3時限目「暇ですか?」「今日は忙しかったのでもう帰ります」

「ん........むにゃ?私ったら寝ちゃったのね........!?!?」


翔祐が寝落ちしてから10分程経って里々朱が目を覚ました。

まず里々朱が驚いたのは翔輔の顔が目の前にあった事だろう。

顔を真っ赤にしてアタフタするが寝ているので声が出せない。

(どどどどうししよう!?翔輔の顔がこここんなに近くに!)

尚、本人はとっても楽しんでいるのかも知れない。


「ん…寝ちまったか……」


里々朱がアタフタしていると翔輔が目を覚ました。

里々朱はもっとパニックだ。


「おおおおはよよようしょしょ翔輔!?」

「お、おう、おはよう。どうしたそんなに慌てて」

「なななな何でもないわ!」

「?まぁ良いや。帰るぞー」


そう言って翔輔はバックを取ると里々朱と学校から出ていった。

2人は途中で別れるとそのまま家へと一直線に帰路についた。

別れた後、里々朱はずーっと独り言を言っていたとか。


カギを出して玄関を開けて中に入ると食事のいい匂いが漂っていた。


「ただいまぁ〜。ちょっと遅くなったわ、すまぬ」

「あ、お兄ちゃん!おかえり」

「もう!遅くなるならちゃんと教えてよ!」


翔輔には2人の妹が居る。

両親は翔輔が高校1年になる頃に出て行ってしまった。

理由は分からないが、当時の事を翔輔は鮮明に覚えている。

突然両親が居なくなったが家事などまともに出来ない翔輔は妹達に家事を任せ自分が生活費を稼ぐ事を決めたが、3人を養うのは相当な苦労である。

高校を中退する事も考えたが、学園防衛隊と言う選択肢が翔輔を救った。

学園防衛隊はその危険極まりない仕事故に高校生としてはかなりの給料が出る。

自分の命が危ないかも知れない、そう分かっていてもこの仕事に手を挙げられずには居られなかった。

ここの学園防衛隊は全員が1年生で構成されており、成り行きで翔輔が隊長になった。

そんな今では過度な節約等せずとも十分に暮らして行ける。


「利奈お前な、事前に分かってりゃ知らせてるわ。兄ちゃん必死に仕事してるんですよォ?」

「うぐっ。分かってるけどさぁ」

「お兄ちゃん、お姉ちゃんをいじめるのはそのくらいにしてあげなよ」

「莉乃、いじめとか言うなや。これはコミュニケーションなんだ」


痛い所を突かれた利奈りなを援護した莉乃りのだった。

ちなみに彼女達は双子なのだが、利奈の方が早く出てきたと言う理由で莉乃は利奈の事をお姉ちゃんと呼んでいたり。


「もうっ!早く食べようっ!?私お腹空いたっ!!」

「分かった分かった利奈。さ、莉乃も食べるぞ」

「うん!」


戦場だとしっかりする翔輔も家では気を緩めてくつろぐのであった。


「おいお前ら、ゆっくり食えよ?」

「そう言うアンタだって凄い勢いで食べてるわよ!?」

「お姉ちゃんも言えないよ?」

「莉乃もだろうが」


3人共お腹が空いていたから、凄まじい勢いで完食した。


「ふーっ、美味かった。ちょっとシャワーだけ浴びてくるな」

「分かったわ。私達はもう入ってるから」


風呂場へ入ってシャワーを出しながら浴槽の栓を抜く。

風呂から出て着替えた頃には食事の片付けも終わっていた。


「お兄ちゃん、大事なお話があるの。聞いてくれる?」

「話?」


莉乃に呼ばれてリビングに行く。

利奈が座って待っていたので向かいに座り、

話が切り出されるのを待っていた。


「ゆっくりでいいぞ?話す内容がまとまってから話せばいい」

「大丈夫よ。私達、青龍高校を受験するわ」

「ん、分かった」


利奈達は今年3年生、つまり高校受験なのだ。

受験する高校について伝える利奈の中では結構重要な事だったのだが、翔輔は特に深く聞きもせずあっさり返事をした。


「どうして深く聞かないんだ?って顔してやがるな」

「っ........そりゃそうよ!」

「なんで俺がお前ら2人の進路に口を出さなきゃならない?聞きたい事やら相談なら答えるがお前らの人生だ。俺なんかに影響されず好きにやれ。人にやれって言われてやるより自分が選んだ事をやる方がよっぽどいいぞ?」

「お兄ちゃん......ありがとう!」

「まぁ、感謝はするわ」

「おう。後悔しない生き方をしろよ」


ニコッと笑う翔輔。

だが、利奈には1つだけ質問があった。


「ねぇ、1つだけいい?」

「なんだ?」

「アンタは今、後悔しない生き方をしろって言ったわよね?アンタは今の生き方に後悔はないの?」


利奈の質問ももっともだった。

高校生にして両親は居ない、妹2人を養う為戦争をする。

そんな生き方に後悔が無いのか疑問になったのだ。

翔輔はなんだそんな事かと言ったように答えた。


「ねぇよ。両親が居なかろうが戦争してようが関係無い。寧ろ心の底から今の生活は楽しめるぞ?別に学園防衛隊で名を上げたかった訳じゃないがそこそこ有名になっちまった。そりゃあ幸運な事だろ?俺はこの道で生きると決めたからな、誰になんと言われようと学園防衛隊を辞めるつもりは無い。自分の道は自分で切り開いて来たからな」

「自分の道は自分で切り開いて来た、ね。アンタらしいわ。私達は寝るわね、おやすみ」

「お兄ちゃん、おやすみなさい!」


満足のいく回答を得た利奈は莉乃と共に寝室に向かった。

翔輔も寝ようかとも思ったが、携帯電話に塚内幕僚長からの着信があった事を見てかけ直した。


「塚内幕僚長、申し訳ない。1回目で電話を取る事が出来なくて」

『いや、構わない。なにぶん夜だからね。本来なら明日にするべきなのだが、それどころでは無くなってしまったのでな』


夜に電話が来るケースはかなり珍しい。

そこまでしないといけない事態があったという事だ。


「一体何が?」

『パソコンを起動して貰えるか?そこに画像を送りたいと思う』

「了解.....起動しました」

『転送するぞ』


パソコンを立ち上げ、送られた画像を見る

数枚の画像が送られてきたが、1枚目は港に入る洋上艦の画像だった。

だが、かなりボロボロで何かの攻撃を受けた様だった。


「こいつは、ロシア海軍のスラヴァ級ですか?だいぶ痛めつけられた様ですが」

『うむ、そのスラヴァ級は本日18:00頃に函館の海上自衛隊基地に緊急で入港したのだ』

「緊急?一体何が?」

『日本海に逃走した不審船の追跡中に所属不明艦艇の攻撃を受けて中破したので応急修理の為、という事だ。多くの証拠、供述から攻撃した艦艇はアメリカ海軍のデモイン級重巡洋艦だと思われる』

「デモイン?デモインにスラヴァがやられますか?」


翔輔の疑問は的を得ていた。

中破し緊急で入港したスラヴァ級は旧ソ連時代に作られたミサイル巡洋艦でアメリカ海軍の空母打撃群を仮想敵にしていただけあって対艦攻撃力はかなり高い。

にもかかわらず第二次世界大戦中のデモイン級重巡洋艦に攻撃され中破したというのはにわかに信じがたい。


『それは私も思った。が、1隻で無かったとすれば考えられるだろう。2枚目の写真を見てくれ』

「了解です。...コイツは!?」

『ああ、中華イージスこと蘭州ランチョウ級駆逐艦だ。青島基地が制圧されているから、まさかとは思ったが』

「それだけではないようです」


デモイン級が勝てた理由、それは中国海軍の蘭州ランチョウ級駆逐艦が居たからであると想定された。

中国海軍の青島チンタオ基地が占領されているので鹵獲運用されている可能性は考えられていたが、確認されたのは初めてであった。

しかし、翔輔は別の存在に気付いた。


『何か見つけたか?』

「3枚目、デモイン級の後ろにもう1隻居ます」

『それは蘭州級駆逐艦では?』

「いえ、違います。艦橋の形と位置が。見た事あるぞ?...思い出した!!コイツです!」


3枚目の写真、デモイン級の後方に位置する艦艇。

塚内は蘭州級駆逐艦だと思っていたが、翔輔は違うと考えた。

そして、自身の記憶の中から酷似する艦艇を引っ張り出しネット検索にかけた。

数秒でヒットし画像を塚内に送る。

その画像を見た塚内は驚いた。


『画像の船とぴったり一致しているじゃないか。何だ?この船は 』

「コイツは原子力打撃巡洋艦、アメリカの原子力巡洋艦です。計画途中で中止されましたが、トマホーク巡航ミサイルやハープーン対艦ミサイル、Mk.26連装ミサイル発射機を備えていたはずです」


原子力打撃巡洋艦

アメリカ海軍が計画した原子力巡洋艦である。

対水上戦闘力が優先され、対艦攻撃力はスラヴァ級を凌ぐ程だ。

しかし、コスト面の問題から建造されずに終わった未完の艦艇である。

そんな物を持っているとは思わない塚内にはかなりの衝撃だった。


『そんな物を奴らが持っているとは....防衛計画の練り直しが必要だな。意見をありがとう』

「いえいえ、計画はお願いします」

『任せてくれ。それでは』


電話を切り、パソコンの電源を落とした翔輔はすぐさま布団に潜り込み寝てしまった。

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