バレンタインデーなんか大嫌いだ!

前田渉

第1話 魔のバレンタインデー!

高校受験は大変だった。


志望校をいきなり変更したのが原因・・・。


都立で一番のN高校に入る予定だったのが、魔のバレンタインデーを経験したことで、男子高に行くことに急遽変更した。


男の意地だった。


幸せなバレンタインデーから始まる高校受験。一緒の高校を受けてホワイトデーを迎える。

それから一緒の高校に行ってゴールデンウイークはベタだけどディズニーランドに行く。

夏休みにサマーランドで彼女の水着を見る。

そんな幸せな日々を想像してた。


バレンタインデーの朝が天国で帰りが地獄だった。


僕には二才年上の姉がいる。

年上の姉には失礼だけと、凄く生意気だ。小さい時から苦手だった。

僕の身長が175cmある。姉が155cmで20cmも背が低いのに僕に命令ばかりする。

コンビニでコーラ買って来てとか、リモコン取ってとか、お風呂を掃除しといてとか、

僕の姿を見つけただけで、あれやれこれやれと、とにかく煩い。


本当に苦手な存在。


名前は麗華。凄くおしとやかなイメージがあるけど全く違う。確かに可愛い。外見はだ。


僕の家の家族構成は、両親に姉と僕の四人家族。父親が特に酷いんだけど家の中では服を着ない。

大体、全裸。裸族なんだな。父は分かる。普通は分からないけど、父親が許せる。でも、母も姉もだ。

特に姉は父と変わらないくらいだ。母の方がまだ恥じらいがあるくらいだ。一番家で服を着てるのが僕とか、あり得ない家族の中で育った。


自分でも認めるシスコン。


バレンタインの前日は日曜日だった。僕は朝から美容院に行った。

明日からバラ色の生活が待っている。帰りは一緒に手を繋いで帰ろうとか、スタバに寄ってゴールデンウイークの計画を立てる話しをするとか、勝手な妄想を描いていた。とにかく有頂天だった。


家に帰ると母と姉からバレンタインはチョコとケーキとどっちがいいと聞かれた。

僕は要らないと答えた。余裕の笑顔。家族からとか、義理チョコは要らない。

明日、本命チョコをもらえるから他のは要らないと自信たっぷりに言った。


姉がいきなりパンチ。生意気言ってるんじゃない。どうせ、あんたがもらえる訳ない。

強気でいられるのも今のうちだけと笑っていた。


バレンタインデーの当日。

学校に着くと、みんながそわそわしているのが分かった。

真っ赤な顔をした女の子が本命チョコを渡す相手に告白している場面を何回か見た。

放課後に体育館に来て欲しいとか、屋上とか、お決まりのパターン。


僕にもそろそろ声が掛かると思ってたから、少し緊張して待ってた。


朝には何事も起こらなかった。

お昼休みも、周りは騒がしかったけど、僕にも何も起きなかった。


授業が終わった。

普通なら直ぐに帰るのに、意味もなく教室に残ったりしてた。

それと、なるべく単独、一人になって声を掛けられやすい状況も演出したりもしてた。


お目当ての彼女とも話したし、目も合わせたのに、進展はなかった。


外は真っ暗。彼女も帰ったようだ。


こんなに惨めな思いをしたことがなかった。


僕は生徒会の会長。彼女は副会長。半年間、毎日言葉を交わしてた。

姉と違って優しくて可愛らしい。女の子らしい理想の彼女だった。


実はバレンタインデーの少し前に生徒会室でバレンタインデーの話しになった。

甘いのいいのとか、そういう話し。間違いなく僕の好みを確認してる。

彼氏がいたことがないこともリサーチしてた。

僕が初彼氏。僕にとっても初彼女。正直、自信があった。


家までの徒歩で数分。大きな公園を抜けると自宅が見える。


家に帰ると、姉が飛んできた。相変わらず服は着てない。

チョコは、チョコはと煩い。

その姉に言い返せないくらい落ち込んでた。多分、涙目。

悔しかったのは、彼女がきっと他の誰かにチョコを渡しているに違いないと思ったからだ。

怒りに震えてる自分がいた。許せない。許さない。

彼女は違うと思ってた。優しくて、可愛くて、僕を大好きで、チョコをくれる。


でも、違った。バラ色の高校生活の音を立てて崩れ落ちた。

同じ高校には通えない。通いたくない。もし、同じ高校に彼氏がいたら、もう立ち直れない。

見たくない。他の男と仲良くしてる彼女なんか、死んでも見たくない。

そう思ったら絶対に私立のK高校に行くと決めた。

それから猛勉強して合格した。

彼女は都立N高だと思っていたら、進学したのは東大進学率が高い私立の女子高だった。


この魔のバレンタインデーを境に、僕は女の子を信じないと決めてた。

玄関で涙流して姉の胸で泣いてしまった。身長は低くて痩せてるのは胸が大きい。

姉に頭をいい子いい子されたのは、何年振りだろう。


これが僕の経験した魔のバレンタインデーだ。

この夜、母と姉の作ったチョコレートケーキを父と一緒に食べたのを僕は決して忘れない・・・。


高校に入学したけど男子校。傷が癒えるのには凄くいい環境だった。


勤労感謝の日に家でだらだらしながらテレビを観てた。スマホに姉からのラインが入った。

駅に迎えに来ること。買い物したから荷物を持って欲しい。そう書いてあった。

嫌々だけと姉には弱い。特別用事もないし本屋にでも行くついでに駅に行くことにした。


駅前の本屋さん。小さい時からよく来てた。

「もしかして、郁君?」そう後ろから話しかけてくる声がした。女の子の声だ。それも聞き覚えのある声。

忘れる訳はない。振り向くと、卒業以来の彼女の笑顔がそこにあった。

彼女の名前は愛。名前も可愛いけど顔も可愛い。身長は160cmあるかないかくらいだった。

「久しぶり」そう笑う彼女は以前と変わらない天使みたいな笑顔だった。

実は、バレンタインデーの次の日から彼女のことを少し避けてた。最低限の会話だけにした。

ラインもしない。出来る限り関わらないようにしてた。


変なプライドかな。


愛が笑顔で話しかけることに苛立ちも感じてた。そっとしておいて欲しかった。

僕の気持ちに気づいていると確信してた。両想い。相思相愛。でも、違った。


他愛もない会話だけしてこの場を立ち去ろう。そう思っていたところに、後ろからいきなり飛びついてきたのが麗華だった。誰?彼女?酷い!私という彼女がいるのに、いきなり浮気とか言ってる。愛もびっくりしてると・・・。冗談よ。姉の麗華ですと自己紹介をした。

姉は可愛い子ね。彼氏はいるのといきない聞いた。彼女は、恥ずかしそうに彼氏はいません。

そう答えた。姉はさらに食い下がった。彼氏いたことあるとかしつこかった。

つき合ったことはないけど、失恋したことはありますって正直に答えてた。

麗華が勿体ないね。こんなに可愛いのにって僕に振った。

郁とつき合えばいいのにって言ってる姉の横で、僕はずっと考えてた。

愛を振った男は誰れだだ。そうもやもやしながら考えてると、家に愛を招待する展開に発展してた。


さすがに姉も家に連絡。父と母にお客さんを連れていくことと、服を着とくようにと連絡してた。


家に着くと、父も母も大喜び。愛が可愛かったからだ。


そこで、麗華がバレンタインデーの話しを持ち出した。

僕が前日に美容院に行ったこと。義理チョコは要らないと宣言してたこと。

本命チョコをもらう気満々で学校に行ったことを話した。


愛が誰からチョコをもらったのかを聞いてきた。


両親と姉は爆笑。

チョコはもらえなかった。

ずっと一人になる演出を夕方まで虚しくして、家に着いたら暗くて・・・。

麗華の胸で泣いたとか余計なことを言い出した。

チョコをもらえなかったショックで都立N高から私立のK高にしたと裏話までし出した。

男子校に行きたかったらしいと・・・。


その話しを聞いて愛がいきなり、そんなことはない。


私は郁をずっと公園で待ってた。そう言ったので、全員がびっくりした。

郁。麗華が言った。郁が好きな女の子って愛ちゃん?僕がもう隠しきれないと思って白状した。


そうだよ。でも、振られたし、もういいんだ。バレンタインデーの日のことは忘れたい。

愛が、私は忘れない。それに、知りたい。おかしい。

私はずっと公園で待ってたのと、さっきの話しを持ち出した。

麗華が公園で待ってたの。誰を?誰に失恋したのと聞いた。


愛が郁君と越えた。郁?おかしいよね?

お互い好きなのに、お互いに失恋とか・・・。


郁は、愛ちゃんが公園で待ってたのになんでいかなかったの?

そう麗華が聞いた。


僕は、知らなかった。そんな話しは聞いてない。そう答えると麗華が愛に聞いた。

直接郁に公園に来るように言ったのと聞いた。


愛は郁のカバンの中に入れた。ラブレターを入れたと言った。


麗華が僕に直ぐに二階に行ってカバンを持って来なさいと言った。

僕は慌ててカバンを取りに行って戻って来た。

カバンの中を探したら、愛からのラブレターが見つかった。


ラブレターを読むと、大好きです。郁の家の前の公園で待ってます。

もし、好きじゃないなら郁君の部屋の電気をつけて下さい。

愛は諦めて帰ります。次の日から卒業まで普通にして下さいと書いてあった。


麗華が、愛ちゃんは彼氏はいないんだよねって確認した。

愛はいません。つき合ったこともありません。


実は、郁君が忘れられなかったんです。

今日も偶然見かけたので、勇気を振り絞って声をかけたと告白した。


麗華がいきなり大きな声で私がキューピット!

私が郁を駅まで迎えに来させなかったらこうはならなかった。

私が愛ちゃんを無理やり家に連れて来なければ真実は分からなかった。


一生発覚しなかったり、気が付いた時には遅かったがある。

愛ちゃんは中学生の時もまま綺麗なままなんだぞ。

郁、ありがとうは!愛ちゃんもありがとうだよねと僕と愛にありがとうを催促した。


その後は、僕の部屋で二人で話した。初めて女の子を自分の部屋に入れた。

どの部屋なのかは愛は知ってた。でも、家にあがったことはなかった。


行き違い。すれ違いの時を越えて、やっと繋がった気がする。

これでますます生意気に姉に頭があがらないとか思いながら、


愛と手を繋ぎながら初めてキスをした。


~ 続く ~






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バレンタインデーなんか大嫌いだ! 前田渉 @wataru1610

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