39.La angel estorot un oʻper

わたしの前で魔導師陽子は話を続けた。

「時が来た時に生贄の儀式を行う。全てが終わった後、再び伝来を行う。それまで全員待機するように」

陽子は左手に持った久遠石に右手を振り払った。久遠石は光るのをやめ、ただの水晶に戻った。


「美神楽よ、貴方はサキのいたPAに向かって残党を探してきてくれるかしら」

「わかった」そう言って美神楽はその場を立った。


「悪く思わないでね。サキ」

陽子は相変わらず輝いていて、可憐で、美しかった。

わたしが見つめていると、陽子はわたしに悪意がないのを感じ取ったのか、わたしに向けて右手を向け人差し指を払った。唇を塞ぎ止めていた何らかの力が解けて消えるのを感じる。

「魔導師様、わたしはいつもあなたに感謝しています。わたしの命はあなたのおかげで輝いています」


「サキ。貴女は私たちにとって特別な存在なのだから、信頼と愛情を持って接するのは当然のことよ」と陽子は優しく微笑みながら答えた。


「こんな結果になって、申し訳ないと思っているわ」

「良いのです。魔導師様はわたしを救い、強くしてくださいました。ここからはわたしが魔導師様の力になる番です」

「感謝するわ。貴女は『最初からそうするつもりだったくせに』と言ったわね。どうしてわかったのかしら」

「声が聞こえたのです。そして感じたのです。魔導師様がやろうとしていることが何かを」


「……すばらしいわ。貴女がここまで育ってくれたなんて、とても嬉しい。白状するわ。貴女の言う通り、全ては計画通りよ。貴女に黙って、貴女を生贄にするためにここまでやってきた。でも後悔があるの」

わたしには陽子の演技が丸わかりだった。

「後悔?」

わたしも合わせて知らないふりをする。

「ええ。もし貴女が心を入れ替えて、私たちの元に着くなら……」

「美神楽と協力しろと言うことですか?」

「ええ、彼も貴女が思っているほど悪い人ではないわ」

「拒否します」

「……そう。じゃあ、いいのね。生贄にするわよ。生贄になったら、貴女は物質界からも、この世界からも、消えてなくなるのよ」

「大丈夫です」

「本当に消えてしまうのよ!」

「だから大丈夫だって!」

「サキ!」

「陽子!」


陽子は驚いた顔をして押し黙った。

「わたしはあなただけに全てを背負わせない」

「何を言っているの?私はただ、貴女が望まないなら私が代わりに……」

「最初からそうするつもりだったくせに!」

「違うわ!本当は貴女を生贄にしようとしてたのよ」

「本当はそうだったんでしょうね。だから仙山先生を排除した。自分が責任を取るために」

「それは……」

「あなたのやり方は全て間違ってる。ここまでやってきたんだから、わたしも同罪。わたしが全ての罪を負う」


「サキ、やめなさい」

「マナ!」わたしがそう言うと、マナが現れた。

「生贄の儀式を」

「わかりました」マナが答えた。

「サキ!思いとどまって!」陽子が叫ぶ。


Bharivo nīhihapīri私を捧げろ」 


自分の身体が光に包まれるのを感じる。

陽子が「サキ……」と言った。

大丈夫、わたしがあなたを救ってみせる。

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