炎を裂く者
しまった
弾が気がついた時には遅かった。
ヴォイドの予想外の方法で回り込まれて、完全に遅れをとった。
埜々に向けられた矛先をもはや無傷で避けることは無理だと判断した。
であれば、何が最善なのか。
埜々と弾の距離的に、弾が埜々を突き飛ばす代わりに弾が槍に貫かれるか、埜々を見捨てて、弾が次弾を構え、ヴォイドに攻撃するかの二択だ。
もし、埜々がヴォイドの攻撃を防げるのならば話は別だが、完全に埜々も反応が遅れてしまっていた。
しかし、速さが売りの埜々は埜々の扱える魔術で最も速い魔術「クイックライト」がヴォイドの身体を突き抜ける。
だが、貫かれた箇所は炎となり、身体を元どおりに治癒させた。
弾は最早迷っている時間はないと思い決断をする。
弾は埜々を見捨てた方がこの場ではそれが正しい選択だと頭ではわかっていた。
現状埜々の魔術では黒炎を纏うヴォイドには効き目が薄い。
であれば弾はヴォイドへの攻撃を行うのが最善だ。
だが悲しきかな。
感情がそれを、いや人間性がそれを否定したのだ。
銃を構えることもせず、弾は駆け出した。
あと一歩踏み出すだけで埜々の体に触れるところまで来た。
彼女を突き飛ばせば、埜々はヴォイドの槍に貫かれることは無くなるが弾が致命的なダメージを受けることは明白。
埜々からすれば、気がついた時にはいかにダメージを受け流すことかだけを考えていた。
自分の位置からすればあの槍を自力で防ぐことは難しい。
何より、当然背後を取られ、反応が遅れたのが致命的すぎたのだ。
ならばどうするか。あの槍を急所から外すしかない。
そう思い放った「クイックライト」も焼け石に水程度の結果しか出さず、万事休すだ。
そんな矢先、自分を助けようと駆け出した弾の姿を見て「まずい」という単語が頭に思い浮かんだ。
このままでは二人ともあの槍の餌食となりかねない。
二人が最早万事休すの状態だ。
残酷に進み続ける時の流れを恨めしく思う。
ヴォイドに慢心は微塵もない。
その上でヴォイドはこの戦いは買ったと確信をした。
だが、何にでも予想外は起こり得る。
瞬間、時が止まったかのようにヴォイドが二人の背後を取るために出てきた黒炎の場所が真っ二つに引き裂かれた。
いや、正確には切り裂かれたのだ。
橙色の炎を纏う剣を持ち少年は颯爽と現れた。
ヴォイドもそれに気がつき、攻撃体制から咄嗟に少年に向き直り槍を構え防御の姿勢をとる。
少年は剣を叩きつけるようにヴォイドにぶつけ、凄まじい勢いで弾き飛ばした。
弾と埜々はポカンと口を開けただひたすらに驚くのみ。
まさかあの状況から他の選択肢が降って湧いて出るとは思いもよらなかったからだ。
そして埜々はその少年見覚えがあった。
同じ高校のクラスメイトである智香の友人の男の子だ。
そんま人が今この状況でこの場にいるということが理解が追いつかないと言った様子だ。
少年は辺りを見渡し、弾と埜々の姿が目に入り、目を見開く。
頭を掻くような仕草を見て、あたかもいたずらがバレた子供みたいな表情で困ったよな表情をした。
「....これもしかしてやらかしたかもっス」
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