処刑したのよ」

悲しそうにこちらを見ているのは憎しみと罪悪感があるからなのだろう。

「そんなことがあったのか...」

二人とも俯いて黙り込む。5秒ほど経って、

コツコツコツコツ

監獄からの階段を登ってくる音だ!

咄嗟にシルファが僕の手を掴み通路の真ん中辺りの壁を押すと隠し扉が開いた。

「この階段から庭に行けるわ」

隠し扉の中の階段を登る前に隠し扉を閉めると、僕は握っていないほうの手に炎を宿す。

「小さい火は便利なのにね...」

シルファは悲しそうにこちらを見て言った。

「ごめん...」

なんて言っていいのかもわからず、僕はただ謝っていた。

「貴方が悪いわけじゃないわ。さぁ行くわよ」

そういって階段を登りはじめる。

50段ほど登っただろうか、出口が見えてきた。

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