34.Les trakti
わたしは車を走らせて第三層に向かった。
記憶を戻されたものの、魔導師陽子の本当の目的は思い出せなかった。
出来れば、魔導士様の記憶を手に入れることはできないか。
これまでに関わったことのある様々な人を頼って見たけど、上手くいかなかった。
途方に暮れていると、自分のポケットから何かが落ちた。
金色の名刺だった。
あの時、出会った初老の霊。ただならぬオーラを感じた。
もしかしたら……。
わたしはその男に連絡を取った。
待ち合わせ場所は例のバーだった。
「久しぶりだ。元気にしていたか?」
「まあまあね」
「榊を倒すとはすごいことだ」
「実際に倒せていない。榊は黙秘を宣言して、まだ隠れている」
「そうか、それで、魔導師の記憶を手に入れたいと」
「そう。理由は聞かないで」
「他人の記憶を手に入れるのは簡単なことじゃない。対価も高くなる」
「知っているよ。『わたしがあなたたちの仲間になる』それでどう?」
「ほう」
「正直に話すよ。わたしは天上人の仲間のふりをして、スパイをしている。でも、魔導師様の記憶を手に入れることができるのなら、そちら側に付こうと思ってる。その天上人は西の3番目のPAを守っている。あなたの上司なんでしょ?」
「ほう、よくわかったね」
「榊由美が出てこれない以上、わたしを使うことができるのはメリットになると思うんだけど、どう?」
「ああ、悪くない」
初老の男は一呼吸置いて続けた。
「だが、信用ができない」
「いいよ。じゃあ外に来て」
わたしと男は店を出た。
その日は恵みの雨が降っていた。
狂乱して踊り雨を飲む街の住人のほうへ足を進める。
「おい、その雨に当たったら、長くないぞ」男が声を上げる。
わたしの上に雨が降りかかる。何とも言えない恍惚感を感じた。
グラスを捧げ、雨を集める。
「大丈夫。覚悟はできているよ」
グラスにたまった雨を一気に飲み込んだ。
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