4時限目 「暇ですか?」「これから学校なので暇じゃないです」
「ん........朝か........」
朝5:30、ムクリと布団から起き上がって背伸びをする翔輔。
翔輔の通う学校は朝のホームルームを8:50からとしていてまだ3時間程あるが布団から抜け出るとジャージに着替えて家を出た。
ジャージ姿の翔輔は周り一帯にジョギングに出た。
これは中学生の時からの習慣でルードはほぼほぼ変わっていない。
1時間ほどで戻って来ると部屋着に着替えノートパソコンに向き合った。
学園防衛隊の隊長という役職は仕事が多い。
その上志賀山陰青龍高校は全国の学園防衛隊の中でもトップクラスの実力であり、その隊長である翔輔は学園防衛隊の中で最も発言力のある人間の1人だ。
そのせいで様々な事の意見を求められ、時には新人の教育を担当する事さえある。
新着メールを確認すれば新人研修依頼が届いていた。
富山県高岡市にある高岡第三高等学校に新設された学園防衛隊計5人の教育だ。
勿論翔輔の返事はOKである。
メールの返答を送り色々な書類を作れば時間は自然と過ぎて妹達の起きる時間になった。
「おはよう。」
「お兄ちゃん、おはよう!」
「....おはよう。」
ノートパソコンの電源を切りカバンに放り込むと下に降りて朝食を食べ、妹達より一足先に家を出る。
翔輔は1番最後に家を出たいのだが、それだと学校生活に支障が出てしまうので仕方無く1番最初に出ているのだ。
学校に着いてまず向かうのは教室.....では無く執務室。
家でも使ったノートパソコンをカバンから引っ張り出すと机の上で起動、書類仕事を始めた。
30分程したら里々朱が執務室に入って来た。
「おはよう里々朱。」
「おはよう翔輔。もう会議の時間よ?」
「ん?本当だ、時計見てなかったわ。」
里々朱に指摘されて時計を見てみると学園防衛隊の会議時間になっていた。
ここの防衛隊では毎朝会議をして様々な連絡事項を伝えたりしているのだ。
その時間なので執務室にはみんな入って来る。
開始時間にはみんな集まっていた。
「よし、じゃあ始めるぞ。俺の方から連絡が2点ある。1点は新人研修、高岡第三高等学校に新設の防衛隊5人の研修だ。詳しい日程は後々伝える。もう1点、日本海において所属不明艦艇の活動が活発化している。恐らく近々能登半島攻撃があると思われる。」
「能登半島攻撃っすか.....自衛隊との連携を密に対応したいっすね。自衛隊側の対応はどうなんすか?」
「それについてだが陸自は対艦ミサイル隊に普通科連隊、戦車連隊、特科連隊、高射連隊が派遣される。空自はF2やF15がエアカバーを約束しているらしい。海自は海上輸送路の安全確保に手一杯らしくてな、潜水艦数隻が限界だとよ。」
「万が一上陸された時には市街地戦を覚悟せなあかんな。」
「海自さんの潜水艦は沖合では実力を発揮出来ませんので地対艦ミサイルが主力になりますわね。」
「そういう事だ。さて、会議終了!教室に向かうぞ!」
会議が終わってみんなが教室に向かう。
翔輔も同じく教室に入る。
真っ直ぐ机に向かって座り授業を受ける準備を終えてホームルームになった。
翔輔は学園防衛隊隊長だから真面目に授業を受ける.....訳でもなくて普通に寝たりして過ごす事も多い。
ただ、成績はそれなりに優秀なんだとか。
1日寝て過ごした翔輔は放課後、執務室に閉じこもってPCと向き合っていた。
各書類の処理があるからどうしても1日のPC使用時間が長くなってしまう。
実際、学園防衛隊を初めてから肩凝りが酷くなった気がするらしい。
「来たわよ。」
「おう、里々朱。座ってくれ。」
この日は里々朱の意見が必要になったので呼び出していた。
「で、用事って何?」
「いくらかお心添え....まぁ金だな、が入ってな。何か必要なもんがあればある程度の物は買えるんだ。で、何かあるか?」
最近近くの農協から一帯の平和維持のお礼としていくらかお心添え...金が入ったのだ。
そこで翔輔はこれを有効活用しようと考えて里々朱の意見を聞くため呼び出したのだ。
「........今はとにかく目ね。しかも優秀な目が必要よ。」
「目、か。だとすりゃドローンだな。軍用のを買って運用するのは流石に難しいから市販されてるのを買って導入くらいだな。回転翼タイプの小型機ならどこで戦っても問題ねぇし」
ドローンを戦争へ投入する、なんて事は様々な軍隊でやっている。
アメリカ軍では大型のRQ-1(MQ-1)プレデターにヘルファイアミサイルを搭載してイラクやアフガニスタンのテロリストに対する攻撃に使っているし海上自衛隊もアヴェンジャーと呼ばれる無人機を海上の監視目的として導入を検討しているらしい。
それに前線の部隊単位で偵察に使える小型のドローンの導入も進んでいる。
従来の偵察方法だとヘリ、偵察機等があるがどれも隊員が危険に晒されてしまう。
ドローンならば撃墜されても人員の損害は無い。
今も昔も軍隊と言う組織は隊員を非常に大切にするのだ。
テロリストでさえドローンを使っているのだから学園防衛隊が使ったとしても何の問題も無いだろう。
翔輔は市街地戦においての部隊単位での使用を容易にする為、小型のドローンを導入する事にした様だ。
「OK、サンキューな里々朱。とりあえず塚内幕僚長に相談してみる。」
「分かったわ。」
里々朱が部屋を出て行くと早速塚内幕僚長にパソコンのテレビ電話を入れた。
「お疲れ様です。今大丈夫ですか?」
「大丈夫だ。」
すぐに出た塚内はいつもの制服を着崩した様子で翔輔は思わず笑みを浮かべた。
「事務仕事が忙しい様ですね」
「ああ。ここで椅子を温めてるより前線を駆けずり回った方が良いな。それで用事は?」
「実はですね.......」
翔輔は先程検討していたドローン導入の件を話した。
「なるほど。導入自体は問題無いと思うが、自衛隊が使ってる物を送るのは厳しいな。」
「あ、やっぱりです?カメラ見れればなんでも良いので市販の物買おうかと思ってたんですよ。」
「そうしてくれ。ああ、スナイパーライフルの件だが何とかなった。」
「ホントですか?何になりました?」
「DSR-1だ。」
「ほぇ?」
思わぬスナイパーライフルの名前に変な声が出てしまった。
翔輔としてはモシン・ナガンだとかスプリングフィールドとかM24とかを想像していたからだ。
「またまたご冗談を〜DSR-1なんてドイツのいいヤツじゃないですか〜そんなのウチに回せる訳無いじゃないですか〜」
「それが本気だ。338ラプアマグナム弾モデルを一丁だがな。」
「嘘やろ........」
DSR-1とはドイツのAMPテクニカルサービスが法執行機関向けに開発したブルパップ方式の高精度スナイパーライフルだ。
ドイツの対テロ特殊部隊GSG-9の要請で作られたこのスナイパーライフルは現在アメリカ海軍特殊部隊ネイビーシールズやイギリス軍特殊部隊SASに制式採用が決まり、未確認ながら特殊作戦群も使用しているとの情報がある。
そんな人気の銃が回ってくるとは思えない翔輔はまだ疑っているようだ。
「で、DSR-1なんてどっから調達したんですか?」
「これは機密だが...特戦群がDSR-1を採用した時、メーカーと特戦群のパイプ役は私だったんだ。」
「それで、そん時築いたコネを使いまくった訳で?」
「そういう事だ。ライフルの更新は無理だったがね。DSR-1は明日頃届くだろう。スコープ、二脚、サプレッサーがセットになってな。」
「おお、充実しとるわ。」
「まだあるぞ?」
DSR-1調達の秘密を聞いた翔輔。
塚内はまだ何かある様だった。
「能登半島防衛時に何かしらの特殊作戦で消音機能がある銃が必要になるかもと思って一緒に送っといた。通常の撃ち合いじゃ活躍せんかも知れんが潜入任務では大きな利点だろう。」
「ほー、そんなの送ったって事はソレをやらんきゃいけないかも知れないという事ですね?」
「まぁ、そうなるな。君達は自衛隊の普通科連隊より戦力になる。特殊作戦にも対応出来るだろう?」
「また無理難題を........何とかするのが俺の仕事ですけどね」
そう言って切った翔輔。
その後は何事も無く、帰宅したのだった。
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