3度目

突如として現れた康太はヴォイドを吹き飛ばすと訪れたのは静寂だった。

2人の冠位を持つ魔術師はポカンと口を開け、リーシャを武器化させた康太の姿を見る。

大きな剣を携えるその姿は年齢に見合わず、恐ろしいくらいに修羅場をくぐり抜けてきた剣士のそれだ。

そんな少年に目を奪われるも埜々はハッとその少年の正体に気がつく。


「君、確か智香の……?」


それに対して康太は慌てるように剣を握っていない左手を全力で振る。


「なんのことでしょう!人違いでは!?」

「え、でも」

「僕は通りすがりの正義の味方ですよ!ははは!」


あまりにも苦し紛れの言い訳に康太自身も嫌になったのか。

高らかに笑った後に大きなため息を吐いた。


「ともかく、お二人方。ここは任せてもらっていいんであっちをなんとかしてもらっていいっスか?」


さっきからすごいことになってるんスけど、と付け加えて指を指す。

その方向には巨大な魔獣が巨大な水龍に巻きつかれており、全身の身動きが取れないような状態になっていた。


「あれは由美子ちゃんの魔術か。間に合ってくれたようだけど、あれほどの大きさだと」


長くは持たない。

その場にいる全員は理解していた。

由美子があの水龍で攻撃ではなく拘束をしていると言うことは、あの魔獣は以前の巨大トロールのように高い再生能力を持っているのだろうと。


「埜々ちゃん。君は由美子ちゃんを助けに行ってあげてくれ。僕か君じゃないとあれほど巨大な大きさの魔獣を消すのは厳しいだろう」

「わかりました!けどここは」

「大丈夫。彼と僕でなんとかするさ」


え!?と康太は焦る。

仮にも精霊使いは単独で戦う気とはあっても、誰かと共闘するなど滅多にない。

康太にとってもその状況は初めての経験だ。

正直なところ1人で戦う方がやりやすいと言うのが本音だ。


「別に一人でも大丈夫っスよ!」

「いやいや、魔法省の人間として、一般人に任せるわけにはいかないよ。それにあいつを捕まえないといけないしね」


ごもっともな正論だ。

仮にも公的機関の人間がいきなり現れたなんでもない人間に現場を任せるなど冷静に考えたらありえないだろう。

弾はヴォイドが吹き飛ばされていた方向を注意しながら確認して埜々に促す。


「今のうちに早く行きなさい」

「わかりました!」


そう言って埜々はセントラルタワーの屋上から飛び降りるように大きくジャンプした。

同時に魔法陣が展開されてその中に身体が吸い込まれ始める。

そして後出しをするように康太は大きな声で埜々に向けて話し出す。


「神草さん!ごめん。このこと内緒でお願いするっス」


埜々の返事を聞く前に彼女は魔法陣の中へと消えていく。

そして流星のごとく、魔法陣から一筋の光が疾りだし、巨人の方へと向かっていった。


「光の移動魔法っスかあれ?すご」


感嘆していると弾が康太の近くまで駆け寄り話しかけてけた。


「なんだい?やっぱり埜々ちゃんの知り合いなのかい?」

「まあ顔見知りって程度っスけどね」


そして弾は目を細める。

視線の先には康太が武器化させたリーシャに向けられていた。


「一つ尋ねたいんだけど君のそれ本当に魔術なのかい?」

「どういう意味スか?」

「なんというか普通の魔術のそれと違うんだよね。雰囲気が」

「雰囲気って言われても」

「別に根拠がないわけじゃないさ。眼がいいんでね」


そう言って弾は帽子を深く被り直した。


「まあ細かい話は後にしようか、奴さんもそろそろ動くそうだ」


弾の予見通りに炎の弾丸が3発。

康太に向けて飛んできた。

それを弾が銃弾を放ち、相殺した。

立ち込める煙の中からヴォイドが姿を現した。


「やってくれるじゃねえか少年」

「3度目っスねヴォイドとやら」

「たくっ、別にもう精霊は奪わねえって言ってんのにわざわざ首突っ込まんでくれんかね」


弾がピクリとヴォイドのセリフに反応した。


「けどまあいいや。折角だ。本気で相手をしてやるよ」


黒炎がヴォイドの背後から吹き荒れる。

それはさながら獄炎の如く

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