2限目「暇ですか?」「戦後処理があるので暇じゃないです」

「アリステメェェェェェェ!!」

「な、何よ突然!」

「有刺鉄線壊しやがったなァァァ!?またか?また爆薬の量間違えたのか?そんな訳ねぇよなァァァ!ぜってェわざとだろォォォォォ!!」

「しょ、しょうがないでしょ!?最近TNTからC4に変わったばかりなんだから!まだ慣れてないのよ!」

「そうですかァァァァァ!!畜生また有刺鉄線要請しなきゃならねぇのかよォォォ!!」


ヘルメットやら銃やらプレートキャリアやらを武器庫に置いて窓から外を見た瞬間、ロンメルはこうなった。

理由は簡単、アリスが先の爆破で元々あった有刺鉄線を壊してしまったのだ。

壊したと言っても別にわざわざ有刺鉄線の下に爆薬を仕掛けて爆破したりはしていない。

ついこの前、使用する爆薬がTNTからC4へと変更されたため、まだ慣れていないのだ。

その為有刺鉄線が爆薬の加害範囲に入る結果を招き一部を纏めて吹き飛ばしてしまった。

ロンメルにとって有刺鉄線の要請は結構めんどくさい。

一部とは言っても壊されるとイラッとするのだ。

今ロンメルはその手間を考えて窓枠にかじり付きながら涙を流している。


「まぁエエわ。里々朱の爆破で1発も撃たないで済んだから爆薬の補給だけ要請すりゃあイイしプラマイゼロって所だからな。気にすんな」

「........ありがと、翔輔」


アリスこと愛内あいうち 里々朱りりすの頭を優しく撫でるロンメルもとい玖珂くが翔輔しょうすけ

(何だかんだ言って隊長は副隊長に優しいんだよなぁ〜)

(里々朱さん、顔赤くしちゃって...乙女ですわね〜)

(隊長、人前でも気にせずやる所がかっけぇっス!)

そんな二人を見てニヤニヤする三人を見つけて翔輔は何かイラッとした。


「何だよ。浜内、真梨乃、羽山お前ら何かあんのか?」

「いや何でもないでっせ。新型の話を聞きたいだけですわ」

「あ?ああ、確認したら1週間程で届くらしいぞ」


ハマーこと浜内はまうち 陽野ようのは自身の武器の事を話して助かる。

彼は自分に被害が及ばないように関しては頭が回るので翔輔はそこそこ頼りにしている。


「私はコールネームのことですわ。何故私のコールネームはペッタンなのですか!?」

「そりゃあお前、ぺったんこだからだろ」

「答えになってませんことよ!?確かにぺったんこですけれども!」


ムキー!!と言う擬音が聞こえそうに怒るのは西宮にしみや 真梨乃まりの

こっちはコードネームの話をしているが、真梨乃のコードネームがペッタンなのはお察しの方も居るかと思うが胸がぺったんこだからである。

余談になるが里々朱は大きいので凹凸コンビと呼ばれていたり。


「自分はライフルについてっす。もうちょいマシなの無いんすか?M14EBRとは言わないっすけどドラグノフとか」

「お前M14EBRとかほぼ確実に無理やろ.....ドラグノフはロシア軍と交渉じゃねぇかよ。来ても64式の狙撃タイプだぞ?それとも何処ぞの13宜しくM16にスコープ着けるか?」

「64式狙撃銃ならともかくM16にスコープ着けるのは勘弁っすわ」


さっきから狙撃銃の話をしているのは部隊唯一のスナイパー、アーチャーこと河野こうの 羽山はやま

スナイパーを務めるだけあって射撃の腕はかなり良く、M1Cを使った狙撃支援は部隊にとって頼れる手段になっている。

ロンメル、アリス、ハマー、ペッタン、アーチャーの5人がここの学園防衛隊だ。


「とりあえずお前ら今日はもう帰れ。とっとと帰って休みやがれ」

「隊長はどうされますの?」

「あ?俺は有刺鉄線の要請だよ。そんなにゃ遅くなんねぇよ」

「わ、私も手伝うわ」

「そういうこった。さ、帰った帰った」

「里々朱さんが居れば無理しませんでしょうし、私達は帰らせて頂きましょうか」

「せやな。無理せぇへんといてな」

「じゃ、お疲れっす」


浜内、真梨乃、羽山は帰り翔輔と里々朱の二人きりになる。


「つってもなぁ、手伝う事なんぞ何もねぇんだよな」

「じゃあ、お茶でも入れるわ」

「そうしてくれや。何も仕事が無けりゃ執務室のソファーで休んでてくれ」

「え、でも翔輔が仕事してるのに私だけ休む訳にはいかないわよ」

「イイってことよ。今回は爆薬設置で酷使したからな、休んどけ」


そう話をしながら二人が入ったのは執務室と呼ばれる部屋であり、ドアを開けると正面に大きな机が鎮座しパソコンもある。

右側を見ればソファーに挟まれる様にテーブルもセットされている。

各学園防衛隊の隊長にこの様な部屋が与えられているのは珍しい事でも無いが、普通は空き教室の様な簡素な部屋であり、ここまで揃ったのは翔輔のの結果だ。

学園防衛隊の隊長は必要品...つまり武器弾薬や爆薬、ヘルメットにプレートキャリア等は補給要請を出したり今回の様に防衛用設備の補習要請をしたりと防衛隊の事務仕事は基本的に隊長の仕事になっている。

一部の例外としては防衛隊の事務仕事専門の学生を募っている所もあるらしいが、翔輔はそれでミスされると困るのは自分達であり、そこの間の関係悪化は兵站の不調に直結するので自分でやってミスした代償は自分が払う、そんな考えを持っているので事務仕事も自分でやっているのだ。

執務室隣には仮眠室もあり、余りにも大量の書類で夜遅くになった場合翔輔はここに泊まる事もある。

翔輔は椅子に座り机に向き合うとパソコンを起動してから書類を書き始めた。


「何でパソコン起動したの?」

「塚内さんに新しい武器要求しようと思ってな....と言うか丁度来たから答えるわ。ちょっと静かに頼む」


パソコンを起動するとほぼ同時にテレビ電話の着信があった。

これはSkypeと同じ様な物だが、防衛装備庁が開発した物であり、秘匿性も高いので自衛隊、学園防衛隊双方に使われている。

応答をクリックすると画面に一人の男が映し出された。

陸上自衛隊幹部の緑の制服を着ており、胸には大量の防衛記念章が着けられている。


「塚内幕僚長、もしかすると何回か掛けました?」

『いいや、1回目だよ。玖珂くん』


画面の向こうに居るのは塚内つかうち 武人たけひと幕僚長。

陸上自衛隊の幕僚長であり、翔輔と頻繁に連絡を取っている。


「それで、用件は何でしょうか?」

『うむ、最近能登半島上陸作戦の準備が進行中との情報があった』

「能登半島上陸作戦、ですか。目的は石川県を攻略する事ですかね」

『恐らくだがね。日本海で大型の国籍不明艦船を目撃したとの情報も入って来ている。十分注意してくれ』

「対策としては?」

『88式地対艦誘導弾の部隊を上陸の可能性が高い所に配備している。空自からもF2の援護が得られると思われるよ。ただ、海自は海洋航路の護衛警備で手一杯らしくてね、潜水艦数隻を回すのが精一杯らしい。君の用事は?』

「あー、もうちょいマシな銃器を回せないかと思いましてねー。それと新型のロケットランチャーの種類を聞きたいんですわ」

『新型のロケットランチャーはSMAWだ。アメリカ海兵隊から供与されるのがある。もうちょいマシな銃器...と言うと?』

「もうちょいマシなのですよ。M4とかSCARとは言わないですけどM16か64式無いんすか?ウチのスナイパーは最低でも64式狙撃銃かSVDがご希望の様ですよ。M14EBRとかありゃあ最高ですけど」

『M16か64式、それにスナイパーライフルか、分かった。マシなのを探しておこう。数日後にまた掛ける』

「了解です。では」


そう言って電話を切る。

翔輔が書類を書き終えるには更に30分程を要した。


「おい、里々朱終わったぞ....って、寝てんのか......」


書類を書き終えると里々朱が座っていたソファーでスースーと規則正しい寝息を奏でていた。

(やっぱ疲れてんだろうな)

そう思いつつ自分も里々朱の隣に座る。

フカフカのソファーは疲れていると安易に眠ってしまいそうだ。

と、翔輔にも眠気が襲って来た。

(いやいや、俺が寝る訳には........)

そう自分に言い聞かせて抵抗するも無理だった。

数分後には翔輔もソファーで眠りに落ちたのだった。

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