疑念と疑惑

康太の斬撃をモロに受けて、ヴォイドは後ろによろめく。


「入った!」


康太は追撃と言わんばかりに踏み込むが、ヴォイドが黒い炎の壁を作り出して距離を取る。

康太は壁を切り裂くと、自分の間合いの外までヴォイドに逃げられてしまい、剣を構え直した。

一方ヴォイドは、片膝を地面に突き、右手で斬り付けられた胸の部分を抑えている。


「くそ。急に強くなりやがって。ビビるじゃねえかこの野郎」

「もう諦めて大人しくしてくれないっスかね。別にこっちは殺す気ないっスから」


康太がそういうとヴォイドの身体が震える。

次第にクックックという笑い声にだとわかる。


「いや、ここで諦めたら勿体ないだろう?もっとヒリつく戦いしようぜ!!」


そう言って急に立ち上がり、地面に落ちているレーヴァテインを拾いにヴォイドが駆け出す。


「霊気・・・」

「少し判断が遅かったね」


銃弾の放たれる音が屋上に響き渡る。

それに続きどさりとヴォイドが倒れこむ音が続く。

ヴォイドの背後に弾がいつのまにか回り込んでいて、ゼロ距離で銃弾を後頭部に打ち込んだ。

しかし、辺りに出血はおろか傷跡すらも見当たらない。

果たしてヴォイドはどうなったのだろうか。


「死んだ?」


恐る恐る康太は弾に訊ねる。


「いや、ショックバレッドと言ってね。気絶させただけだよ」


弾は帽子をかぶり直しながらそれに答える。

ひとまずの決着に一安心する康太。

康太は纏いの状態を解除し、元の学生服の姿に戻った。

そしてヴォイドの方近づき、観察をする。


「それより今何しようとしてたんスかね」

「霊気解放だろうね」

「なんスかそれ?」

「そうだね。人間は大抵100パーセントの力を使えないという話は知っているかい?」

「なんかテレビとかで聞いたことあるっスね。リミッターがどうとか」

「そう。魔力についてもそれは同じでね。そのリミッターを外すのが霊気解放だ」


なるほどと康太は納得する。

しかし、そんなことをしても纏いの状態の自分であればなんとか出来た自信が康太にはあった。

そのためかそれほどの驚きはなかった。


「最も、体への負担も半端ないし、使える人間もかなりの魔術師じゃなければ使えないだろうね。冠位や魔法省の支部長クラスぐらいなら使える人がいるってくらいかな」

「あんたも使えるんスか?」

「どうかな?試したことはないけどやろうと思えばできるかもね」


冠位の魔術師の霊気解放。

少しばかり興味をそそられた康太であったが、今自分の置かれている状況が状況の為、そんなことを考えている余裕がない。


「さて、対象も確保したことだし、次だ」

「次?」

「君は一体何者だい?」


そう告げる弾の顔は笑っていなかった。

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